独裁国家編
WFC第三段。八刃を世界的な影響力をしめしたあの国へ
俺の名前は、白石流。
元は、小さな大学の助教授だった。
とある調査を元に、日本のホテル王のスポンサーの下でWFと呼ばれる怪奇現象調査を本格的に始める事になった。
そして現在、ポルポドに来ている。
この国は、嘗て軍部の独裁政権が国を掌握していた。
しかし、事故で四つあった軍事基地を全て失いその軍事的な脅威は、失われたと思われていた。
だが、何かしらの企業の後ろだてがあったのか一気に軍事基地を再建築し、大きな軍事力を持つ事になった。
現在、かつての独裁者の息子、スミソンが国の実権を握っていた。
父親の健在中は、温厚派として有名だった彼だが、実権を握った直後に嘗ての幹部を大粛清していた。
国内の内紛にも、多大な武力行使で一気に鎮圧させるなど強硬姿勢が見て取れるのであった。
その所為もあり、ポルポドは、一定の安定時期に入っていると言っても良く、俺の入国も叶った。
俺は、現地入りして直ぐに四つの軍事基地について調査を始めた。
「新しく作られた軍事基地は、三つ。それらは、失われた軍事基地に直ぐ傍にあり、その資材や人材等を多く流用された物となっているみたいだな」
そんな事が解るのは、嘗ての写真と現在の軍事基地の写真を高額で手に入れたからだった。
「再建されなかった軍事基地、これがアレに関わっている可能性が高いな」
失われる前の写真と喪失された後、大きな穴しか存在しない写真を見比べる。
「起こった時期を考えてもこれだけ、他の基地の破壊より数日早い。ここで何かが行われていた。それこそがこの惨劇を引き起こしたと考えるのが妥当だろうな」
俺は、この基地の調査を重点的に行う事にした。
基地跡が見える場所に到着した。
「規模的には、基地一つが消失しただけ、それもその残骸が残っている。今まで調査して来た中では、比較的小さな物だな」
俺の言葉を聞いた現地ガイドが目を丸くする。
「これで被害が小さいって! 冗談じゃない。基地が丸ごと一つ消滅しているんだぞ!」
一般人にしてみればとんでもない被害だろう。
「残念だが、俺が追っているのは、山一つ消失させる事が可能な化け物なんだよ」
顔を引きつらせる現地ガイド。
「おいおい、お前が追っているのは、核ミサイルを搭載した原子力潜水艦か?」
「違う。核ミサイルでは、山を消失させられない。この基地を消失させるのが関の山だな」
正直、被害の規模から考えて今回は、外れの可能性もある。
多くの調査をするなか、外れには、何度かぶち当たる事があったが、何故か今回は、少し違う気がした。
「もしかしたら、残り三つの基地に何かしらのヒントがあるのかもしれないな」
俺は、一度は、除外した残り三つの基地の調査を再開した。
調査でわかった事がいくつかあった。
「何度調べても、交戦の痕跡があるのに、そこに攻め込んだ軍の痕跡が無いっていうのは、どういうことだ?」
俺は、調査資料をもう一度見直す。
「廃棄された基地には、ポルポドの兵器の残骸が残っていたのは、確認がとれている。詰り、ポルポドの軍は、何かしらと交戦していた事は、まず間違いない。問題は、その先、その戦った相手の痕跡が殆ど無いという事だ。一方的な蹂躙だったとでも言うのか?」
あまり考えられない話だ。
「もう一つ気になるのは、被害の出方だ。まるで大きな刀で切り裂かれた様な被害箇所がいくつもあるが、それは、どの様な兵器を使ったのかだな」
俺の頭の中に一昔前に流行った無敵な防御力を誇るロボットが現状兵器を蹂躙していく風景が浮かんだ。
「おいおい、そんな非常識な事が実際あると言うのか?」
俺は、自分の出鱈目な想像を否定しようとしたが、止めた。
「生身で山一つ消し飛ばす化け物が居るんだ。そんなロボットが居たとしてもおかしくないか。ロボットが居たと仮定してみよう。最初の基地の被害と違い、残りの三つの基地は、ほぼ同時に攻撃をかけられている。そのことを考えれば、強大なロボットが三体居たと考えた方が妥当だな。問題は、その三体のロボットがどんな組織が作ったかという事かだが、人工衛星からの監視が厳しいこのご時世、大国の目を逃れて研究するのは、殆ど不可能だろう。それだけの資材を確保するだけでも困難な筈だ。そうなると当然、このロボットには、大国が関わっている事になるな」
候補になるいくつかの国を頭に浮かべる。
