第十一話 ホラー祭りへようこそ!
前回誤投稿をしてすみませんでした。こちらが真十一話です。
『わー、ホラー映画みたい』
俺は、人型をした闇ののっぺらとした顔を近づけられて、冷や汗を流した。
月夜によって積み上げられた、完全に気を失っているこの暗殺者達の処理をどうしようかと思案していたとき、泥沼から手を出していたそれは、突如ゾンビのようにそこから這い出てきた。こいつの正体は、実は未だに残っていた俺の魔法の、あの彼らを泥に引きずり込んだ闇の手の全貌だった。
それも生半可な数ではなく、さすがの俺も身を引く。だが月夜は平然とそれをみつめていた。だから、害のあるものではなさそうだ。
それにしても、だ。
「あれなんだよ?!」
思わず俺は闇人間達を指差す。
魔法ってあんなの出てくるのか?!それはアリなのか!
『うん、普通はナシだね。僕も初めての経験でびっくりだよ』
か・る・い!
神まで知らないってどういうことだよ。確かに全知全能ではないとはいってたが。
『うーん、僕が思う以上に、君は特殊な存在なんだねぇ』
なんか神が腕を組みながらのほほんとしている気がして、脱力する。座り込んだ俺の頬を、月夜は舐めた。
「おまえは、あいつらがなんなのか知ってるのか?」
「……にゃー、う~にゃー。にゃー、にゃーにゃーにゃー」
月夜のいっていることがなんとなくわかるようになったといっても、これだけの量の意思をまだ理解できるほどではなかった。
『なるほどね。そういうことか』
なにかわかったのか?
『……うーん。そうだね。説明ついでに先にいっておこうか』
「?」
『優人君。君さっき、自分の魔力が制御しきれていないことわかってたでしょ』
「……」
『君の周りに立ち上っていた魔力が暴走しそうだったことわかってたよね?それで、クロワさんを傷つけた人達だから、相手が傷つくならそれでもいいって思ってたでしょ』
「……」
『君が使った魔法は聖級魔法。魔法には難易度によって階級がある。下から順に初級、中級、魔級、聖級、神級。大体は難易度があがるごとに使用する魔力の量が多くなる。そのうちアンダーテイカ―は聖級魔法。それくらい上級の魔法を成立させるくらいの魔力だったんだよ。月夜ちゃんが君の魔力を導いて魔法を成立させなければ、暗殺者達はいいとしても建物の1つや2つが吹っ飛んでたんだ。月夜ちゃんの導きに素直に従ったのは偉かったけど、ちゃんと反省してね』
確かに、怒りにまかせて行動したのは、悪かった。
「ごめん」
『うん、君の怒りもわかるけどね。まだアンダーテイカ―は君一人で使える魔法じゃないから、しばらく使用禁止ね』
ああ。
『それでここからが本題。あの闇人間達は君の魔法で生み出されたものだ。普通魔法を使ったら編み上げた魔力は霧散するから闇人間達も消えるんだけど、月夜ちゃんがうまく魔力をまとめて維持しているんだね。彼女が君と契約した精霊だからこそできることだ。精霊は魔力を安定させることができるから』
は?
『まあ、深く考えなくていいよ。つまり、君の魔力によって生み出されたものを月夜ちゃんが使っているってこと。まあ、いつでも何度もできることじゃないけど』
「はぁ…」
よくわからないが、要するにあいつらは月夜が操っているってことでいいのだろうか。
と、俺が一応納得したとき、闇人間の1人が俺に近づき、山となった彼らを指差して、まるで、あいつらをどうしたらいいの?と尋ねるように首らしき部分を傾げた。
身長はおれよりもはるか高く、190cmくらいだろうか。見下ろされる感覚に多少ムカッとする。
「にゃー」
月夜が一声鳴くと、俺を見下ろしていた闇人間が顔を近づけるのをやめる。
すると月夜は山になった暗殺者達をみたあと、こいつらどうする?殺る?と視線で問うた。
いやいや、俺になにさせようとしてるんだよ!
