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幕間 とある冒険者の所業と新聞記者

俺は今日もいつも通り、パン屋クロワさんに来ていた。今日こそはあの少年に打ち勝ち、クロワさんと直接交渉するのだ。


儲かるときいて冒険者になったものの、ギルドに寄せられる依頼をこなすのに毎回苦労しているわが身。たまたまとはいえ、居場所を公表していないクロワルドさんの居所を突き止められた自分の運に感謝したい。



ここはクロワルドの打った剣をふるって自分のレベルアップをはかるべきだ。


そう考えてパン屋に通いつめて二か月。ここまで誠意をみせればクロワルドさんも折れるに違いない。俺は意気揚々と、店のガラス戸をあけた。


いつも眠そうに精算台に頬杖をついている少年がいない。


「おおっ!」


今日は神も俺の味方みたいだな。いつも交渉を邪魔するあの少年がいない。今が絶好の機会だ。


俺は勝手ながら店の奥に入った。もしあの少年が近くにいて、声を出したところをみつかったりしたらすぐに追い出される。


クロワルドさんの場合はみつかると投げ飛ばされて追い出されるけど、それはそれで快感が体を襲うから問題はない。

だけどあの少年は、初めて会ったときはゾクゾクとする鋭い視線をくれたけど、最近はにこにこ笑ってやんわりと追い返される。そしてなぜか激しく実力行使されているわけではないのに、いつの間にか追い出されているという不思議体験を俺にさせる侮れない少年だ。


だからあの少年にはみつからないように、非常識ではあるけどなにもいわずに奥に進んだ。

そして扉を開けようとしたとき、中から思わず行動を止めてしまう言葉がきこえた。


「こいつは、魔剣だ」


「は?」


……魔剣だって?


少年も中にいるみたいで、入らなくてよかったと思う気持ちと、魔剣という言葉が示す意味を思い出して浮かんだ興奮が同時に胸を占めた。


「魔剣ってのは、魔力が込められた剣だ。魔法陣を彫って、特定の魔法のみ使える魔法剣と違って、魔力が少ない者でも、剣に込められた魔力によって魔法が使える。そしてなにより、魔力をまとっているために切れ味が抜群に高い」


