表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

求めるは彼の方の絶望 全てを壊された王子様

作者: 小埜我生
掲載日:2026/05/21

※暴力表現、死、含まれるため苦手な方はお気をつけください

「サブリナ・ソロモン。貴様に処刑を命ずる!」

あの日全てが終わり、悪夢はもう晴れたのだ。

そう、思っていた――――――



僕はこのストレシア王国の王太子 ジェミン・ド・エイワースだ。

かつてこの土地は痩せた土、周辺国同士での紛争により荒んだ治安。

到底平和からほど遠い場所だった。


当時流民だった初代国王はこの土地で出会った妻を守るため戦い、ついには国を作った。

その妻は不思議な術で土地を豊かにしていったそうだ。

今では豊かで広大な土地を有する大国に成長していた。


祖先である初代国王の伝説は幼い頃から何度も聞いていた。

出生は不明だが剣にも弓術にも優れた豪傑で男としては憧れの人物。


そんな彼にはもう一つ有名な逸話があった。

妻であり後の王妃になる人物をとても愛しており、それはそれは大事にしていたそうだ。


(ぼくもおくさんをだいじにするぞ)

幼き日に誓ったものだ。


国王陛下の嫡男である僕には当然婚約者がいる。

サブリナ・ソロモン侯爵令嬢だ。

彼女は銀髪に赤の金の左右違う瞳を持つ不思議な雰囲気の少女。

建国初期からある歴史深いソロモン侯爵家の長女だ。


「ソロモン侯爵家が長女 サブリナでございます」

顔合わせ時の彼女はとても綺麗だった。

僕と同い年で七歳だが完璧な礼儀作法の彼女には王妃である母も嬉しそうに微笑んでいる。


かと思えば僕と二人で遊んでいるときは年齢相応のあどけない笑顔を見せてくれる。

どんな者にも優しく賢い完璧な僕の婚約者。

誰もが彼女を次代の王妃に相応しいと思っていた。


ある日ソロモン家でのお茶会に訪れた日、彼女へ贈り物をした。

僕と彼女のイニシャル入りのテディベア。

職人に特注したものでとても可愛らしかった。


「とっても可愛いですね」

テディベアを渡すと彼女は嬉しかったのか人形をギュッと抱きしめた。

そんな姿が愛らしくて送って良かったと心から思った。


「そろそろお暇させてもらうね」

彼女とお喋りしていたら思ったより遅くなったようで侍従がそれとなく促してくれた。

「はい、お見送りしますわ」


「いや、ここでいいよ。また来るね」

そろそろ寒くなってきたし玄関までの見送りを断った。

彼女は時折ひどく体調を崩す為、無理をさせたくない。


「お気遣い感謝いたします。では、窓から馬車を見送りますね。会えるのお待ちしていますわ」

僕の思いに気付いたようで彼女は嬉しそうに頬を染めていた。


今日も婚約者が可愛かった、贈り物も喜んでくれたと僕は上機嫌で玄関へ向かった。

その途中でハンカチを忘れたことに気付いた。

侍従がとりに向かおうとしたがどうせなら少しでも彼女の顔が見たかったし、驚かようという悪戯心から自身が向かうから待っているように指示した。


足音を殺し、先程までいた部屋へと忍び寄る。

扉が少し開いていた。

いけないと分かりつつそっとのぞき見た。


メイドを下がらせたのか中には彼女一人だった。

またテディベアを抱きしめていた。

抱きしめたままゆらゆらと揺れていて本当に喜んでいるのだと思った。

普段のしっかりしている彼女の年相応な姿に見とれてしまった。

部屋に入ろうとノックの手をしようとした直前だった。


ビリィィィィィィィィィィィィィィ


布を切り裂く音。

手は空に浮いたままだった。

視線の先には先程まで愛でていたテディベアをナイフで引き裂き恍惚としているサブリナがいた。

引き裂かれ、ちぎれた綿をまき散らしながら彼女はそれまでで見たことないほど幸せそうに笑みを浮かべていた。