「大国が極秘に開発していたロボット兵器でポルポドの軍事基地を壊滅させたか。生身で山を吹き飛ばす化け物よりありそうな線だが、やはりおかしい。大国同士の諜報合戦を考えればそのロボット兵器が完全に他国に知られていないと思うのは、不自然だ。もしも知られていなかったとしても、こんな大規模な軍事行動をとればその大国に対するなんらかのアクションがあるのが必然だろうが、目立った動きは、無いな」
その考えが浮かんだとき、俺は、ある不自然な点に気付く。
「考えてみれば、目立った動きが無さ過ぎる事が不自然じゃないか? 本来なら、独裁国家で危険性を孕んでいたポルポドが軍事力を失ったのにどこの国も動きを見せていない。アメリカ辺りが治安維持を名目に武力配置を企んでもおかしくない状況にも関わらずだ」
改めて周辺国の動きを確認すると、事件後、一年近くにわたり、大きな動きは、存在していない。
逆に一年も立ってから何かしらの理由をつけて干渉を始めようとする動きが出始めていた。
「一年、この一年は、どうして生まれたんだ。この一年があったからこそ、ポルポドは、一応の軍備を整える事が出来た。普通に考えれば、軍備を整える前に干渉する筈だ」
軍備の再編の資料を見て俺は、また不自然な点を発見した。
「ポルポドは、これだけの急速な軍備再編の費用を何処から捻出したんだ。元々軍備増強に力を入れていた国だが、それだけにあの事件の被害は、大きくとてもこれだけの費用を捻出するだけの予算は、存在しない筈だ」
俺は、自分が仮宿にしいてるホテルから町を見る。
「国民から非常識な搾取をしても足らない上、町には、その気配が無い。まるで何処からともなく金が湧き出した様だ」
俺は、幾つかも問題点にぶつかりながら、この事件にこれ以上関わるべきかどうかを検討した。
「明らかに不自然な事が多い事件であるのは、確かだが。俺が追っているアレとの関連性を結びつける根拠が無いな」
それが俺にとって一番の問題点だ。
この事件がアレと関わっていないとしたら、調査を続ける意味は無い。
俺は、そう思い始めた時、当時の新聞の小さな記事が目に入った。
「『街中で起きた奇跡?』だと」
俺は、その記事の事件を追いかける事にした。
毎度思うのだが、金の力は、偉大だ。
当時の記事を書いた人間を見つける事も、その記事の当事者に会うことも出来たのだから。
「もう一度確認しますが、その少女は、弾丸の中を平然と歩いていたのですね?」
問題の事件、ボールをとりに銃弾の中に飛び出してしまった少女を救う謎の存在の当事者の母親が頷く。
「はい。まるで娘を庇うかのように銃弾をその身で受けてくださっていました。きっと、天使様なんです」(現地語)
普通なら考えられない事だが、母親が語るその存在の外見が問題の少女と酷似している事を考えればありえない事では、ないだろう。
「ありがとうございます」
お礼のお金を渡して帰ってもらう。
俺は、一旦諦めていたWFとのつながりを見つけてしまった。
「この国で何が起こっていたんだ? 明らかな異常事態が最低二種類起こっているのは、どういう事だ?」
最初の基地消滅だけならWFの単独の事件と捉える事が出来なくもない。
問題は、その後に起こった三つの基地での交戦。
「これらの事件に関連性があると思わせて全く別件なんて事は、ないだろうな」
俺が考えを纏めていると不穏な雰囲気が漏れ出してきた。
「おいおい、かなりヤバイ雰囲気だな」
俺の予測は、あっさりと当たった。
「大人しくしろ。貴様を諜報員の疑いで逮捕する」(現地語)
想定できた事だが、思ったより早かった。
「解った、大人しくするから乱暴にしないでくれ」
俺は、あっさり降伏する。
こんな状況の事を考えて保険は、幾つか用意してある。
ここは、無駄な抵抗をせずに掴まった方が被害が少ない筈だ。
こうして俺は、現地軍国拘束される事になった。
独房にいれられた後、お約束の尋問があったが、俺としても嘘を吐く必要も無いのであっさり答えていると、次第に相手の方が話題を逸らし始めるのに気付いた。
まるで、触れて欲しくない古傷に触れられている様だった。
そんな数日の後、独房に居た俺が連れて来られたのは、豪華な私室であった。
「これは、どんな取引ですか?」
それに対して、俺と相対した存在、この国の実質的指導者、スミソンが答える。
