人買い アジズ・オマル
年月が流れ、ぽんちゃんは十二歳になった。ある日、彼女は他の子供と一緒にさらに奥深い雪山の中へトレーラーのコンテナに入らされて連れて行かれた。そこではサーカスの猛獣が入るような檻に囲まれた空間に他の十数人の子供と一緒に入れられた。
その場所にいた一人の男は腕組みをしながらうろうろと檻の周りを歩き、突然ぽんちゃんを指差した。
ぽんちゃんは一瞬びくっとして、隣にいたサリの手を握った。
「この子がいい。あと、その隣の髪の長い子は北の山の弟のところへやろう」
ぽんちゃんとサリは順番に檻から出された。
――サリと一緒の生活もこれまでか……。
彼女と一緒に星空を見た思い出が一瞬ぽんちゃんの心に浮かんだが、彼女はそれを気持ちの中で握りつぶした。彼女にとって過去のことなどはどうでもいい。思い出など要らない。それが彼女の考え方であり、生き方そのものでもあった。
指を差した男はアフガニスタンのテロ組織リーダーのアジズ・オマル氏であった。彼はぽんちゃんを自分の慰安婦兼奴隷にするつもりはない。彼女にイスラム社会人としての付加価値を付けて更に転売するために彼女を『購入』したのだ。
こうして彼女たち二人はオマル氏とその親族のもとへそれぞれ身売りされ、ぽんちゃんは半年間穴ぐらのようなところでほとんど外出もままならない状態で生活させられた。その間彼女は、イスラム社会の習慣や宗教に関すること、お化粧の仕方、女としての立ち居振る舞いに至るまでのあらゆることを教え込まれた。
ぽんちゃんはこのような生い立ちであるから、中国語の一部とウイグル語、パシュトー語、ダリ語を理解し、話すことができる。