第5話 正統なる血統 カミラ・ツェペシュ
春の息吹が感じられる今日、私たちは人族の学園に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。各種族の『RACE』を代表してお礼申し上げます。
全校生徒三百名が集められた講堂で、七種族を代表して妖怪族の風雅(以下・フウガ)が新入生スピーチをした
妖怪族・フウガ、雄
妖怪族の長である九尾の狐の嫡子でヤツ自身は四尾の狐
眉目秀麗・冷静沈着、銀髪にスラッとした高身長からのイケメンときたもんだ!
入学初日そうそう、学年を問わず周りの女どもは黄色い声をあげて夢中だ……
「あんな獣臭い男のどこが良いのかしら……」
辛辣な発言をする隣りに座ったコイツは、アンデッド族『カミラ・ツェペシュ』
ヴァンパイアの始祖『ドラキュラ伯爵』の正統なる血統である現ヴァンパイア王の末娘なのだが……
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時刻は今朝までさかのぼる
「なんだよ、もぉ皆行っちまったあとかよ……」
本日の皿洗い当番だった俺様は寮生全員が食べ終わった食器を洗っていたので出遅れたようだ
まぁ皆で仲良しこよしで登校なんてのは、悪魔の俺には似合わないから丁度良かったのだが……
皆より少し遅れて登校しようと玄関を出ると……カミラがいた……
「何やってんのお前?」
玄関口に一人佇み空を見上げているカミラ
風になびく黒髪からは仄かにシャンプーの香りを感じた
「見て分からないのかしら《《無能》》ね……」
コイツはいつも感情を表面に出さずに淡々と話す
そして一言要らない言葉を付け足す……
「はいはい俺はバカなんでね! バカな俺にも分かるように御説明をお願いしますよ、カミラ御嬢様!」
「私達ヴァンパイアにはキツ過ぎるのよ……《《察しなさい》》……」
あぁそういう事か、ヴァンパイアは太陽に弱い!
この世界のヴァンパイアは陽射しにあたっても死ぬ訳ではないのだが《《苦手》》らしく好んで日の下に出たくないのだそうだ……
確かに今日の天気は快晴、太陽のないZIGOKU育ちの俺にも眩しすぎる位なのだから
ヴァンパイアのカミラには相当なものだろう……
「だからアナタを私の日傘担当に任命するわ……光栄に思いなさい……」
「はあぁぁ? 自分でさせばいいだろうが!」
コイツは俺様に日傘をさしながら横に並んで登校しろと言ってやがるのか!?
「なぜ私が自ら傘を持つの? それに横並びって、、、おバカさんね後しろからに決まってるでしょ、身の程を知りなさい…… 」
……これ以上コイツと話してると入学式に遅刻しちまう
俺様は今朝からカミラ御嬢様用のごっつい日傘を持って付いてまわると言う《《ありがたぁぁぁい》》役目を仰せつかったのだった……
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入学式も終わり俺たち生徒は教室へと流れた
昔を思い出すなぁ、悪魔族にも学校はあった
悪魔も十歳くらいになると学校に通い悪魔族としての教育を受ける
悪魔族の歴史と悪魔がなぜ契約の名のもとに他人の命や生命力を回収するのか等だ……長くなるので今は割愛しておこう
俺たちRACEは同じクラス『1のA組』となった、因みに一学年A〜Cの三クラスがある
教室に入り黒板に記された自分の席に座り周りを観察する……
教壇の周りではフウガが人族の女生徒に囲まれて質問攻めにあっていた
人族からすれば俺たちレースは物珍しいのだろう、各々が取り囲まれて質問攻めにあっている
俺様と見るからに強面のバルログ以外はな
バルログはしょうが無いじゃん! 見た目が怖く、今にも噛みつきそうな顔をしてるのだから!
