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隠されていた千代さんの真実

 客間に鈴ちゃんと僕、宮子姉さんがいる。


 外が大変なことになっているので、お茶は用意してないし食べられるような物は残っていない。


 何も出していないけど宮子姉さんは嫌な顔なんてせず、興奮気味に僕たちが知りたい真実を口にする。


「先にこれだけ言っておくけど、行方不明者が出ていたけどそれなりに離島が平和だったのは千代さんのおかげだったの」

「島の守り神になったからですね」

「ううん。私たちはそこから間違っていたの」

「……どういうことですか?」


 家系図を見て千代さんが生贄になったと結論を出していたけど、違っていたようだ。


 何が何だか分からず、僕は黙って続きの言葉を待つ。


「まず違うところとしては島の守り神様は千代さんの子供だったのよ」

「誰の子供……もしかして!?」


 家系図を見たときに話していたことを思い出した。


 異種族との婚姻だ。


 お話として異類婚姻譚を読むのは好きだけど、現実になると気持ち悪い。特にあの幽魚が相手なんだから、想像すらしたくないと思ってしまった。

 

「雪久くんが考えた通りだよ。幽魚と人間のハーフが守り神様だったらしいわ。一郎さんが残した記録に残っていたの」

 

 宮子姉さんは、ボロボロになった複数の和紙をテーブルに置いてくれた。


 昔の文字だから僕は読めないけど、墨で書かれていて達筆のように思える。


「これがその記録ですか?」

「うん。当時にしては珍しく読み書きができたみたいね。もしかしたら偉い人の血筋なのかも」


 僕たちは鈴ちゃんを見た。


 偉い人の子孫だとしたら納得だ。九歳にしては聡明だし、落ち着いている。家にある鳥居がそれを裏付けているように思えた。


「幽魚にとって、その血筋との相性が良かったみたい。千代さんが死んだ後も狙ってきたみたいだから」

「鈴ちゃんも?」

「うん」

「僕も襲われたんですけど……」

「雪久くんは邪魔だからじゃない? 嫉妬で殺しに来ても不思議じゃないでしょ」

「え……」


 まさか狙っている女性に男がいるから殺しに来るなんて思わない!


 なんでそういう所だけは、人間的な発想なんだ!


 いや、まてまて。これは宮子さんの解釈であって、真実かはわからないぞ。もしかしたら違うかもしれない。うん、そういうことにしておこう。


「話を千代さんの子供に戻しましょうか。幽魚とのハーフになった彼は超常的な現象を操れるようになっていたらしいの。詳しいことはわからないけど、幽魚が嫌がる臭いや力を抑える能力、あとは……」

「見えない壁とか?」

「そうそう。それ。とにかく人間ではない力を持っていて、彼は島の守り神として崇められ、地面に埋められた」

「生きたままですか?」

「うん。本人の希望でね」

 

 千代さんと半幽魚の守り神様……二人の犠牲の上に平和が成り立っていたのか。


「彼は生きている間、その能力を遺憾なく発揮し、離島の平和を守ったと書かれているんだけど、この意味どう思う?」


 急に質問されて戸惑ってしまったけど、落ち着いて考えてみる。


 島の守り神様として崇められていたんだから、生きている間って表現はちょっとおかしい。


 死後もしくは、島の守り神として生きるみたいな表現が正しいだろう。宮子姉さんの翻訳が間違っているとは思わない。もし書いている内容が事実であれば……。


「昨日まで生きていた?」


 鈴ちゃんの言葉に宮子姉さんがうなずいた。


 生き埋めされたけど、飲まず食わずで何十年も生きていたのか。そして寿命が近くなってお守りの力が消えたのだろう。


 一瞬の死ではなく、長く続く地獄のような苦しみを味わっていたはずだ。それでも僕を守るために障壁で助けてくれたのだから、感謝の気持ちしかない。もし生き残れたらお墓を作って埋葬してあげたいけど、幽魚が徘徊している今の離島じゃそれも無理だろう。


「幽魚と守り神様の関係はわかりました。でもまだわからないことがあります。僕の目の前で人間が魚顔の化け物になったんですけど、一郎さんの記録には何か残ってませんか?」

「一郎さんの直系子孫を手に入れられない幽魚は、花嫁を探してさまよい歩いていると書いてあったわ。行方不明になった女性はきっと、ね?」


 最後までは言わなくてもわかる。子供を作らされたのだろう。


 もしかしてその結果が、魚顔の化け物なんだろうか。


 島の守り神が亡くなったタイミングで出てきた理由はわからないけど、加護の力と関係はありそうだ。

 

「私が調べたことは以上よ。役に立ったかしら?」

「はい。僕たちが狙われている理由も含めて納得できました」


 すごく理不尽な理由だけどね。


「あーよかった。急いで調べたかいがあったよ」


 力が抜けたように宮子姉さんは仰向けになった。


 目を閉じるとすぐに寝息を立てる。


 もしかして徹夜で調べてくれたのかもしれない。


「何か上にかけるものを持ってきますね」


 しっかり者の鈴ちゃんは立ち上がって、二階へ行ってしまった。


 残った僕は食糧問題をどうにかするべく、何度も調べた台所へ行く。冷蔵庫の中身は醤油と塩だけ。他には何も入っていない。棚の中を漁ってみたけど、お菓子すらなかった。


 そこで床に四角い金属の枠があることに気づく。


 床下につながっている蓋だ。収納として使っている家もあると聞いたことがある。


 期待しながら開けてみると壺が入っていた。中には白菜やキュウリといった野菜がたくさんあって、塩の匂いがする。漬けてあったんだろう。


 一口食べてみる。


 腐ったような味はしない。食べられそうだ。


 梅干しもあるし、これで飢え死にだけは避けられそうだ。ほっと安堵した。

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