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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
3/56

FILE:3 ―― 辛せは空の上に PART1

くそいぬや蛙とび込む水の音。

タイトルは誤字じゃないよ。PART2で意味が分かるよ。

 ふと鷹邑は、アドニスの首輪に、折りたたまれた紙片が挟まっているのを見つけた。

 紙片を広げると。

『警察署最寄り業務スーパーにて救助待つ』

 そのスーパーは警察署より二キロほど南下した所にある。

「ここで籠城してるってことか」

「アドニスの飼い主が書いたのかな? 」

「てことはソイツは警官だよな。仲間が増えるなら心強い」

「だね。スーパーなら食料山盛りかも」

「よっしゃ。そうと決まればすぐ向かおう」

 しかし、時間は夜。車椅子のコウジを押していては危険なうえに時間がかかる。徒歩も現実的ではない。そこで目に留まったのは。

「あ、お(あつら)え向きの車じゃねえか。あれでいいか? 」

「大賛成」

「ばうっ」

 鷹邑が見つけたのはキャンピングカーだった。

「ラッキーだ。鍵が刺さったままになってる。ガソリンも十分だ」

「かなり広いね、キャンピングカーって初めて乗ったよ」

 コウジは最後部のベッドスペースで横になり、青かった顔に僅かに血の気を取り戻した。

 アドニスも、ベッドスペースと運転席の間にある居住空間に丸くなる。

「じゃ、目的地に着くまでは休め」

「あいよ」

 運転が始まると一人と一匹はすぐに寝息を立て始める。コウジは時々車の揺れで唸ったが、それでも眠っている時間のほうが長かった。よほど疲れていたのだろう。

 車は、極力駆動音を立てないことと、ライトを付けずに進むためにゆっくり進んだ。

 目的の業務スーパーに到着。

 屋内は明かりが消えており、ガラス張りの壁なのに内装は確かめられない。どこにも人の気配はなく、入り口の自動ドアも破られている。ゾンビの影も無い。

「警察犬なら知ったニオイで起きそうなもんだが」

 鷹邑は一人で突入する気も起きず、とりあえずはコウジとアドニスが起きるまで、外から建物を観察することにした。

「中の人間はここを捨てたか、それとも全滅したか。もし後者なら……」

 鷹邑は背後のアドニスを一瞥する。大人しく寝息を立てる様には可愛げがある。

 窓から空を見上げると、ふと星々が目にとまる。今はもう街の明かりも減っているから、純粋な星空を拝める。

「宇宙、行ってみたかったな」

 ゾンビが現れる前まで、人類は宇宙への夢を大いに膨らませていた。

「火星移住とか、月の有人探査とか、どうなったんだろうな」

「宇宙飛行士、今宇宙で何してんだろうね」

 コウジの声がする。「絶対帰ってきたくないでしょ」と言って、カカカと笑う。

「けど、帰らないと宇宙線で被爆するんだぞ」

「ほんと? 」

「おう。だから宇宙飛行士は半年しか宇宙に滞在できんのだ」

「じゃあ、やばいね」

 他愛ない会話。満点の星と、つかの間の平和。

 ふと、アドニスが耳をそばだてる。鼻をすんすんと鳴らし、何かを探すような仕草をはじめた。

「飼い主のお出ましか? 」

「ゾンビじゃないといいけどね」

 コウジはベッド脇の車椅子に乗り込んで銃のセーフティを外し、鷹邑もまた腰の銃を取り出す。

 外からの足音。

 ゾンビのものか、人間のものか。

「十中八九、ゾンビだな」

「だね」

「一体だ。俺が出る」

 鷹邑がドアを開けて出ると、そこには女性のゾンビが立っていた。警官の制服を着ているが、至るところに裂けた傷や、破かれた形跡がある。

「ちょっとエッチに見えなくも……ないな。うん」

 ゾンビは鷹邑を発見。彼を求めるように両手を彷徨わせて近づいて来る。

 目をすがめて狙いを定める鷹邑の後ろから、アドニスが尻尾を振って飛び出す。彼は舌を出し、息を荒らげてゾンビへと駆けていった。

「おい、アドニスどうした。アドニス! 」




―― 次回へ続く。

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