FILE:54 ―― 雫が岩を穿つまで
斬撃を防ぐ術を持たないアビスを追い詰める左門。アビスは刃を躱したとしても、鷹邑のキックで体勢を崩される。
「良い連携だ! 」
「口より手を動かせ! 」
左門の刀身は全身の腱を斬りつけ、鷹邑のローは膝に連続して入って骨を破壊する。いくら痛覚を持たないアビスであっても、筋肉が絶たれ、関節が破壊されればまともな反撃はできない。
しかし、持久戦になれば、ゾンビとの物量差で敗北は必至。鷹邑と左門はそれも理解していた。
――ジーニアスを追う公孝と新沼。
「ロケランは対アビスの切り札になります。決して撃たせないようにしてください! 」
「分かってますって……! 」
ロケットランチャーは、射撃態勢に入ってから照準を合わせ、発射するまで十秒ほど無防備になる。的確に銃撃を浴びせれば、その隙を作らせることはない。
「たたみ掛けます! 距離を詰めますよ! 」
「それも分かってますって! 」
どちらの戦闘も拮抗状態。
その天秤を傾けるのは。
『――ごめん、桃田さん』
「なんやコウジ君。はよ来てくれへん? じゃないと戦争終わらへんで」
『分かってる。けど……皆の所に戻るよ』
「本気で言っとる? 」
『親父が死んで、今の僕は伊形のボスだ。アビスと戦う部下を無視できない』
「……そか。なら、終わったら来てな」
『分かった。ありがとう』
「うい」
桃田は通話を切って天を仰ぐ。
「君の頼みの綱は来ないって?」埴が苦笑する。
「みたいやけど、お前のアビスもやで」
「あの個体は秘蔵っ子だからねぇ。上手いこと戦ってくれるといいんだけど」
「えらい余裕やな」
「まぁね。殺されたくないヤツより殺したいヤツが強い。戦局を見ても分かるけど、君たちが拮抗してると思ってるのは極々一部。現実は凄惨なものだよ」
チーム通天閣の面々は、埴から目を背けて唇を噛む。ただ、そんなことは桃田にとって大きな問題ではない。
――桃田の作戦を無視することを選んだコウジは、フルスロットルでバイクを駆る。向かうは、共有された左門の位置情報。
残すところ2話。次回へ続く。