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小さな妄想を、ショートショートに

とりっくおあとりーと!

作者: 酢ランプ
掲載日:2026/10/31

 

 コンコンコン、ととびらをたたく音が聞こえ、まさおがげん関を開けると、そこには女の子がいた。

 ……確かに、今日は十月三十一日である。ではあるのだが……



 「とりっくおあとりーと!」



 着物に黒かみのおかっぱ、というのは流石にどうなのだろうか。ハロウィンというのはもっとこう……とんがった長いぼう子とか、かぼちゃをかぶったりするものではないのか?着物ではなんというか、ふぜいがないというか、多分この子はあと二週間くらい早いというか――



 「……?聞こえなかったのか?とりっくおあとりーと!」


 「ああ、はいはいごめんね、今おかしあげるからねー」



 まさおは、お母さんが言っていたことを思い出し、げん関横に置いてあったおかしからキャンディーを手に取り、女の子に手渡した。見覚えのない子だが、どこかで見たような気もする。この子もきっと近所に住んでいるのだろう。

 キャンディーを両手で受け取った女の子に、まさおは「ばいばい」とげん関のとびらを閉めようとして――女の子が、一向に帰らないことに気が付いた。



 「………………ない」


 「?どうしたの?」


 「…………そうではない!とりっくおあとりーとだ!」


 「え?……あぁ、一個じゃ少なかったかな?じゃあちがう味のやつを――」



 「ちっ、がああぁう!子供扱いするなぁ!」



 ぶんぶんと、あげた黄色いキャンディーをふる目の前の子ども……子ども?子どもだよな?まさか仮そう……いや、そんなわけないか。身長からして、五才とか七才くらいだろうし。

 え……どういうこと?

 


 「あの……トリックオアトリートだよね?」


 「そうだ!とりっくおあとりーとだ!」


 「……だから、おれは君にキャンディーを――」


 「なぜそうなる!とりっくおあとりーとだ!……まったく、最近の若いのはこれだから――」



 ……トリックオアトリートってなんだっけ。確か、『おかしをくれなきゃいたずらしちゃうぞ!』みたいな意味だったはずだけど……トリックかトリートを選べ、みたいな。

 あれ、そもそもトリートって英語だと確か――



 「――だいたい、この私に向かってきゃんでぃーとは一体何を――」


 「あの、もしかしてトリートっておかしじゃなくて――」





 「うそ!おばあちゃん!?」




 ――え?



 「おばあちゃんじゃない!え、昔の写真のまんま!」


 「おお!大きくなったなりの!……ってちょうどよかった、早く私を丁重にもてなせ!とりっくおあとりーとだ!」


 「あはは、変わんないねー。じゃあ、今度は私が」


 「え?え?」



 後ろから現れたかと思えば、お母さんは女の子を横向きにだきかかえた。いわゆるおひめ様だっこというやつだが、女の子は心底楽しそうに……ってちがうそうじゃない。



 「おお、そうだった。りの、教えはどうなってるのだ教えは」


 「あー、娘はまだ小さいからもう少し大きくなってからかなーと思ってたんだけど――」


 「……教えって、トリックオアトリートのこと?」

 

 「そうよ。我が家では昔から、トリートはお菓子じゃなくて、お姫様扱いのことなの。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』ならぬ


『お姫様扱いしなきゃいたずらするわよ!』


ってね」



 「……なにそれ」


 「ふん、そんなことも知らんとは、これだからお子様は」


 「んむっ……!?」


 「私がお前くらいの歳の頃には、それはそれは雅なおねえさんであったというのに。はないちもんめじゃ、みーんな私のことを――」

 


 ……酸っぱい。あげたはずのキャンディーがまさかこうして返ってくるとは思わなかった。おばあちゃんがどうとか、おひめ様がどうとかとは知らないけどとりあえず――



 「……もう誰もそんなのやってないから。来な、ゲームでボコボコにしてやる」


 「ふふん、げーむが何かは知らんが、この私がお子様に負けるなんてとても――」



 この子に絶対トリックしてやると、まさおは心に誓ったのだった。



 



 


 













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