しかし俺様はというと『悪魔は悪い奴』・『だます奴』・『信用ならない』と、見た目どころか風評被害で毛嫌いされているのだろう位に思っていた……
しかしそんな事ではなかった……
「あの人下着泥棒らしいわよ!」
「寮では所かまわず真っ裸らしいぜ!」
オーレリアだな! 要らん噂を流しやがって! 入学早々、変態クソ野郎のレッテルを貼られてんじゃん!!
まぁそんなこんなで初日から職員室にも呼び出されて事情聴取を取られる始末だった……
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「クソッ! 教師のクセに噂を真に受けやがって!」
事情聴取は昼過ぎまで続き、教師たちの腹の虫が限界を超えたところで終了した……
「腹減ったなぁ……饅頭食ってやるか!」
俺様は職員室に置いてあった紅白饅頭なるものをくすねてきていた
白と赤の饅頭がセットで箱に入った祝のお菓子だそうだ……
白い方の饅頭をかじりながら廊下を歩く……
入学式とその後の説明会も午前中には終わっていたので、他の生徒達の姿はない
閑散とした校舎や窓から見える人けのないグラウンドは寂しさすら感じるくらいだ……
「遅いわよ……」
「へっ?……」
校舎の正面出入口にカミラが立っていた……
「従者ごときが、私を待たすなど言語道断だわ……」
カミラは俺に向かって日傘を突き出して言う……
「へいへい、お待たせいたしやした!」
察した俺様はここで言い争っても面倒なだけと、日傘を受け取り御嬢様の背後から傘を開いた
「でもそんな事言って、ホントは俺様と一緒に帰りたかっただけなんだろぅ!?」
「その脳天気で愚劣な思考はどこから湧いてくるのかしら……」
相変わらずの無感情毒舌……
「アナタの肩の高さから傘を差した場合の私の頭部との高低差! アナタの腕の長さから私の頭部への絶妙の距離感、そして進行速度のバランス! もろもろを考慮してアナタを日傘専門従者として認めてあげたに過ぎないわ!」
何言ってんのか分からんと言うかウザい……
「マァミンナニハコトワラレタノダケレド…『グウゥゥゥ』」
何か言ったかコイツ……それよりなんだ?カミラの腹の虫が鳴ったのか?
「腹減ったのか?」
「私じゃないわよ! このセクハラ悪魔!!」
ここは感情こめるんだな……
「ヴァンパイアも腹減るんだな?」
「ち、、違うと言ってるでしょ!」
俺様はさっきくすねた紅白饅頭の赤い方をカミラの目の前に差し出した
「甘くて美味かったぞ!」
「………………」
カミラは不審そうな目で饅頭と俺の顔を交互に見つめている……
確かに何故ここに饅頭があるのか不思議だろうし、それを差し出しているのが悪魔ってのもあるだろうな!
「要らねぇなら辞めとくか……」
「要らないとは言ってないわ!」
俺様が下げようとした饅頭をカミラは素早く奪い取った……
「ホントね、、、甘くて美味しいわ」
カミラは小さな口でパクパクと饅頭を食べている
なんか、小動物が一生懸命に樹の実をかじってるみたいだ
「黙ってると可愛いのにな……」
「■☓〇〇▼!!」
俺のその発言に一瞬だが時が止まった……
「お、、、お前しゃべると憎まれ口ばっかだしな! イッヒッヒッ!」
カミラは真っ赤な顔をしていたが俺に見られまいとしてそっぽを向いている
「アナタこれ以上バカなこと言ったら四肢を引き裂いた上にZIGOKUへと強制送還いたしますわよ!」
「へいへい、それは痛いから勘弁してください御嬢様!」
カミラは口が小さいせいか未だ食べ終われない饅頭をパクつきながら前を進みだした
俺様はカミラに陽射しが当たらないように気をつけて腕を伸ばしたり縮めたり上げたり下げたり……
オーレリアが絡んでこないと平和な一日だったとつくづく思った……
俺は悪魔族アギト、戦闘力ゼロ・甲斐性ゼロ・金なし家なし女なし
クソの付くほどの気の利く従者である……




