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泪澤(レイゾー)の谷

「ここは、『泪澤レイゾー』といわれるところだ。二人とも足元に気を付けながら、この右の下の方を見てみろ。そこは谷底まで何もさえぎるものがない断崖絶壁になっていて、過去においては何人もの人間が吸い込まれるように谷に落ちて行った」

「わあ、怖い!」

「ぽんちゃん。いや、華実。いや、ミコ。それからサリ。これから俺の言うことを良く聞くんだ」

 ――何で今さら『ミコ』なのよ。

「この先、指差す方向へまっすぐに行くと、丸太を積んだような一軒の家が建っている。お前らはそこに行って中の男に会うのだ。男は二人いる筈だ。あと、君たちの面倒は恐らくその男たちがみてくれるだろう」

 ぽんちゃんは首を傾げた。サリはじっと司馬剣の方を見ている。

「ねえ。私たちの面倒をみるって、どういうこと? あなたは、いったい何しにここへ来たの。その人に会いに行くんでしょ?」

「いや。俺はここで終わりだ」

 ぽんちゃんはますますわけがわからなくなってきた。

「終わりってどういうこと? 私たちを置いて戻るって言うの?」

「俺はさっきのカメラマンと同じく、この辺りに住んでいた。

 今までの人生の総括だよ。人としての……」

「人生の総括?」

「わからなくてもいい。ともかくその家にいる男は君たちを何年も捜しに捜し続けてきた人間だ。君たちを待っている筈だからね」

「もっとちゃんと説明してよ。まったく意味わかんないよ」


「じゃあね……」

 司馬剣は寂しそうにつぶやいて、そのまま右の方に歩いて行った。

 そして二人の方に向き直るともう一度、今度は少し大きめの声で言った。

「じゃあね!」


 司馬剣はそのまま後ずさりし、谷の方に消えた。


「きゃあああ!」

「ぎゃああああ!」

 二人ともが同時に叫んでいた。司馬剣が崖から落ちた。あまりに突然の出来事に二人はどうしていいのかわからなかった。その後突然目を覚ましたかのようにサリが崖の方に走っていった。

「あっ、危ない! サリ! 止まって止まって!」

 咄嗟にぽんちゃんはサリの足にタックルして彼女を倒していた。二人は崖縁で重なるように倒れた。

「やだあ、危ないよう。サリ。もう少しで死んじゃうところよ」

 サリは真っ赤な顔をしていた。感情が昂ぶっている。サリは司馬剣とは知り合ったばかりであり、彼女の行動はぽんちゃんにとって異常としか思われなかった。

「駄目だよう。サリ。もう助からないよ。司馬剣は……」

 司馬剣の落下は自殺だったのか、それとも足を踏み外しただけなのか、どちらとも言いようのない状況だった。しかし、彼の最後に残した言葉、『人生の総括、人としての……』は、ぽんちゃんの耳に強く残っていた。


「サリ。行ってみよう。この先の丸太の家」

「ぐう」

 サリは今度は青ざめた顔をして頷いた。


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