少女サリと星空を……
ぽんちゃんは明るく積極的な性格であったので、『タコ部屋』の子供たちに人気があった。
子供たちの中に『サリ』と呼ばれる西洋系の顔立ちの綺麗な女の子がいた。彼女はぽんちゃんより約半年前にここへ入れられた子であったが、特にぽんちゃんのことを妹のようにかわいがり、良く身の回りの世話をしてくれた。
「ミコ。あなたは強いのね。何があっても泣かないし、いつも笑顔で羨ましいわ」
サリはそう言って時々ぽんちゃんの頭を撫でてくれた。ぽんちゃんは嬉しかったが、サリの悲しげな目を見るのはあまり好きではなかった。
ある日、二人は夜遅く『タコ部屋』を出て、星空を見た。門限のあとに規則を破って外出したことに対する代償は、普段からどんな苦痛にでも耐えられるよう訓練させられていた子供であっても耐え難い仕打ちであり、ぽんちゃんは三日三晩全身の痛みと飢えによって体をぴくりとも動かすことができなった。しかし、その時、苦痛よりも彼女の心の中で優先した感情は喜びだった。二人で見た星空はとても綺麗で、それはぽんちゃんに大きな感動を与えてくれた。
サリは目を輝かせながら星の名を教えてくれた。
「本に載っていたわ。あれはプロキオンよ。あれがアルデバラン。それからあの一番に輝く星はシリウス。天の狼の星。北半球ではどこでも見える最高に輝く星よ。
ねえ。私たちのこと、いつもお星さまが見ていて味方してくださるのよ。
あとねえ。ええっと、もっともっと南に行くとカノープスって大きな星が見えるらしいの。あの高い山を越えなきゃ見えないわ。いつかはあの山越えて、その星、見に行きたいなあ……」
「ふんふん、私も……」
その時のぽんちゃんは、わかったようなふりをしながら、満天の星と、闇に薄っすらと光を放つ山々を見ていた。