FILE:39 ―― こっち来いって名軍師
準備を整えて東京に戻る道中、コウジと左門が寄った先には。
――アンモラルがチーム通天閣によって撃退されて以来、大阪は。
チンピラたちが抗争を繰り広げる過程で、多くのゾンビや動物が死んだ。おかげで、街はかつての面影を残さないほど荒廃し、かつてないほど静寂に包まれている。
「で、ボクらこの先どうするん。大阪も静かになったもんやで……あっつ! これ消えるんか? 」
チーム通天閣の面々は、消火器片手に街の消火活動に汗を流している。
「桃田さんのご活躍を願う身としては、今こそ東京に行っていただきたいと思います」
「ミクちゃん、ボクに死ね言うてる? 」
「もちろん拙者らもついていくでござるよ! アッツ火傷したでござる! 水水水! 」
「早く消さねえとデブはよく燃えるぞ」
「ついてきたとしても、全員死ぬかボク一人死ぬかの違いやで」
「いや、桃田がいれば大丈夫だろ。確信してるぜ」
「言うは易く、行うは難しや……」
桃田はダンダラ羽織の裾で額を拭う。
「では、仮に桃田さんが東京でチーム通天閣を動かすなら、どのようになさいますか? 」
「えー……アンモラルと大量のゾンビ相手やろ? アビスっちゅうんも混じってるらしいし……打つ手あるんかいな」
「自警団とかも、続々と東京に集まっているようでござるから、仲間は多いハズにござる」
「なんせ情報が足らんわ。誰か物凄い情報通みたいな奴がおって、ここ何年分の東京のことを教えてくれる奴がおったら考えるかもやけどなぁ」
そこに、首にタオルをかけたチームメンバーのおばさんが伝えにくる。
「桃田ちゃん。伊形組の若頭の方と構成員の方がいらっしゃってるけど」
「鉄砲玉? 帰ってもろて」
「それが、その人かなりガラ悪いのよ。桃田ちゃん一緒に対応してくれないかしら。アタシ殺されちゃう」
「もー、しゃあないなぁ。行くわ。待っててもろて」
「うん」
その会談の場は、消火活動の拠点代わりにしていたテントの下だった。運動会の本部席のように、簡易的な机や椅子があり、クーラーボックスには飲料水や軽食が入れられている。
「はじめまして。伊形組若頭、伊形 皇治です」
「中坊かいな。小便臭いおもたで」
「おい、そのロン毛頭蓋骨ごと叩き斬るぞ」
「初めて聞く脅し文句やわ! 逆に怖ないぞ」
「左門。今回ばかりは口にチャックだよ」
「かしこまりました」
「ええから、とっとと用件話してや」
「端的に言うと、僕たちと一緒に東京へ来てほしい」
「その話やけどな、ちょうど今しとったんや。絶対死ぬから嫌やいうて」
「アンモラルを撃退した桃田さんの手腕は皆が知ってる。ヤクザすらね。宝の持ち腐れにならないよう、今こそ手を貸してほしい」
「弱小野球部のスカウトちゃうねんから。そもそも何のメリットがあんねん」
「逆に聞くけど、ここにいることに何のメリットがあるの? 」
「地元愛。それが全てや。みすみす手放せるかいな」
「東京が壊滅すれば次はここかもしれないよ」
「アホか。そうなったら海外から軍事支援入るわ。国連でどんだけ日本の議論されとる思てんねん」
「東京の人間は死んでもいいと? 」
「地元ちゃうしな。ボクが大阪おるんは地元やからや。愛すべき故郷やねん。東京の死んだ魚みたいな目した息の臭い連中なんか関わりたくもない」
「……そうか」
「そやで。命張って、よりにもよってヤクザに手貸す? ありえへんわ。帰ってママの両乳交互に吸っとき」
コウジは、膝に置いた手を見つめた。考えあぐねている様子だ。左門も、これといった言葉が見つからない。
「じゃあ戻るで。メンバーの実家の消火中やねん」
「左門。仕方ない……プランBだ」コウジが手を叩く。
「御意――」
「――なんやお前ッ! うおぉッ!? 」
机を踏み越えた左門が、目にも止まらぬ早業で桃田を組み伏せる。うしろ手に腕を極められた桃田は「ギブギブ! 」と叫んだ。
が、その腕は解放されない。
近くでも怒号や喧騒が聞こえる。ウォッチドッグスによる、チーム通天閣の制圧が始まったのだ。
「頭の良い大人にしては、判断を間違えたね」
桃田の顎をつま先で持ち上げ、コウジが見下す。
「もう一度訊く。東京に来る気はないかい? ノーと言うなら仕方ない。君のチームがどうなるかは察しの通りだ。
ウォッチドッグスって集団は、麻薬カルテルの中でも筋金入りの武闘派。アンモラルなんかが出しゃばる遥か昔から、壮絶な競争を勝ち残ってきてる」
「化物が……ッ! 」
「ヤクザの世界じゃ褒め言葉だよ」
桃田は必死に頭を回転させる。
「(完全に平和ボケしとった……このガキの言葉はハッタリやない……! )」
「さぁ答えを。忙しいから猶予は無しだ。回答に十秒かかるごとに君のツレを一人ずつ減らしていく。最後に君さえ残っていればいい」
「(東京に行って死ぬか……ここで反抗して死ぬか……)」
桃田にとって、チーム通天閣から一人でも犠牲者を出せば、それは敗北に等しい。
「(伊形……覚えとけ、コイツら……)」
観念して、桃田は答えた。
「協力する。けど、ボクのチームが一人でも死んだら、君ら全員殺すで」
「左門。離してあげて。すぐにここを発つ」
「はい」
「くそっ……君らホンマ極道やったんやな。見た目で騙されたわ」
腕を解かれた桃田は苦し紛れに言う。
「桃田さん。ヤクザの世界じゃ、暴力的だとバレた時点で二流なの。勉強になったね? 」
コウジと左門はイヤらしく嘲笑する。
が、桃田も一筋縄ではいかない。
「ボクの一挙手一投足は高くつくで。この借りは絶対に返したる」
「楽しみにしてる。行こう」
「はい」
「……ホンマに中坊か? 」
次回へ続く。




