故郷の山々へ
翌朝四人は宿泊所を出て、司馬剣がレンタルしていたRV車に乗り込んだ。サリは司馬剣が朝方早くに市場から食料と一緒に手に入れてきた衣服を身にまとっていたので、格好としてはさほどの違和感はなくなっていた。しかし、もともとの西洋系の顔立ちと赤毛の長い髪は人々の目をひくものであった。会計を済ませた司馬剣が最後に車に乗る際、宿泊所の従業員に行く手を阻まれ、大きな声で宿泊人数を誤魔化して逃げるつもりだ、と騒ぎだしたので、彼は仕方なく追加料金とかなりのチップのようなものを上乗せして開放され、ようやく車を走らせた。
車の中は皆、終始無言だった。サリもぽんちゃんと後部座席で無言のまま彼女の手をずっと握っていた。数時間走り続けて、車が高原地域の端、山の麓に着いた時にはすでに日が傾きかけていた。司馬剣は、山で知り合いの学者に会いに行くと言っていたが、それ以上のことは一切語ろうとしなかった。ぽんちゃんの方も異様に司馬剣が険しい表情をしているので、問う機会を失っていた。
司馬剣は、少し山を上がったところで車を停めた。そしてそこでカメラマンは皆と別れた。
――彼、日本から一緒に来たけど、もともとはこの辺りの地元の人だったのかなあ……。
司馬剣は、この先車道はなくなり岩場となるので歩いていく、と言った。
「どれくらい歩くの?」とぽんちゃん。
「かなり歩きにくいけど、距離的には四~五キロだから、二時間もかからないよ」
ぽんちゃんはもともと体力にはあまり自信がある方ではなかったので、かなり息を荒くしていた。ところが、サリはというと、彼女は驚くほど身軽だった。十二歳で別れる頃はぽんちゃんの方が遥かに機敏であったが、その後、サリの山での厳しい生活がこれを逆転させたのかも知れない。
司馬剣も巨体の割には身が軽く、ぽんちゃんは彼女に合わせてゆっくりめに歩いてくれている二人に付いて行くのがやっとだった。