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第九十八話 タイトル未定

 俺は言葉を失った。

 俺の周囲には、積みあがった人や魔物の骨と、人の顔のようなものが浮かんでは消える黒い泥のようなものがうごめいていたからだった。

 うん、あんまり怖くない。アンダーテイカーでも似たようなの見慣れているからか?

 月夜とやきとり、そして白桜が並んで俺を見上げていた。まるで命令を待つように。

 そんな俺とあいつらとの間にウィンドウ画面が差し込まれる。

『うわぁ、いっぱい死んでるねぇ』

「お前、いたのか」

『いたよ!いたっていうか、いるわけじゃないけどずっと見守ってはいたんだよ!ここ最近の奴は見れなかったことも多かったけど!』

 久しぶりの神の介入にピロンピロンと効果音がうるさい。音を消す設定はどこだ。

『僕が話しかけられないときは、仕事で忙しいときか、僕の力が及ばないときだけだから!それ以外はずーっと見守ってるんだからね!』

「それはそれでキモイ」

『えええ?!(´・ω・`)』

「ついに顔文字までつかいだしてんじゃねーか」

『顔文字って便利だよね。今の心境とか相手に伝わりやすくなるし。僕も成長しているんだよ(+・`ー・)ドヤ』

「顔文字使い始めただけでどや顔すんなよ!おじいちゃんか!」

『そんなことよりも、ようやく優人君とおしゃべりできて僕はほっとしてるんだよ!最近僕の影が薄かったじゃん?このまま優人君に忘れ去られるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだから!』

 この状況でそんなことよりも、とか言えるとか。まあ、あの黒いドロドロは今のところ大人しくこちらを襲う様子もないし、大丈夫か?それに。

「まあ確かに、お前がいること忘れてた時もあったな」

『ほらやっぱり!ずーっと話しかけたかったんだよ?だけどこの町は魔力溜まりと過去の勇者の術式の影響力が強すぎて力が及ばなくてさ。喋れないばかりか、君の姿も見えにくくて本当に焦ったよ。おかげで手元が狂ってちょっと嵐起っちゃった地域とか、次元に穴が開きそうなときもあったけど、まあいいよね!』

「なにをもって良いと言っているのかさっぱりなんだが?うっかりで天災を起こしてんじゃねーよ!天災というか、次元の穴ってなんだ!てか、要するに圏外だったわけな?」

『僕の存在を携帯電話で例えるのやめない?うん、携帯電話っていうより、せめてスマホってことにしよう。どちらにしてもあってるんだけどさ』

「携帯電話とスマホとの違いがそんなに関係あんのかよ。あれ?じゃあなんで今喋れてるんだあんた」

『やー、携帯電話っていうとガラケーのイメージがあってね!ガラケーととスマホじゃスペックが違うイメージない?それと、やきとりくんが近くにいるから、僕の力が通るようになったから話せるんだよ!ルンルン!』

「自分でルンルンって……。やきとりはルーターか!なに、デザリングしないと全然役に立たない奴?!」

『常にWi-Fiが通ってるといいんだけどねぇ。FreeWi-Fiみたいに。でもFreeなだけあって危険なものもあるから繋げる時は注意だよ』

「この世界でWi-Fiの注意点なんか意味ないだろ!」

 そういえばと視線を落とせば、相変わらず月夜たちがじっと俺を見つめて待機していた。見つめて、待機していた!

 そういやこいつらはウィンドウ画面が見えているんだろうか。見えてなかったら、俺は一人で喋ってる危ない奴に……。いや、見えてない可能性が高い……よな?最初に神は俺以外には見えないって言ってた気がするし。

再びちらりと三匹をみたあと、目をそらす。

あー、こいつらの視線が怖い。何一人で虚空に向かってしゃべってんだこいつ、みたいに視線が訴えてきているように感じる。いや、被害妄想かもしれんけども。

 一人で気まずくなっていると、ウィンドウ画面は再び文字が切り替わる。

『と、いつものやりとりができて僕は満足できたんで、本題にもどろうか。優人君の目の前のあれ。あれは、雪の女王の器にされた子達の怨念。もはやあれは呪詛だね。ていうかこの空間も呪詛の中。呪詛の表層部ってとこかなぁ』

