とりっくおあとりーと!
コンコンコン、ととびらをたたく音が聞こえ、まさおがげん関を開けると、そこには女の子がいた。
……確かに、今日は十月三十一日である。ではあるのだが……
「とりっくおあとりーと!」
着物に黒かみのおかっぱ、というのは流石にどうなのだろうか。ハロウィンというのはもっとこう……とんがった長いぼう子とか、かぼちゃをかぶったりするものではないのか?着物ではなんというか、ふぜいがないというか、多分この子はあと二週間くらい早いというか――
「……?聞こえなかったのか?とりっくおあとりーと!」
「ああ、はいはいごめんね、今おかしあげるからねー」
まさおは、お母さんが言っていたことを思い出し、げん関横に置いてあったおかしからキャンディーを手に取り、女の子に手渡した。見覚えのない子だが、どこかで見たような気もする。この子もきっと近所に住んでいるのだろう。
キャンディーを両手で受け取った女の子に、まさおは「ばいばい」とげん関のとびらを閉めようとして――女の子が、一向に帰らないことに気が付いた。
「………………ない」
「?どうしたの?」
「…………そうではない!とりっくおあとりーとだ!」
「え?……あぁ、一個じゃ少なかったかな?じゃあちがう味のやつを――」
「ちっ、がああぁう!子供扱いするなぁ!」
ぶんぶんと、あげた黄色いキャンディーをふる目の前の子ども……子ども?子どもだよな?まさか仮そう……いや、そんなわけないか。身長からして、五才とか七才くらいだろうし。
え……どういうこと?
「あの……トリックオアトリートだよね?」
「そうだ!とりっくおあとりーとだ!」
「……だから、おれは君にキャンディーを――」
「なぜそうなる!とりっくおあとりーとだ!……まったく、最近の若いのはこれだから――」
……トリックオアトリートってなんだっけ。確か、『おかしをくれなきゃいたずらしちゃうぞ!』みたいな意味だったはずだけど……トリックかトリートを選べ、みたいな。
あれ、そもそもトリートって英語だと確か――
「――だいたい、この私に向かってきゃんでぃーとは一体何を――」
「あの、もしかしてトリートっておかしじゃなくて――」
「うそ!おばあちゃん!?」
――え?
「おばあちゃんじゃない!え、昔の写真のまんま!」
「おお!大きくなったなりの!……ってちょうどよかった、早く私を丁重にもてなせ!とりっくおあとりーとだ!」
「あはは、変わんないねー。じゃあ、今度は私が」
「え?え?」
後ろから現れたかと思えば、お母さんは女の子を横向きにだきかかえた。いわゆるおひめ様だっこというやつだが、女の子は心底楽しそうに……ってちがうそうじゃない。
「おお、そうだった。りの、教えはどうなってるのだ教えは」
「あー、娘はまだ小さいからもう少し大きくなってからかなーと思ってたんだけど――」
「……教えって、トリックオアトリートのこと?」
「そうよ。我が家では昔から、トリートはお菓子じゃなくて、お姫様扱いのことなの。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』ならぬ
『お姫様扱いしなきゃいたずらするわよ!』
ってね」
「……なにそれ」
「ふん、そんなことも知らんとは、これだからお子様は」
「んむっ……!?」
「私がお前くらいの歳の頃には、それはそれは雅なおねえさんであったというのに。はないちもんめじゃ、みーんな私のことを――」
……酸っぱい。あげたはずのキャンディーがまさかこうして返ってくるとは思わなかった。おばあちゃんがどうとか、おひめ様がどうとかとは知らないけどとりあえず――
「……もう誰もそんなのやってないから。来な、ゲームでボコボコにしてやる」
「ふふん、げーむが何かは知らんが、この私がお子様に負けるなんてとても――」
この子に絶対トリックしてやると、まさおは心に誓ったのだった。