僕は声をかけることも出来ずソロモンの屋敷を逃げるように帰った。


僕は王宮に戻ると部屋に籠もりベットの中で震えた。

周囲は体調を心配していたが疲れただけだから心配ないと伝えた。

言えるものか。


才色兼備で誰にも優しく私自身も先程まで誰よりも僕の婚約者に相応しいと思っていたサブリナが僕が贈ったテディベアを引き裂くような人物なんて。


しかも笑いながら僕の名を呟きながらそんな奇行を行っていたなんて。

目の前で見た僕でも信じれないのに。

誰に言えるというのだ。

可愛く守りたいと思っていた彼女の笑みをあんなにおぞましいと思うなんて。




「サビー、壊すなら拾ってくるな」

天気が良いので庭でお茶を嗜んでいるとウォーロックが呆れたようにそう言ってきた。

一応お兄様にあたるが兄と言っても双子なので同い年。

私と同じ見た目だけど瞳の色が左右反対。


「ふぅ、ウォロは分かってませんね。壊れるから・・・壊すから美しいのに」

思い出すとまた心が高鳴る先日婚約者から贈られたテディベア。

イニシャル入りでとても愛らしかった。

柔らかい手触り、手入れすればずっと側に置けるだろう。

それをまだ綺麗なのに大事なのに壊す。


彼が私を想って贈ってくれたとても大事な熊さんをビリビリにナイフで引き裂く。

いつもならもう少し後までとっておくのに我慢出来なかった。

喜ぶ私を見る彼の笑顔がとっても素敵で興奮を抑えるにはそうするしかなかった。


ウォロが言っているのは先日街で拾った浮浪者の事だろう。

買い物している途中で路地で倒れているのを見つけた。

田舎から王都に仕事を探しに来たが騙され路銀さえ失ったそう。


「それは大変でしたわね」

手を差しのばすと彼は涙を流していた。

侍従に指示して屋敷に連れて行き、怪我の手当と食事、そして屋敷の下働きにするように指示した。

それを見ていた街の人達は口を揃えて。


『ソロモンの聖女様は本当に慈愛溢れる方だ』

『浮浪者にすら直接手を差しのばすなんて貴族の姫さんなのに女神様みたいだな』

『お美しいのにそれを鼻にかけないのも素敵よね』

『ソロモン家で働けるなんてうらやましいわ』


なんて褒め称える声が聞こえてくる。

彼らは知らないだろう。我が家に入るというのがどういう事かを。


「彼は奈落から救ってくれた私を盲目的に心酔して、きっとどんどん素敵になれるわ」


「そして彼が幸せの絶頂の時に全てを奪って壊すのか」


「ふふ、とっても楽しみ」


「・・・・サビーが楽しいなら仕方ないか」

ウォロはやや呆れたように言うが私は分かっていてよ。

兄は私のことが好きで好きで仕方ないの。

だから私の周りに人が増えるのが気に食わないの。

けれど私が望めば叶えるしかない。それが兄の愛だから。

まぁ、人でいれるのは幸せになるまでだから我慢してもらうわ。




私は今日も我慢している。

欲に直線的な我が家の人間にしてはとてもストイックだと思う。

好きに生きる母と妹を見ると思わずそうしたいと思わなくもないが最後はとどまってしまう。なぜならそれが愛おしい人の望みだから。


「あぁ、今日もサビーが可愛くて愛おしい」

双子の妹であるサブリナを私は愛している。

己の魂の片割れなのだから愛さないほうが土台無理な話だ。

神秘的な銀髪に薔薇のような赤と神々しさの金の瞳。

性格も能力も彼女を構成する全てが完璧だ。

神などという役立たず信じたことなどないが彼女を私の妹にしてくれたことにだけは感謝してやりたい。


妹以外なんて豚以下と心から思っている。

けれど時折妹は豚を保護する。

美しい妹の側に醜く汚い豚なんて置きたくないが彼女が望むなら受け入れるしかない。

当然見張りをつけ万が一億が一も彼女に手を出すなんて身の程知らずが現れないようにする。もしも彼女に少しでも触れれば当然処分する。


(ああ、新しい豚は彼女の差し出された手に触れたそうだ・・・コロシテヤリタイ)