クロワルドさんの説明で、さらに魔剣のすごさを知る。そんなにすごい魔剣を、クロワルドさんでも打てない剣を、あの少年が打った。

ドアから漏れきこえる内容をまとめると、そういうことらしい。


俺はすごい秘密を知った興奮で体がうずうずしていた。だけど、これは秘密にしなければならない。これは俺だけの秘密だ。

このままあの少年と仲良くなれば、俺も魔剣を手に入れることができるかもしれない。


俺は秘密を暴露したい衝動をこらえて、外に出た。








誰かに話したい。だけど話してはいけないという気持ちが胸の中で同居生活をはじめてしまった俺は、気を紛らわせるためにギルドの食堂にむかった。

昼間ではあるけど、酒を飲みたい気分だったんだ。


食堂に入ると、見知った男2人をみかけた。


「お、ピエールじゃねぇか!こっちこいよ!」


俺もにこやかに笑って手を振る2人がいる席に座った。


「2人ともどうしたんだよ。少し遅い昼飯か?」

「まあそれもあるんだけどよ、俺たちやっとEランクから抜け出せたから、それで一杯やろうってなったんだ。な?」

「おう!」

「え?」


俺は内心動揺した。この2人も俺と同じように、依頼がこなせずずっとEランクを彷徨っている奴らだったから。


「……そ、それはおめでとう」

「おう!で、俺たち2人とパーティ組んでくれる奴らがみつかってよ。明日からちょっと冒険にいってくるんだ」

「そうなんだ」


もやもやする気持ちを押し殺して、笑顔を作る。だがそれには男たちは気づかず、内緒話をするように顔を寄せた。


「ここだけの話なんだがよ。昔の武器とかが眠ってる遺跡をみつけたらしいんだ。俺たちはそれを掘り起こそうって計画なんだよ」

「へぇ……」


昔の武器という言葉にぴくりと反応してしまう。


「もしかしたら魔剣とかあるかもな。そしたら高く売れるぞー!おまえも来るか?いや、おまえ戦いとか苦手だもんな」


明らかにバカにしている雰囲気がただよう言葉に、俺は思わずいってしまった。


「へぇ!確かに遺跡なんかは魔物の巣窟だから俺にはムリかもな。だけど、俺はクロワルドのいる場所も知ってるし、魔剣を作れる人間を知ってるから、わざわざ遺跡で穴掘りなんかしないぜ」


俺の言葉に一瞬きょとんとなった2人。そのあと2人は大笑いした。


「あっはははは!魔剣を作れる人間なんかきいたことないぜ!もしいたとしたらもう有名になってんだろ!」

「もっとすぐにはわからない嘘つけよ!」


俺がいい返そうとしたそのとき、赤い髪を後ろで括った女性がとん、とテーブルに手をついた。


「今の話、詳しく教えてくれない?」














「ふぅ、困ったわね。記事載せるのは明日だってのに」


私は街を歩きながら思案していた。悩んでいるのは、明日発行されるはずの自分が書いた記事のことだ。

本来なら二日前に記事を脱稿しておかなければならないところを、私は未だにせずにいた。これが配信速度が速いギルド日報でなければ、記事に穴を開けていたこと確定だろう。

だからといって今こんなところを歩いている暇はないのだけれど。


とはいえ、最近の記事はどこぞの王族のゴシップばかりで飽きてきていたところだ。私が。

相変わらず需要はあるものの、そろそろ違うものが書きたい。けれど、表に出していい情報のストックは今のところ、王族のゴシップしかない。


勇者ネタは売れるかもしれないが、おいそれと手を出していいネタでもないしね。


そう考えながら行き着いた冒険者ギルドエネルレイア皇国支部の食堂で、おもしろい話をきいた。思わず私は彼らに話しかけていた。









魔剣について知っていた青年は、魔剣を作れる少年がいて、彼はクロワルドのところにいると教えてくれた。多少強引にきいたのだけれど。


けれど、クロワルドの居場所だけは口を割らなかった。でも問題はない。クロワルドの居場所は知る人が少ないというだけで、知る人間が全くいないというわけではない。

かくいう私も彼の居場所を知る1人だった。


パン屋クロワさんにたどり着いた私は、いつも連れて歩いているモルンガという魔獣に命じた。


「魔剣を持ってきてちょうだい。魔力を帯びた剣よ」


モルンガは頷くと、すぐにパン屋の窓の隙間から入り込み、十分ほどで戻ってきた。咥えていたのは歪んだナイフのようなもの。私はそれを、知り合いの鍛冶師にみせた。


結果は本物。


歪んでいるのがなぜなのかは、あの話を聞いた冒険者からきいている。むしろこの歪みこそ、魔剣の作り手がいるという真実味を増すものだ。


クロワさんに務めている少年についても調べてみた。彼もギルドに所属しているから、名前を調べるのは簡単だった。


久しぶりに王族のゴシップ以外を書けそうね。これで私の首の皮もつながったわ。










シリアス回が続きすみません。あと2、3話でギャグに戻りますのでご安心ください。


そして、活動報告にて感想でいただいた質問に少しだけ答えた質問コーナーがありますので、お暇であれば覗いてみてください。http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/777795/

そこでも書きましたが、副題に対するつっこみをお待ちしております。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


副題 魔剣事件の裏側

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・モルンガは頷くと、すぐにパン屋の窓の隙間から入り込み、十分ほどで戻ってきた。咥えていたのは歪んだナイフのようなもの。私はそれを、知り合いの鍛冶師にみせた。 普通に窃盗では? というツッコミをしてみ…
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