「じゅそ……」

 俺が呟くと、いつもついてまわってくる魔導書がふわりと浮かび、俺の前でページがぱらぱらと開かれた。

『呪詛……人を呪うこと。魔法においては分野の一つでもある呪いの中でも、解呪が複雑で難しいものを指す。解呪方法は呪詛の種類成り立ちによって様々であり、深い知識と運を要する』

「なるほど。無理じゃん」

『無理だねぇ。そもそも、呪詛の解呪方法なんて、優人君が知るわけないしね』

 そう、俺は解呪方法なんて知らない。だけど、あの雪の女王の妹(たぶん妹)が、俺にしかできないと言っていた。だとすると、俺にしかできないことがあると、あれは確信しての発言と行動だったんじゃないかと思う。問題はそれがなにか、ということなんだが。

 俺は、ウィンドウ画面をじーっと見つめた。

『ん、なあに?』

「なんか可愛らしく首を傾げてる気がするが、全然可愛くないからな」

『なんでそんなことわかるの!実際見たら可愛いかもしれないじゃん!』

「俺は解呪方法を知らないけど、あんたならわかるんじゃないのか?」

『急に話切り替わった!……僕ねぇ。うーん』

 悩むように、神の次のコメントが浮かぶのには数秒かかった。

『実は僕もいろいろ制限があってね。この世界のことわりというルールには逆らえない部分があるんだ。だから、君にも話せることと話せないことがある』

「理……」

『それは絶対不変のその世界そのものを成り立たせるルール。精霊も人間も僕やこの世界そのものでさえ、それを破ることはできない。それは例えば重要な役割という座についた精霊は一つしか存在できないとか、君の世界に魔力がないように、そもそも魔力というものがないというルールだから、君の世界に魔法は存在できないとか、そういう根源的なもの』

「お前、今の言葉……」

 今の神のセリフの中に、重要なことがあった気がした。それがなにか確信を持つ前に、鼻に異臭が届く。

「くさっ!」

「うーー、しゃーっ!」

「きゅう!」

「こけ」

 急に漂い始めた異臭は言語化するのが難しい何とも言えない匂いだった。ぐっと喉がつまり、酸味のような分厚い布地が鼻に押し込まれるような臭い。

 その臭いのもとは先ほどまで大人しくしていたはずの黒い泥がぶくぶく泡立ち、その泡が弾けるごとに強さを増している。腕で鼻を覆っても阻めそうにない。

 そしてそれは生きる津波のように、高波が襲い掛かる。

 月夜が影の壁で阻み、やきとりが焼き切り白桜が水で押し流す隙間から漏れた泥が、俺の顔にどろりとかかった。

 先ほどまでに異臭にさらに廃棄物のような臭いが混ざったものに顔を覆われて、拭おうと顔をかきむしるがへばりついて取れない。

「くっ」

 助けて……。

 その泥からは臭い以外の、感情記憶、死んだ者たちの怨念と恨み、無念さが流れ込んできた。

 辛い痛い痛い痛い痛いお父さんお母さん助けて家に帰して苦しい苦しい苦しい!なぜ私がこんな目に帰りたい帰りたい帰りたい悲しい殺して殺してなんで死ななきゃいけなかったの死にたい死にたい死にたい死にたくない死にたくない死にたくない。

 様々な顔が浮かんでは溶けて、激しい感情が俺を侵食しようとする。これ以上俺の中に入ってこられれば、取り返しがつかないような気がする。頭の中の警鐘が激しく鳴っていた。

 その時、走馬灯のようにさっきの神の言葉と、雪の女王の妹の言葉、海底のエンリケでの出来事が流れていく。

 俺は顔からへばりつく泥をはがすのをやめて、鳥居を思い浮べながら、手を打った。

 あの神の領域へ踏み込むとき。周囲に流れる清浄な気配。神社に参りに行くときの気持ちで手を叩いたそれは、柏手かしわでだ。


副題 西洋ファンタジーには東洋ファンタジー

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