血が出るほど拳を握りしめてしまった。


【治せ】

手の傷が消えていく。

サビーの事になるとつい我を忘れてしまう。まぁ、それすらも幸せなのだけれど。

それで邪魔をしてはいけないからまた我慢するしかない。


ソロモン家は魔法使いの名門で数多くの著名な魔女と魔法使いを輩出していた。

当然私もサビーも膨大な魔力を秘めている。

そのせいで妹は王家に目を付けられたのが忌々しい。

今すぐ城に大魔法を・・・だめだ、そうすればサビーが怒ってしまう。

彼女は壊れる瞬間を愛している。

豚を拾うのもその趣味の一環だ。


彼女の今一番大事に育てているのは婚約者の豚だろう。

豚の分際で妹の婚約者の席に座るなど万死に値するが妹が顔合わせで見初めてしまった。

ならば王家からの婚約の申し込みは受けねばならない。

何故なら彼女が望むから。


世間知らずの甘ったれた豚だがそれが気に入ったそうだ。

欲に素直な妹が初めて我慢している。

時折、我慢できずに身近な豚を壊しているが本命は最高の瞬間がくるまで大事に大事にして。

「・・・早く壊してくれないかな」

壊した後ならサビーはそれをどう扱おうと怒らない。

私の我慢した分はその時に思う存分奮おう。




あの日から彼女の優しさに疑問をもった。

それとなく探っても彼女は変わらぬ美しい微笑みを浮かべるばかり。

きっと見間違い、白昼夢でも見たんだと自分に言い聞かせた。

知ってしまえば戻れない気がしたから。


見ないようにすれば彼女は美しく優しい婚約者。

最近、市井ではその慈愛溢れる姿から聖女と呼ばれる事もあるらしい。

けれど彼女の事を信じたいと願えば願うほどあの日が夢にでる。

そして気付いた。彼女が救ったとされる人々は屋敷で雇われるが突然その姿を消していると


ついに耐えれず僕は教会で告解した。

誰にも言えぬこの思いを懺悔したのだ。

もう限界だった。


そんな僕に寄り添ってくれた人がいた。

シスターマリア。

僕の身分を知る者がいない教会を探した結果、貧民街にある孤児院を兼ねた教会。

牧師すらおらず一人の若いシスターのみだった。


孤児を守る彼女なら僕の荒唐無稽なこの話を信じてくれる気がした。

その予想通り彼女は信じてくれた。

聖女と呼ばれるサブリナを恐ろしいと感じるなんて。


「彼女は悪魔に魅入られているのかもしれません」

マリアは深刻な表情でそう言った。


「悪魔というのは存在するのか?」


「はい、教会にはそういった方が秘密裏に運ばれます」


「秘密裏に?」


「・・・一度魅入られると周囲に悪意をまき散らし、さらに被害者を増やすのです」


「救うことはできないのか」

彼女は顔を横に振る。


悪魔なんてそれこそありえない。彼女は聖女とまで呼ばれているんだ。それを悪魔?