「とりあえず、周りに迷惑かけない場所に運びたいな」
すると這い出てきた闇人間達はいそいそと、舌を切らないように口に小石を詰め込まれた彼らを担ぎ、ゾロゾロと運んでいく。ソエルの森の方向に進んでいるようで、俺の事情をよくわかっているらしい。
あの乱暴な運ばれ方では、舌は切らずとも口は切れていそうだ。
とりあえず、あの闇人間達のあとを追おうと思ったが、おっさんのことを思い出して足をとめた。
呪いの解除は済んだとしても、またここが襲撃される可能性だってある。ここを離れるのはマズいんじゃないのか。俺にできることなんてほとんどないけど。
そう思って振り返ると、2人の闇人間が門番のように店の前に立っていた。そして俺にむかってここは任せろとばかりに親指をたてる。
正直不気味以外のなにものでもない。
月夜をみれば、しれっと俺の横を通りすぎた。これで問題ないでしょ?と背中が語っている。
さすがに闇人間だけあって、店から漏れる明かりや店の外灯に居心地悪そうにはしていたが、大丈夫そうだと判断した。正直、もはやどうつっこんだらいいのかわからなかった。
今度こそ俺は、ソエルの森にむかった。
ソエルの森では、闇人間達によるホラーの宴が開かれていた。
『優人君、なんとかしてあげなよ』
「悪い、無理だ」
「にゃー」
月夜、確かこれ、おまえが操ってんだよな?
ソエルの森に着いた俺は、月夜について森のとある場所にたどり着いた。まあ、とある場所というか、普通に木が生い茂る場所なんだが。
おっさんのとこから借りたランタンの光の先には、闇人間が暗殺者を木から逆さまに吊るしあげたり、傍に闇人間達がいて、植物の蔓を鞭のように持っていたり、赤黒い液を塗ったりしている光景があった。
「あれはなにをしているんだろうな?」
『たぶん、尋問とかの準備だと思うけど……』
まあ、確かにききたいことはいろいろあったし、俺は口の堅い人間から話をきく方法を知らないから助かるといえば助かるんだが、それとは別の意味で恐怖というか、あれが俺が使った魔法から生まれたという複雑さとか、いろいろまざった感情が渦巻く。
とりあえず俺は、それらに近づいた。すると闇人間達は作業をとめて俺をみつめる。顔がないからみつめるという表現はおかしいが、そんな気がした。
とりあえず、話をきくために選んだのは、あの趣味がストーカーの暗殺者だった。
暗殺者4(趣味ストーカー)
HP 360/380
MP 65/65
LV 36(通常)
「ちょっとききたいことだあるんだが。あんた達を雇ったのは誰だ?」
「……」
そのストーカーは無言だった。すると闇人間が蔓の鞭を振るう。
「っ!くっ」
「おい、やりすぎるなよ」
多少なら問題ないが。
ところがそう思った俺の意図は伝わらなかったらしい。闇人間は否定されたとガーンとショックを受けた動作をしたあと、地面に「の」の字を書き始めた。
めんどくせぇ!しかも、この世界に「の」の文字ってないだろ?!
すると別の闇人間があの赤黒い液体をそのストーカーに塗り始める。おい、その液体を入れたバケツは、まさかおっさんのところからもってきたやつじゃないよな?
『これ、動物の血液だね。このまま放置してたら魔物が血に惹かれて寄ってきて、下手したら食い殺されるよ。うわー、エグいなー』
「……」
おっさん、すまん。明日のバケツはたぶん血なまぐさい。
暗殺者もなにを塗られ、その後どうなるのか想像したようで、悲鳴をあげた。
「ひぃっ!わかった喋ります、喋ります!俺達を雇ったのは第二皇女です!」
あっさりと首謀者が誰なのかを吐いた。
「また、リリアかよ!」
その名前は聞き覚えがありすぎるもので、まだあの女が関わってくるのかと怒りを通り越して呆れてくる。
「なんでおっさんを襲った?」
「クロワルドではなく、店で働く少年を確保しろっていう指示だったんです。もし手こずれば始末しろといわれました」
どうやらおっさんを狙ったわけではなく、俺を狙っての襲撃だったみたいだ。
「そんなに簡単に俺に話してもいいのかよ?」
「どうせ報酬はケチりにケチられたんで問題ないです」
なるほど。
「これくらいしか俺達は知らされてません!お願いです、命だけは助けてください!俺はまだ、アリスちゃんを影から見守るという使命があるんです!」
「残念だが、おまえはここで死んだほうが世の中のためだ。アリスとやらもそのほうが安心して過ごせるだろうしな」
『確かに』
ストーキングは犯罪だ。とりあえずこいつは首まで地面に埋めておく。闇人間に指示を出すと、嬉しそうに穴を掘りだした。
まさかその手にもっているスコップはおっさんの……以下略。
『それにしても、またあの子は……』
「まったくだな……」
たぶん勇者関係のことだか魔剣関係のことだかは知らないが、そのどちらかで俺が邪魔になったんだろう。それはまだいいとしても、おっさんを巻き込んだことだけは許せない。
「……街を、出るか」
「にゃー?」
月夜が下から見上げる。
「俺がいたらおっさんに迷惑がかかるってわかったからな。準備も完璧じゃないがある程度はできてる。予定より早いが……」
『……それでいいの?』
俺は笑う。
「ただで出て行ったりしない。おっさんは死にかけたんだ。そこそこ荒らしてから出ていってやるよ」
『優人君、悪い顔してるよ?』
「当然だろ?」
俺はにやりと笑う。
やられたらやり返す。
『倍返しだ!』
なぜあんたが先にいうんだ!
