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宮子姉さんの目的

 田川さんを追い払っても宮子姉さんは家に残っていた。


 今は客間でお茶を飲んでいる。


 鈴ちゃんと僕はテーブルを挟んで前に座っていた。


「あのおっさん、目つきが良くないよね~。職場のセクハラジジィとそっくり」

「歴史博物館にも、そんな人いるんですか?」

「え、ああ! そうそう、たまに出てくるんだよね!」


 ビクッと驚いた反応をされたけど、すぐ気にならなくなった。

 

 隙の多い服装をしていることもあって、訪れる客の中にはセクハラをする人がいるんだろう。


「源君の家に来たついでに聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「家系図ってあったら見せて欲しいな」


 フワフワしたような雰囲気から一転して、宮子姉さんは落ち着いた声になった。


「どうして知りたいんですか?」


 返事をしたのは鈴ちゃんだ。警戒しているようにも思えるし、僕も同じだ。


 だって鈴ちゃんは失われたはずの血筋――島を開拓した人との直系なんだからね。話しやすい相手だからって、理由も無く教えるのは躊躇される。


「職業柄って言ったら教えてくれるのかな?」

「ううん」

「だよねー」


 あははと笑いながら、宮子姉さんはお茶を飲んだ。


「幽魚」

「っ!!」


 僕らしか知らない単語を出されて、驚きの感情が思わず顔に出てしまった。


 宮子姉さんは勝ち誇った笑みをしている。

 

 してやられた!


「実は私ね。この島の隠された歴史を調べているの。何でもいいから知っていることを教えて!」


 両手を合わせて拝まれてしまった。


「もう5年ぐらい前になるかな。私の父さんがこの離島で行方不明になったの。帰りの便にすら乗ってないっておかしくない? 警察は動いてくれないし、誰に聞いても知らないって言われて……だから移り住んで調べていたんだ。それで幽魚にたどり着いた」


 これが宮子姉さんの隠していたことなのか。


 行方不明が続出している原因を幽魚だと思っているんだろう。


「夫婦仲は良かったし、仕事も順調だと聞いていた。私はこの離島に飲まれたんだって思っている」


 観光客から行方不明者が出やすいと、兄さんに聞いたことがある。


 犯人が幽魚であれば、聞き込みをしてもわからないってのは納得がいく。


「お父さんが行方不明になったのはわかりました。幽魚が関係している可能性もあるでしょう。ですが、それと鈴ちゃんの家系図に何の関係が?」

「もし鈴ちゃんが開祖の直系なら、幽魚に対抗する手段があるかもしれない」

「守り神様ですね」

「幽魚に対抗するお守りが神様の近くにある石ってのも知っている?」

「はい」

「だったら、幽魚を退ける力が直系にあるって思わない? 父さんのことは諦めているけど、せめて犯人であろう幽魚に一矢報いたいんだよね」


 犯人が不明のままでは納得がいかないって感じだ。幽魚が原因として倒し、一区切りつけたいのかな。


 もし本当に幽魚への対策ができるなら、宮子姉さんに情報を渡すのは賛成だ。味方は多いに越したことはない。


「鈴ちゃんどうする?」

「家系図はおばあちゃんの部屋にあるはず。雪久おじさんがいいなら、私は大丈夫だよ」

「宮子姉さんに見せよう」

「ありがとう!」


 テーブルを飛び越えて僕に抱きついてきた。


 勢いに負けて押し倒されてしまう。胸が当たって幸せな感触がする。


「雪久おじさんのエッチ」


 ああ! なんてことだ! 保護者だというのにだらしない顔をしていたみたいだ。


 引っ付いてきた宮子姉さんを引き離す。


「僕も幽魚を倒したいのでお礼はいりません」

「……会ったことあるの?」

「何回か」

「生き残れたんだ、すごいね」

「島の守り神様とお守りのおかげですよ」


 鈴ちゃんがお守りを持っていなければ、初回の遭遇で死んでいたかもしれない。


 そう考えると命の恩人だね。


 立ち上がって宮子姉さんを二階にまで案内する。祖父母の部屋に入ると先ずは本を見せた。


「ここに家系図とお守りの作り方が書いてあるんだ」

「見せてもらうね」


 本を開いた宮子姉さんは黙って読んでいる。


 時間にして数分で僕を見た。


「間違いなく、鈴ちゃんは直系の娘だね。それ以外にも重要なことがわかったよ」


 皆で見られるようにと本を畳に置くと、宮子姉さんは家系図の一番上である島を開拓した人の名前――一郎さんの子供達に置かれた。


 当時にしては人数は少なく男女の二人だ。息子の方は結婚をして孫を作り……鈴ちゃんの代まで書かれている。一方の娘は誰とも結婚しなかったようだ。


「人身御供にされたのは娘の千代さんだね」

「結婚をしなかったから?」

「うん。あの時代に未婚の女性がほとんどいないしね。それに当時は家を継がせる考えも主流だったし、残すなら男でしょ?」

「確かに……」


 現代と比べて昔は男を優遇していた。女性は結婚して家に入れって時代だったのだ。


「でもどうやって生け贄として使ったのかな。幽魚に食べさせたわけじゃないだろうし……あるとしたら婚姻?」


 すごいグロテスクなことを言っている。見ているだけで頭がどうにかなりそうな化け物と一緒になるなんて、想像しただけで身の毛がよだつ。


「結婚なんてあり得ない」

「あらそう? 古今東西、化け物と結婚する例はいっぱいあるんだよ」


 そうなんだ……。僕は自分の知識のなさに愕然とした。


「でも結婚しただけで守り神は作れない。他にも何かしているんだと思う」

「家系図だけじゃわからないね。本もお守りしか書いてないし……」

「きっと残しておきたくなかったんだろうね」


 人身御供のことも書いてないからね。


 誰かを犠牲にしたことは忌まわしい記憶だったのだろう。家族を幽魚に差し出したのであれば納得ではある。そういった意味でも宮子さんの話は説得力があった。


「幽魚の倒し方はわからないまま?」

「歴史博物館には入植当時の日記が沢山あるから、千代さんがどうなったか残っているんじゃないかな。私の方で調べてみるよ」


 いつの時代かわからないけど、昔の文字は読めない。宮子姉さんにお任せしよう。


「お願いするね」

「お任せあれってね。家系図を見せてもらったんだから、このぐらいは頑張るよ」


 自信があるようでウィンクをされてしまった。


 ノリが軽いけど相手は、あの幽魚だからちょっと不安になる。


 本当に信じてるから……!

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