表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
43/56

FILE:43 ―― 荷稲の克服

 代々木にて、ゾンビやアンモラルと戦闘するシャビ、五月雨、霧雨たち。

 銃弾が右からも左からも交錯し、怒声や悲鳴でまともな連携もとれない惨状。

「キリ無いわね……あぁもう、吐きそう…… 」

「早く終わらせて寿司が食いてぇよ! 」

 霧雨は隅の欠けた面の角度をなおしながら悪態をつき、シャビは大声で笑いとばす。

「寿司……特上でお願い」

 五月雨のお腹が鳴った。

 彼らは並行して、民間人の救助活動や避難誘導を行っていく。

「この感じだと、ウチの持ち場は大丈夫そうね? 」

「だな! 」

「……フラグ立てないで」


「――左門」

「いかがされました」

 東京。

 ひっそりと静まる街をゆく車には、コウジと左門だけが乗っている。

「皆が最前線で戦っていると思うと、歯痒いね」

 ポツリとコウジがこぼす

「我々は遊撃隊です。特異種が出たら急行して処理するのが役目。今はただ、連絡が来るのを待ちましょう」

「左門の花婿は来るかな? 」

「冗談はお控えください。鷹邑が来ても、何の仕事もありませんよ」

「鷹邑とは言ってないけどなぁ」

「……お控えください」

 左門はいっぱい食わされたように顔を赤らめた。


 ――当の鷹邑はというと。

「おいアドニス。これじゃ高速使えねえぞ」

「わう」

 高速道路でゾンビ二〇〇〇体に阻まれ、Uターンを余儀なくされていた。彼らが東京に辿り着くまでには、まだまだ時間を要する。


 ――伊形組事務所。

 鉞は、ただ鎮座してその時を待っている。

 オフィスには既に、鉄砲玉の遺体が三つ転がっているが、それでも鉞の狙いとは異なる。

 だが、間もなく狙いのほうから姿を現した。

 入口から、なんの気配もなく現れた白衣のゾンビ、中室。彼は枯れ果てた声で述べた。

「ㇵジメマして。伊形の゙長。中室と申しマ゙ず」

 鉞は中室の他に、何かが迫る予感を覚える。

「ホンジつは、もうヒとり客を連れテキマ゙した」

 デスク背後のガラス窓を突き破って飛びこんでくる、人外の侵入者。それはオフィスに並んだデスクに不時着して転がる。

 鉞も立ち上がり、デスクに備えたショットガンで二発撃った。それでもなんのダメージも無い様子で、巨魁は中室の傍についた。

「やっと来やがったか。待ちくたびれたぞ」

 鉞が首を鳴らすと、骨を踏み砕くような大きな音がする。

「今ヵらコロㇱマ゙すから、遺言ヺ考えデください」

「遺言? 」

 鉞が腰に佩いた獲物を抜く。

 それは伊形家に代々伝わる銘刀。

()()()()

()()()()


 ――某所に潜伏している桃田、ミク、斧見、井上のチーム通天閣。庭園に息を潜めながら、桃田はじっと考えている。

「(戦局はまずまずや。

 飛行機一機逃がしたんは痛いが、アビス一体、ジーニアス二体、アスレチック五体を捕捉できた。

 東京に流入したゾンビの総数から推定して、全部でアビスは二体から三体。ジーニアスもアビスと同数かちょっと多いぐらい。アスレチックは十体から二十体ってとこか。

 しっかし、想定より暴徒が多すぎるのは盲点やった。ゾンビ対策班のB分隊と、コウジの坊っちゃん、左門のペアと、戦力になる民間人が何人か手すきって考えると、まだ余裕あるか……?

 鉞がどんぐらい強いかも知らんし、全員がどんだけ戦えんのかも分からん……)」


 ――桃田にとって想定外のことは、渋谷区内の体育館避難所にて起きる。

 ここには荷稲、柄木、飯島など、以前の体育館戦を乗り越えた民間人が配置されていた。

 ここはあくまで、小規模なゾンビの群れと、アンモラルの襲撃が予測されているだけだった。

 しかし、その予測は無情にも外れる。

「あれは、話に聞くアビスか……! 」

 荷稲は目を見開いた。

 スライド式の玄関扉をバリケードごと破砕し現れたのは、四本腕と邪悪な巨躯(きょく)のアビス。ソレに続き、ゾンビの群れが流入してくる。

「キャァアーッ! 」

「逃げろ! 」

「どこに!? 」

「逃げ場なんてあるか! 」

「戦うぞ! 」

「嫌だ! 」

 阿鼻叫喚が巻きおこり、荷稲、柄木、飯島らの脳裏には、いつかの光景が蘇る。

 真っ先に我にかえった荷稲が指示をとばした。

「柄木君! 左門さんに連絡を! 」

「はい! 」

「飯島さんは避難誘導! 避難口から一人でも多く逃がして! 」

「分かりました! 」

 この体育館に、アビスと渡り合える戦力は配置されていない。こんなことは誰も予測していなかった。

「今一度、弓を取るほかないか……」

 弓を持つと手が震え、極度の不安に苛まれる症状に陥り、荷稲はしばらく弓を置いていた。

「(あの猿の群れが、夢に何度現れた)」

 アビスやゾンビは既に、民間人を捕えては惨殺を始めている。考える猶予はない。老体の中で、何かが吹っ切れる。

「あいや、分かった! 荷稲 秋草の弓道ここにあり! 存分に見せつけてやる! 」

 弓を取り、乾坤一擲の射法八節。

「いい加減に往生せい。屍どもッ! 」




今、恐怖を越えて。次回へ続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