嘘だ。いや、でもあの日の彼女の笑みは・・・。


「・・・どうやって調べられる」


「教会本部に伝えれば可能です」


「頼む、サブリナを・・・僕の婚約者を・・・」

それ以上の言葉はいらなかった。

僕を抱きしめるマリアの暖かさだけが救いだった。




そこからはあっという間だった。

教会によりサブリナは悪魔に魅入られていたことが判明した。

高位貴族であり王太子の婚約者が悪魔に魅入られるなど大スキャンダルだった。


当然彼女の身柄は即刻捕らえられた。

ソロモン家自体の関与も疑われたがそれは証拠がなかった。

当初は彼女の双子の兄より彼女が無罪という訴えが何度も届いていたがそれは認められなかった。

認められないと諦めたのか最近は静かにしていた。


当の本人は否定も肯定もせずただ微笑んでおり。

最初は聖女とまで呼ばれた女性の逮捕に疑問視していた者もその異様な姿に口をつぐんだ。


悪魔の存在を公表するわけにいかずサブリナは気をおかしくして私に危害を与えようとしたということで処刑に処すことが決定した。

ソロモン家は連座は免れたが降爵で子爵になる。


処刑はつつがなく行われた。

彼女はその首が離れるその瞬間まで表情を変えなかった。

けれど間違いなくサブリナはこの世を去った。

やっと悪夢から逃れられるそう安堵した。


その後僕はあの時救ってくれたマリアと結婚した。

元々男爵の庶子で家族から虐げられ教会で生活していたそうだ。

王族を救った褒賞として孤児院に多額の寄付を希望し、今では新しい牧師とシスターが派遣され建物も修繕された。


そして彼女は公爵家に養女として迎えられ、僕の婚約者となった。

元婚約者が悪魔に魅入られ、自身に近づかれていたことから僕はもう他の令嬢が信じれず。

唯一信じれたのがマリアだった。


聖職者であり僕を救ってくれた彼女だけ。

その思いを気遣ってか両親は認めてくれた。

婚約期間を経てついに彼女と結婚し、初夜を迎えた。


「やっと君と愛し合える」

寝室で彼女を抱きしめた。

当初は王太子妃教育に苦戦していたようだが勤勉な彼女は徐々に頭角を現した。

そのおかげで予定よりも大分早く結婚することが出来た。


腕の中の彼女が私の背に腕を回してくれ抱きしめ合った。

やっと愛する人と幸せになれる。そう思っていた。


「やっと貴方を壊せますわ」

ささやかれた言葉に驚いて彼女を話すとそこには間違いなくマリアがいた。

いつもと違うのはあの微笑みを浮かべていたこと。


「マリア?」


「サブリナにございます」


「は?は!?は?」


「落ち着きください」

愛した女の顔は変わらないのにそのしゃべり方も仕草も表情も彼女ではない。

全てがあいつを思い出させる。

悪夢再び。



「マリアは!?マリアはどうしたんだ!!」


「ふふ、私が生きているんですもの。つまり分かるでしょう?」

サブリナは自身の首を指さした。


その瞬間悪寒が走る。

「ま、まさか」


「顔を変えて操っていたとはいえ自分の妻を処刑した気分はいかがですか?ああ、妻は私ですからただのシスターですわね」


「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」

あの時僕が処刑を命じたのはサブリナだ。マリアを処刑したなんて嘘に決まってる。


「微笑みしかできないようにしておりましたが彼女はちゃんと意識残してましたから貴方とのお別れは出来てますよ」

僕はその場に崩れ落ちた。

愛した人は僕が殺した。彼女はそれをただ見ることしか出来ず。

側に自分の顔をしたサブリナといる僕を。


「あぁ!その顔ですわ!その絶望した顔が見たかった」

虚ろな僕をサブリナは悶えながら喜んでいた。


僕はもうどうすることも出来ないだろう。

現にこれだけ騒いでるのに近衛は来ない。きっとこの魔女が手を打っているのだろう。

彼女が自身の顔を手で覆うとかつての姿に変わった。いや、戻ったのか。


最初から無駄だったのだ。悪魔から逃げるなんて出来ない。




「やっと満足した?」

背後にいつからいたのか兄がいた。


「ええ、とても美しかったです。私を処してやっと安寧を幸せを手に入れたと思った瞬間にそれは幻だったと知って壊れるジェミン様。マリア様の断頭台での姿も素敵でしたけどやっぱり待ちに待ったごちそうは格別ですわ」


「サビーが嬉しそうで良かった。それじゃあ後は私の好きにさせてくれるかい?」


「ウォロも楽しんで。私はお母様とお茶でもしてるわ」


「ああ、ごゆっくり。・・・やっと豚どもを処分出来る」


その日王都では多くの命が刈り取られた。

しかし全員が死んではいない。

正確には仮初めの魂を与えられた傀儡が溢れた。

彼は愛おしい妹の為に今まで我慢していた。

彼女の周りの豚の処分を。


ソロモンはかつて悪魔と契った。

大量の魔力と引き換えに良心の消失と科せられる大罪の欲望。


彼らの母は【色欲】を。

ウォーロックは【憤怒】を。

そしてサブリナは【強欲】を悪魔より科せられていた。


彼らは表立って行動したりなどしない。

常に彼らが求めているのは己の欲だけ。


愛する男を魂ごとしばり愛でる母も愛おしい妹に関わった豚を処分する兄も幸福が壊れる絶望の瞬間を求める妹も。


ただただ悪魔は彼らのその欲を眺めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おっそろしいが、話が上手く出来ていて面白いですね。 世界が平和でいられるかどうかは彼らの気分次第って事ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