表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
32/56

FILE:32 ―― 計略渦巻け名軍師

 ホームセンターを囲む車両から、わらわらとアンモラルの面々が降りてくる。

「ほな、始めよか」

 桃田は拡声器を持つ。

「えー、テステス。本日はお日柄もよく、ちゃうな、ちょっと曇っとるわ。斧見、これどっちや思う……晴れ? じゃあお前、この天気なら傘持たへんの? 折りたたみ傘? なんや女々しいやっちゃな、そんなデカイ図体して」

 声が全て拡声器にのり、センターを包囲する人々は一斉に首をかしげ、口々に話す。

「何言ってるんだアイツ? 口に生ゴミ突っこんで黙らせてやろうぜ」

「早く上がって殺そう。うずく」

「女いるかな? さすがに全員分はいないだろうな」

「ガキを探して今日の晩飯にしよう」

 アンモラルのメンバーは、近衛の「屋内へ侵攻せよ」という命令を受け、ジリジリと包囲を狭めていく。

「ところでな」

 そう言いかけて、桃田は黒いホイッスルのような笛を咥えた。斧見も同じものを咥える。

()()()()()()()()()()()()()

 二人が笛を吹き鳴らす。サックスに近い音が、曇り空を突き抜けて響き渡った。

「ミナミのカラスは怖いでぇ」

「拙者も昔、ビッグマックを盗られたことがあるでござるからな」

 音を聞いた者たちは空を見上げる。視力の良い何人かは、ゴマをばら撒いたように、空が点々と黒くなっているのを見つけた。それはカラスの大群だった。

 笛を吹いた二人は、ニヤニヤしながら屋内へ戻っていく。

 近衛は桃田の企みを看破した。

「なに、猿知恵よ。各々で鷹の音を鳴らしつつめ」

 アンモラルは、それぞれスマホを使い、最大音量で鷹の鳴き声を再生する。

 カラスはたちまち降下を止め、空中で旋回し始めた。

「はっ。烏なんざこわかねぇよ」

「鳴らし続けとくべ」

「早く中、行こう」

 桃田は屋内を移動しながら、外の鷹の声を聞く。

「一の次は、二の矢、三の矢やで」

 センターにいよいよアンモラルが侵入する。しかし、我先にと侵攻した者たちは、あるものに足を取られていた。

「うおぁっ! 」

「なんだこれ滑る……! 」

「油じゃないぞ! 洗剤か? 」

 床には、フローリングを浸すほどの洗剤がまかれており、普通の運動靴や盗品のブランド靴を履いた彼らにとっては、滑ってまともに歩けたものではなかった。

「強面。スプリンクラー動かしてや」

『強面じゃないっす。井上っす』

「まぁ盛大に頼むわ」

『っす』

 フロアに、スプリンクラーから水が放出される。床の洗剤が反応し、浅く泡が立ちはじめた。

「痛っ! 」

「クソッ、慎重に進め! 」

 床にはまきびしのように画鋲(がびょう)が仕込まれていた。泡に隠れた画鋲を踏みつけた何人かは、もんどり打って嗚咽をあげた。

 そんな(てい)たらくの戦況を受けて、秘書は近衛に訊ねる。

「近衛様。いかがされますか」

「“火”の使用を解禁する。バルサンの効かぬ害虫など、建物ごと吹き飛ばすまで」

「かしこまりました。指示します」

 指示を受ける前線。

「近衛の指示だ! 爆弾使うぞ! 」

「ブッ壊せ! 」

「火炎瓶も解禁だァーッ! 」

 プラスチック爆弾や火炎瓶によって、フロアはまたたく間に火の手に包まれる。

 爆発音を受け、スタッフルームにいた桃田は。

 「派手にやってくれるやんけ。皆で改築したばっかやのに」

 桃田は、スタッフルームにある監視モニター脇の、放送マイクを掴む。

『あー、あー……お前ら人の家になにをしてくれとんねんな』

 暴徒と化したアンモラルは放送に耳を貸さない。

『……まだ攻撃やめへん気やな。なら、ここで忠告や。君らがウワモノぶっ壊してくれんのは勝手やけど、そしたら君らが僕らを殺すのはかなーり遅れるで』

 ここで、ようやくアンモラルは放送を聞きはじめる。

『この建物には地下道があってな。その地下道から繋がる避難経路も整っとる。あんまり建物ぶっ壊したら、地下道なんか見つからんくなるなぁ? 』

「本当か? 」

「ハッタリだ! 爆破を続けろ! 」

『ハッタリかどうかは皆で考えや。ほな』

「壊せ!壊せ!」

「やれ!」

 放送が途絶えた後も、人々は強奪し、破壊し、焼き尽くしていった。ただ、誰一人として人間は見つけられなかった。

 一階の破壊があらかた終わった頃。

 桃田はあるスイッチを押してから、斧見とスタッフルームを出た。桃田は大笑いして、斧見の腹とケツをぽこぽこ叩いた。

「なっはっは! そしたら閉店の時間や! 」

 ホームセンター入口のシャッターが全て降りはじめる。建物の照明が消え、明かりは燃え盛る火の手だけになった。

「……は? 電気が落ちた? 」

「シャッターも閉まってる! 」

 洗剤や画鋲も相まって、思うように退避が進まない。自らがまいた火種が、服や髪、肌に燃え移っていく。

 その様子を別の部屋の監視カメラで見ていたミクが、桃田に状況を伝える。

「作戦が的中しましたね。お見事です」

「おっしゃ。あとは外の残りやな。ゾンビは? 」

「はい。ちょうど来ましたよ」

 最初のクロウコールと、鳴り続ける鷹の音に釣られたゾンビの大群が、建物の隙間を縫うように出現。

「さぁ、王手やで。極悪集団」





権謀術数絶え間なく。次回へ続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