パン屋に戻ると、そこを守っていた闇人間2人が俺に近づき、そして俺に触れると同時に消えた。なぜだか体の中に何かが流れ込んだ気がする。
『魔力が君の中に戻ったんだね』
そんなことあるのか?
『うん、僕も初めてみたよ』
俺はどんだけ特殊な人間なんだよ!
深く考えてもわからないことはわからないままにしておくとして、俺はおっさんの部屋へいく。ノックしてから部屋に入ると、おっさんはちゃんと眠っていた。確かめたら、呼吸もしている。傷も塞がっているようだ。
「……おっさん、いろいろありがとうな」
暗殺者達がもっていた魔法薬をベッド脇の机においた。俺を石化させて連れ出そうとしていたらしく、すぐ解除するための魔法薬をもっていたのだ。
もしまだおっさんの調子が悪かったら使ってほしい。
そして部屋を出ていこうとしたとき、声がかけられた。
「いくのか?」
振り返ると、目を開けたおっさんがこちらをみていた。
「おまえさんがワケありなのは、最初からなんとなくわかってた。だから引き止めはしねぇよ」
「……」
おっさんは身を起こし、ゆっくりベッドをおりると部屋のもう一つの扉を開けた。
「餞別だ。この中から好きなの一つ持っていきな」
「え?」
その部屋の中にはたくさんの武器が丁寧に納められていた。
「これは……」
「全部俺が作った武器だ」
「でも、俺は既におっさんからもらってるよ」
腰に巻かれた刃物セットを撫でる。
「そいつは、傷つけない刃物だ。今回襲われたってことは、またなんかに襲われるかもしれないってことだろう?自分の身を守る刃くらい持って行け」
俺は、ためらいながらその部屋に入っていろんな武器をみる。槍、ナイフ、剣、特殊武器などいろんな武器があった。その中の1つに、なぜか傘が置いてある。
それを手に取ると、おっさんが解説してくれた。
「そいつは、仕込み刀だ。他にもちょっとした仕掛けがあってな。傘の部分も丈夫にできてる」
確かに、傘の柄の部分を引くと刀が現れる。日本刀のように反っているわけではないが片刃で、それこそ日本刀に似ていた。
「おっさん、これもらっていいか?」
「ん?そいつでいいのか?」
「うん、こいつがいい」
「そうか」
俺は今度こそ、部屋から出る。
「おっさん。巻き込んでごめん。でもありがとう」
「おう。……また、帰ってこい」
俺は一瞬足をとめて、なにもいわず、店を出た。
副題 神様も、叱れるんです!
実はレベルのあがっていた優人君。
《隠しステータス》
緒方優人 オガタユウト
HP 29/31
MP 14300/14300
TA 260/260
LV 27
途中略
【剣技】 《纏》
【魔法】 アンダーテイカ―
【魔法属性】 地水火風光闇 以降増可
【称号】 異世界の旅人・〔本当の〕勇者・捨てられた勇者・神に加護されし者・乞食になった勇者・勇者になった勇者・旅立つ勇者・ホラーメイカー・半沢勇者
【スキル】
直感 LV10 逃げ足 LV8 索敵 LV9 鍛冶 LV3
【職業】
《勇者》《魔法使い》《鍛冶師》《ジェネラルコック》《薬師》




