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第百七話 人事を尽くして

ちょっと硬めの、車の座席のようなシートに座り、目の前に浮かぶ水色の球体のようなホログラムと、両手にはギアのあるコックピット。俺は口を半開きで上に下にと視界を巡らせていた。

「おー。…………おー-」

 アニメとか漫画でしかみたことがないような空間の中にいる不思議に、興味が尽きない。

「無事合体できたみたいだな」

 目の前の白い筒のようなものの上で浮かぶ、7水色の半透明なホログラムの八面体の石から、先輩勇者の声が聞こえる。

「ああ。マジで事故るかと思って焦ったけどな」

 初めて運転した車の操作を間違ったとかそういうことじゃない。戦隊ものの巨大ロボットが合体するのよろしく、とにかく他の乗り物にぶつかりにいけという指示だったのだ。ただぶつかることができれば車体が勝手に変形するとのことだったが、自分から衝突するという、自ら事故に飛び込むような行為にびびらないわけがない。

 ……実際にはびびりすぎて突っ込めなかった俺の車に電車が突っ込んできたうえに、衝撃もなく変形して合体できたおかげで恐れることはなかったわけだが。ちなみに電車の操縦していたのはイゼキエルだ。肝が据わりすぎてねーか、あいつ。

 そんなわけで、無事合体していま俺は巨大ロボの右腕と左腕担当だ。左足はエレノア、右足はイゼキエル。そして、どこにあるのかわからないがスピーカーから別の声が語りだされる。

「えーと、リリアの他にあと三人いるんだよな?俺は洋一って言います。知らない者同士協力?するのは大変だと思うけど、よろしくな」

「さすがです洋一様!他の方々への心遣いもお忘れないお言葉。お優しいですね!」

「あははは……」

 いつでも持ち上げることを忘れないリリアに、苦笑している姿が目に浮かぶ。

 そう、今回は俺、エレノア、イゼキエル、聖、リリアと協力してあの吹雪の巨人を倒さなければいけない。俺は声を伝えるわけにはいかないから、通信は切った状態にしながら、右側にアームで半固定されたパネルでチャットに( ´∀`)bグッ!を入力することで答えた。エレノアも俺と同じように絵文字が表示され、イゼキエルからは返答がなかった。あえてしないのか、操作法にまだ慣れてないのか謎だ。

 まさかこんな形で洋一と協力体制を築くことになるとは。あー、背中がヒリヒリする。

 巨大ロボがゴゴゴと音を立てて揺れる。目の前に映る外の光景で段々と視界が高くなり、ロボの頭上にある天井がぱっくり割れて、巨体が露出していくのがわかった。地下の床がせりあがっていっているらしい・

「目の前のは窓に見えるかもしれないが、あれは画像だ。機体頭部からの視界を全員が共有しているからな」

 ホログラムの石がチカチカ光る。

 車に乗り込んだ時点から先輩勇者が操縦方法やシステムを説明してくれていた。他の機体にぶつかれと指示したのもこいつだ。たぶん他の連中も同じだろう。

「それにしても、なんでこんな巨大ロボットなんか作ったんだ?」

「遅かれ早かれ、封印が解けて同じことが起こるとわかってたからだ」

 先輩勇者はあっさりと答えた。

 同じことというと、昔にも雪の巨人が現れたということだろうか。

「雪の女王の最初の封印が緩んで、世界はめちゃくちゃになりかけた。その時は生前の俺が対処して、封印をかけなおした。この巨大ロボはその時使ったやつだ。俺の死後、同じことが起きた時用に一応残してあったんだが、俺の先見の明もたいしたもんだよな」

「……ちなみに、あんたの他にも、吹雪の巨人を倒すのに協力した奴誰かいたのか?」

「は?いるわけねーだろ。俺一人でやりきったわ。天才だからな!」

「……じゃあなんでこの巨大ロボは五人乗りなんだよ。あんた一人で使ったって言うならその時は一人乗りの巨大ロボだったんだろ」

「……」

 つまり、当時はなんちゃらレンジャータイプじゃなくて、起動破壊戦士バンダムタイプだったってことだろ。

 いやだって、そのまま起動破壊戦士バンダムタイプで置いておいてくれれば、こういう事態になった時に五人用意するよりも簡単だったはずだ。俺達が居合わせなくて人数が用意できずに使えず終わる可能性もあった。そもそもこれが一人乗りだったら、俺だってこんなスレスレで洋一やリリアと協力しなくちゃいけないってヒリヒリせずにすんだわけだし。

「合体はロマンだ」

「そう言われるとなんも返せないが」

 ロマンはわかる。ややこしくなったとしても、こういう機械の押すボタンが多ければ多いほどテンションが上がったりするし。

 俺は頭上にあるスイッチの群れを見ながら思う。手を乗せていたギアをぎゅっと握りしめた。

「さて、緊張はほどけたか?いよいよだぞ、少年」

「……」

 俺は深呼吸する。あくまで俺の敵は白衣のあいつだ。吹雪の巨人は前哨戦。それでも完全に緊張が取れるはずもない。

 だが、俺の右手は熱を持っている。まるであいつらの熱意がそのまま熱になったかのようだ。

「必ずあいつのとこに連れていく」

 人事を尽くして天命を待つ。

 やれることは全部やる。

 そして完全に地上に出た後、俺は目の前の画像に捉えられている吹雪の巨人を睨んだ。




副題 先輩勇者が作った巨大ロボは最初から五人乗りだよ。(操作は五人分一人でやり切った)

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