「君は、金の力で正式な取材許可を国連に取り付けている。そんな君をどんな理由であれ処刑すれば国連、しいては、周辺諸国に武力介入の切掛けを与える事になってしまうからね。君には、大人しくこの国を出て行ってもらう」
理性的な判断だ。
「しかし、俺の調査は、まだ終わっていないんですがね」
すると鋭い視線を向けてくるスミソン。
「この国の暗部に関わる事を知られては、殺すしか無くなる」
背筋が凍りつく思いがした。
「それでは、単刀直入にお伺いします。あの少女は、どうしてここに来たのですか?」
鋭い視線のままスミソンが告げる。
「それこそ暗部に関わる事だ。話すわけには、行かない」
切り込み方を変えるか。
「暗部に関わる詳細は、必要ありません。あの少女は、その暗部の調査に来ていたと言う事で良いのですね?」
「本人は、そのつもりだったみたいだ。調査だけ済ませれば後は、本隊がやると言っていたからな」
本隊、詰りあの少女には、所属している組織がある事になる。
これは、最初の事件のもみ消しからも考えてありえる話だ。
「それなのに、何故か基地が消滅する事になり、そして本隊が来たと言う事ですか?」
「その通りだ。我々は、あの化け物達の争いに巻き込まれたそれが本音だよ」
化け物達だと、それでは、あの少女以外にもそんな化け物が居る事になる。
「国一つを根本から揺るがす勢力ですか。随分と夢がありますね」
「何が夢あるだ! やつらは、父を騙してあんな物を研究させた。今思えば、奴らは、あいつらがそれを調べに来る事も想定していた筈だ。それすらも告げていなかった。あんな化け物を相手にしなければいけない研究だとしっていれば父だって協力しなかった筈だ!」
怒りに机を叩くスミソン。
今の言葉で幾つかの事が解った。
暗部に関わる事がその研究であり、それをあの少女が調査しに来ていた。
そして、事件が起った。
その結果、あの少女が本隊と呼ぶ存在によって他の基地が壊滅させられる事になった。
あくまで調査が前提だった事を考えれば、最初の基地の被害が小さい事にも納得がいく。
本当なら、何を調査しようとしていたのかまで知りたいが、今回は、それは、無理だろう。
「最後に一つだけ聞いて良いですか? あの少女の事を恨んでいますか?」
スミソンは、舌打ちをする。
「恨むか。あの時の事を考えれば、あの少女があの基地を消滅させたのも仕方ない事だとわかっているし、その後の惨劇を止め様と協力してくれた。そして、国連に対する圧力までしてくれ、一年の時間を作ってくれた。この国が未だに健在なのは、あの少女の助力があった上での事だが、それでも俺は、納得が出来ない。何であんな化け物が居るのかとな。あれは、人が積み上げてきたものを容易に打ち砕く存在だ。あんな者が居ていい筈が無い!」
苛立ちが伝わってくる。
理屈では、納得しているが感情が納得していないのだろう。
「とりあえず、知りたい事は、解りました。私は、これでこの国を出ます」
席を立とうとする俺にスミソンが言う。
「お前は、どうしてアレを調べている?」
俺は、自分の覚悟を告げる。
「気付いてしまった俺には、それを調べきる義務があると考えている」
「いい覚悟だな。早くこの国を出る事だ」
スミソンの言葉に俺が兵士に連れられて直接空港に運ばれた。
「二度とこの国の土を踏むな」(現地語)
兵士から念押しされた。
「解ったよ」
正直、口だけの約束だ。
あの少女が態々調べに来た暗部について調査が必要だったら来る事になるだろう。
そんな時、こんな国では、珍しい日本人少女が二人とすれ違った。
「あいつを助けるの?」
「本人次第、でも逃げたいなら手助けするぐらいの義理は、あると思ったから来たんだよ」
少女達の言葉とは、思えない言葉に振り返えり後姿をみたが、兵士が睨む。
「グズグズするな!」(現地語)
俺は、半ば強制的に飛行機に乗せられる事になった。
日本に帰った俺を待っていたのは、一つのニュースだった。
「ポルポドで革命が起こったって!」
父親と同様の独裁を続けていたスミソンが革命家によって処刑されたらしい。
それによって浮き彫りになる暗部。
「人の改造による兵器化に、その研究に携わっていた人間を特定の企業に出向させる事で軍事費を捻出していたというのか」
そして俺は、処刑の現場映像から去るあの空港で見た後姿を見る事になるのであった。