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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
5/56

FILE:5 ―― 最強ですね、左門さん。

開戦の ゴングが鳴るで にょほほほほ

(575)

 ――二人と一匹は、電力のかろうじて生きていたエレベーターに揺られて上昇していく。その速度は不安になるほどゆっくりだった。

「仲間がいるって話だったよな」

「うちのエースが生きてたら心強いよ」

「エース……組長? 」

「そんなわけ。まぁ、親父も強いけど」

「エースってどんな奴なんだ」

「女の人。髪は銀色で身長は百七〇ぐらい」

「女ヤクザか」

「想像の百倍怖いよ。会ったら気をつけて」

 最上階の八階。

「このオフィスが事務所だよ」

 先に車椅子のコウジが出て、アドニスと鷹邑が続く。

「思ったより、その、会社っぽいんだな」

「大層な城を構えると目立つから、わざと普通のオフィスを借りたって親父は言ってたよ」

「ちゃんと考えてんだなぁ」

 照明を点けると、書類や機器の乱れた様子はあったものの、血痕はなく、死臭もしなかった。

「戦闘があった痕跡はなさそうか」

「家探しはされてるけどね。多分敵対組織のしわざ」

 コウジは、ドスをアドニスに嗅がせ、警察犬の実力を試す。

「もとは親父が持ってた。ニオイで何か分かるかな」

「ふぅン」

 アドニスは自信なさげに首を下げると、オフィスをうろつきはじめる。

 鷹邑はデスクなどをバリケード代わりにエレベーターの入り口に置くと、照明を落とし、広くなった床にベルトを外して寝転がった。

「ま。続きは明日の朝考えようぜ。お前も痛むだろ。脚」

「うん。そうだね」

 コウジは車椅子からゆっくり降りてフロアに横になると、傍にアドニスも寄り添った。どうやら父の痕跡は辿れなかったらしい。

 コウジとアドニスは、オフィスの奥にある窓際のデスクの裏に眠った。鷹邑はエレベーターから数メートル離れた床に大の字になる。

 ――深夜。

 鷹邑が、エレベーターの駆動音で目覚める。

 エレベーターの押しボタンの矢印が下向きに点灯しており、誰かがこのビルに来ているのが分かった。鷹邑には、()()が最上階まで上がってくるという不思議な確信があった。

 エレベーターが上昇してくる。壁上部にある数字の点灯が一から八へと近づいてくるにつれ、鷹邑の心拍数が上がる。

 八の字が点灯。

 扉がスライドし、中の光が暗いオフィスへと漏れてくる。バリケードが長い影をつくった。

「(組の人間なら、敵じゃないよな)」

 バリケードの隙間にのぞく人影。スーツを着ているのは分かるが、顔は積まれたデスクに隠れている。

「(相手は一人。アイツらを起こす必要はないか)」

 念のため、鷹邑は拳銃のセーフティを外し、胸ポケットに隠し持つ。ついでに外していたベルトも着けなおした。

 ――オフィスが揺れる。

 それは、デスクの山が蹴られ起きた震動だった。一番上の椅子と、その下のデスクが崩れ落ちる。アドニスが顔をあげて「何ごとか」と見回す。

「おうおう、大層な――」

 二度目の衝撃。

 バリケードが瓦解し、倒れたデスクを乗り越えて女が姿を現す。エレベーターの明かりで逆光になり、その表情は伺えない。

「誰だ。貴様は」

 心臓に針を打ちこまれるような鋭い声。並の人間なら一言で身がすくむ。

「――応えろ」

 次の声には怒気が感じられた。声は薔薇の棘のように鷹邑の鼓膜を突く。

「…………鷹邑一喜だ」

 喉がこわばり、緊張のあまり返答に時間を要する。彼は、キックボクシングの試合に勝るとも劣らない重い空気の中にいた。

 女が接近する。

 ポニーテールの銀髪。落ちくぼんだ青い両眼が暗がりに揺れる。スーツの上に黒いトレンチコートを羽織るシルエットは将校を彷彿とさせた。

「お前も名乗れよ」

 女はトレンチコートを脱ぎ、投げ捨てる。

 鷹邑はこの女に会話の余地がないことを悟った。

「……まぁいい。俺は元キックボクサーだ。向かってくるなら痛い目みるぜ」

 突如として発生した()()()。鷹邑は間合いをとりつつ構える。

 互いの必殺距離まで、あと一歩。




 ―― 次回へ続く。

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