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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
8/56

FILE:8 ―― 象の親子

ラストオブアスとかでもでてくる動物回いいよね

 ――日本屈指の面積と飼育頭数を誇るU動物園に到着した鷹邑は、正門横・チケット売り場の前に堂々とキャンピングカーを乗りつけた。

「駐車場要らずってのは楽ね」

 アドニスも、ドアを開けてやると颯爽と降り立つ。

 周囲には誰もいない。この静けさにも慣れたものだ。

「なんか変な臭いとかするか? 」

 アドニスはたまに園内のほうを食い入るように見つめる以外で、目立った変化をみせない。

「入ってみんことには始まらんか」

 いざ、入園。

 早速、四方に矢印を向けた標識が出迎える。

「熱帯……サバンナ……お前好きな動物とかいんの? 」

「くぅん」

「いないか。いないよな」

 二人は漫然とサバンナエリアを目指す。

 道中、動物の遺体が転がっている檻もあれば、空っぽのものもある。飼育員がゾンビになっている檻もあって、そのゾンビの脇では一頭のバクが一部白骨化して亡くなっていた。

 空にはまばらに、動物や人の屍をついばみに来た烏が舞っている。

「ははっ。ひでぇや」

 鷹邑は、普段では楽しめない動物園での歩きタバコを満喫しつつ、ずんずんと歩を進める。対照的に、アドニスの歩幅はとても小さくなっていた。

「バウッ」

 彼は進行方向を睨んで唸っている。

「どうした、怖いのか? 」

 鷹邑は周囲を見渡すが、何もいないし聞こえもしない。

「警察犬だもんな。()()()()()は利くか。一応注意しよう」

 腰の拳銃を抜いてセーフティを外してから、さらに奥へ進む。

 そして、いよいよサバンナエリアに到着。

「キリンさんもカバさんもいないか」

 しばしば檻の出入り口が開放されている。

「本当のサバンナと危険度は変わらんな。どっから猛獣が出るか分からん……気をつけろよ、アドニス」

「ガウ」

 二人はあるエリアにさしかかる。途端に、ソレを見た鷹邑が歓声をあげた。

「おぉ! ゾウだ! 」

「わぅっ! 」

 柵に身を乗り出して、鷹邑は二頭の、おそらく親子連れの象がエリアを周遊しているのを見つけた。元気は無さそうだが、たしかに生きている。アドニスも尻尾を振りながら興奮をあらわにした。

 象も二人に気づいたのか、堀のギリギリまで近づいてきて、勇ましいラッパのような鳴き声をあげた。

 ォォオオン……。

「歓迎されてるぞ! なぁ、アドニス! 」

「ばふっ! 」

 興奮状態の二人は、しばらくその二頭と見つめ合った。

「いいなぁ、かわいいな。久々に来たもんな。動物園なんて。小学生ぶりか」

 ひとりごとを漏らしながら感慨にふける。

「よく家族で来てた」

 当時の園内の賑わいや、見上げるばかりだった大人達の面影がよぎる。

 鷹邑は我に返り、ふと思った。

 象も、餌のほとんどない状況でなんとか耐えている状況。残った物をかき集めて、ようやく生きているに違いない。

「(象舎から繋がる運搬用のルートがあれば、逃してやることもできるか? )」

 鷹邑は、彼らを解放するルートを探すことにした。

 一度園外へ出て、道路伝いに象舎の裏手へ回り込んでみると、関係者以外立ち入り禁止となっている道路があり、その鉄柵は開いていた。

「ここだな。行こう」

 左右を木々に挟まれた道路を抜けると、やがて象舎と思しき建物の裏に辿り着く。

「シャッターか」

 舎の入口には、運搬トラックが通るための巨大なシャッターが頑丈に降りており、人間の力ではとても上げられそうにない。

「スイッチとか……」

 それはシャッター脇に見つかった。黄色と黒のしましまにデザインされている。

 スイッチを押し込むと、シャッターはゆっくりと上がっていく。チェーンが鳴る音や、シャッターを持ち上げるモーターの音がして、さながら工場だった。アドニスは尻尾を振ってシャッターの前を右往左往している。

 シャッターが開くと、動物特有の、野生味を帯びた臭いが吹き抜けてくる。鷹邑は思わず鼻をつまみ、アドニスは耳と尻尾を垂らした。

「とりあえず、全部の柵とドアを開放しよう。そうすりゃ、ゾウも勝手に出てくるだろ」

 鷹邑はそう思って、手あたり次第に巨大な柵や人間用のドアまで開けていく。そして、最後の放飼場に繋がる、スライド式のドアの前までやって来た。

「ここを開けたら、ゾウさんとご対面か」

 このドアも電動式になっている。象では開けられないようにするためだろう。

 脇のスイッチのカバーを開け、強く押しこむ。

 全長数メートルの分厚いドアが、ゆっくりとレールを擦りながら開き、陽光が舎の中に差しこんでくる。

「電気が通っててよかった。通してくれてる有志がいるんだろうな」

 舎の中に散らばっていた、糞や野菜の食べかすが照らされていく。

 飼育員と子どもの象が寄り添うように亡くなっている檻が、光に浮かび上がった。

 扉の向こうからこちらを見つけた象の親子が、ゆっくり歩み寄ってくる。

「下がってよう」

 二人は舎の出口まで後退して、象の動向を見守った。二頭は鳴くこともなく、食べ物の残骸を鼻で拾い、食べ始める。時折、飼育員の亡骸を鼻で撫でることがあったが、それ以上の反応は見せなかった。

「この二頭だけでも、この先、元気だといいな」

 鷹邑は込み上がってくる感情を抑え、アドニスにこぼす。

 かつての思い出の地の、この有様。

 歓楽街の荒廃よりも、記憶ごと胸をえぐり取っていくような、この変わりよう。

 鷹邑は涙こそ流さなかったが、眉間を抑えてうつむいた。





 ―― 次回へ続く。

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