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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
7/56

FILE:7 ―― 伊形組参集

怖い時のコウジ君は表記が皇治で、普段のコウジ君は表記がコウジになります。けど普通に忘れてるときあるよ

 ――突如として勃発した激闘の翌朝。

 事務所に戻った三名の伊形組構成員を加え、鷹邑、コウジ、アドニス、左門の計六名と一匹がオフィスに集まった。

 鷹邑は集団から離れたところの回転椅子にかけ、天井を見上げながら回っている。

 コウジは、組長のものであろうオフィス最奥の窓側のデスク、その机上に座りこんで、足元にアドニスを従えていた。

 その前に構成員四名が横並びになっている。

 左門の隣に並ぶ三人は奇抜な見た目だった。

 順に、迷彩のカーゴパンツに黒のタンクトップを来た筋骨隆々の黒人、オカメ・ひょっとこの面をつけた小柄な女の子二人である。

 黒人は名前をシャビ、オカメの子は五月雨、ひょっとこの子は霧雨といった。

 女の子二人はまるで双子のようで、どちらもセーターの上にポンチョコートを羽織り、下には黒色のパンツを履いている。スタイルも声も同じで、違うのは髪色だけだった。五月雨は黒色、霧雨は金色のショートボブである。

 そして、皇治をしてエースと言わしめる女、左門。

 四人に向け、コウジは労いの言葉をかける。

「まずは皆、よく生きて帰ってきた。ご苦労様」

 五月雨と霧雨が、すずめから借りたような細い声を合わせて「恐縮です」と返す。

「そりゃ無事ってもんだぜ。このガキンチョ二人の子守はこの俺よ? 」

 二人とは真逆の、地鳴りにも似た声がオフィスを震わせる。アドニスがやや眉を潜めた。

「守られた覚えはないが」と、五月雨が言う。

「ないが」と、霧雨も続く。

「言ってろ。未成年ども」

「シャビ、成果報告を」左門が諫める。

「っと、そうだった。報告するぜ」

 シャビはわざとらしく咳き込むと始める。

「ちょっと前までウヨウヨしてたヤクザも半グレも、今やどこにも見当たらねぇ。拠点を移したのか、それとも全滅したか……そこまでは分からんかった。すまねぇ。

 それから、ヤクザが消えた代わりに新しく生まれた勢力がある」

 左門の眉が興味深そうにあがる。

「人間もゾンビも喜んで殺す連中。他の生存者は()()()()()って呼んでた」

 法がかつてのように機能しなくなったせいで、すっかり治安は崩壊している。ゆえに、そんな存在がいても不思議ではないと、ここにいる全員が思った。

「ひたすら殺して、漁って、犯して、それを繰り返してるらしい。ヤクザの何倍もトチ狂ってやがる」

「それは遭遇したくないね。で、ゾンビが出てきた理由とか、発生源とかは分かった? 」

 皇治の質問に対して、シャビは頭をかいて答える。

「いや、分からんす」

 かつてゾンビは、どこからともなく、まるでワープしてきたかのように現れた。引きかえに、おそらくゾンビと同じ数の人間が、忽然こつぜんと姿を消した。

「頭の悪いSFだよな」遠くの鷹邑が茶化す。

「そう、まるでSFの世界。何も分からないのもしかたない……とりあえず目的を絞ろう。まず一つは親父の捜索。もう一つが伊形組の構成員および、その身内の捜索だ。この二つを並行して進めながら勢力を回復させる」

「俺、ボスに早く会いてぇよ」

「ワタシも」

「わたしも」

「速やかに安全圏を拡大しなければなりません。少なくとも、この歌舞伎町一帯は手中に」

「そうだね。そのアンモラルってのも、すぐにここを嗅ぎつけてくると思う。それまでに戦力と拠点の補強をしないと」

「了解したぜ」

「承知しました」

「しました」

 ――やがて、ミーティングが終わると、彼らは各々のデスクに散り、銃の点検や持ち物の整理をはじめる。

 鷹邑は一部始終を他人事で眺めていた。

「おい、俺とアドニスはどうすんだよ」

 左門が冷淡に答える。

「知らん。勝手に野垂れ死ね」

「アドニスとキャンピングカーは貰ってもいいな? 」

「ここ離れるの? 」コウジが車椅子で近づいてきて、そうたずねる。

「そうする。俺はヤクザじゃないし、集団行動も性に合わん」

「そっか。銃と弾と食料は好きなだけ持ってって」

「いいのか? 」

「命の恩人だからね。ヤクザは義理を大事にするんだよ」

「じゃあ、俺もこの恩をいつか返すよ。俺もこう見えて義理堅いんだ」

「嘘つけ」コウジは微笑む。

 鷹邑は言われたとおり、好きなだけリュックに食べ物を詰め、銃と弾丸を潤沢に手に入れた。

「達者でな! 」

「うん、元気で! 」

 鷹邑が指笛を鳴らすと、アドニスが喜んでついてくる。

「ノリの良いヤツだ。ほら、行くぞ」

「おい。キックボクサー」

 鷹邑の背に、ふと左門が呼びかける。

「お前は、私が殺す」

 鷹邑にはそれがエールに聞こえなくもなかった。

「あいよ」と、それだけ答えた。

 ――アドニスを助手席に乗せたキャンピングカーは、街をあてもなく走行する。

 日中とあって、ゾンビはあまり見当たらない。

「平和なもんだ」

「わふ」

「やっぱそう思うよな」

 そんな平和を享受しつつも、鷹邑の胸中にはしっかりとした目的がある。

「(身内の誰とも連絡がつかなくなって、もう何年だ……。誰かは見つけねぇと)」

 アドニスを一瞥する。

「お前のダチも見つけてやりたいよな……あ、そうだ」

 鷹邑は赤信号の下をくぐり、目標地点を定めた。

「おいアドニス。目指すは動物園だ。お前の仲間を探しに行こうぜ! 」

「わうっ! 」

 舗装されていない道路をトバすと、後ろの荷物が好き勝手にひっくり返る。それでも、動物園を目指して進む車が、かつて快速でなかったことはない。





 ―― 次回へ続く。

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