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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
29/56

FILE:29 ―― Hoooope!!!!

 駆けつけた二頭の馬とアドニス。

 第二ラウンドは文字通りの異種格闘技戦へ――。

「お前ら競走馬だよな」

 二頭はどちらとも、毛はツヤやかで、全身から脂肪が削ぎ落とされ、筋肉が光を帯びている。それに、この脚の速さは並ではない。

「お前も死ぬんじゃねえぞ」

「バウッ」

 馬二頭はゆっくりと、アビスを囲むように左右に回る。威嚇するように鼻を鳴らし、荒い息で敵意を見せつけた。

「(馬の蹴る力は、俺たちより格段に強い。俺とアドニスで隙を作ってやれば……)」

 アビスの広背の両腕は、左右に分かれて一頭ずつと対峙する。残った腕は、鷹邑に対して構えられた。

「俺に二本も向けていいのか? 脳味噌スカンピン野郎」

「スカんぷ、プンプ? 」アビスは口角を上げる。

「何言ってっか分かんねえんだ―よッ! 」

「ワウッ! 」

 鷹邑の右ミドルキック先制。

 アドニスが走る。

 アビスは左腕の尺骨でキックを受ける。骨を蹴り砕く音。

 アドニスはアビスのすねを犬歯で抉り立てる。アビスは小ざかしそうに脚を振り、アドニスはその勢いで宙へとばされ、再び距離が生まれる。

「分かったぜ……テメェ、骨治すのには時間かかってんだろ。さっきの首も、その腕も不自由そうじゃねえか」

「スカんぷ、プンプ! 」

 鷹邑は次の一手を考える。

「(敵は確実に傷んでる。だが決め手に欠ける)」

 ときおり、左右から馬が詰めるも、剛腕で牽制されると、たちまち距離をとってしまう。しかし、そのアビスの行動から、鷹邑はあることを悟った。

「お前、まさか馬を怖がってんのか。 俺が近づこうがそんな牽制しなかったろうが。おいおいおい」

 鷹邑は不敵に笑う。

「不利かと思ってたが、んなこたねぇ。始めから俺たちが袋叩きしてたわけだ。すまん、すまん」

 スポーツマンにあるまじき嘲笑。相手は確かにゾンビだが、ここまでコケにしていいものか。

「万事休すってことだなァ。じゃあ、もしあのままコウジたちが消えてなかったら、お前今ごろ――」

「――ビヒッ゙」

 馬一頭分の断末魔が聞こえた。

「…………え? 」

 鷹邑はその事実を受け入れるために、戦闘の最中でありながら五秒を要した。

 六秒後、彼は正面からあばらに拳を入れられ、しばらくの間、浮遊しながら空を眺めた。死にはしないことが、辛うじて分かっていた。

「…………もう…………一体? 」

 殴り飛ばされる寸前、もう一体のアビスが、馬をクッションにして着地し出現したのが見えた。間違いなく四本腕、同じ形状。

 アドニスの鳴き声が遠ざかる。

 馬はあと一頭になった。

 敵はどこに。

 暗くなる視界の中で考えると、どうにもならないことだけが分かった。

「おウおウおウ」

「おウおウおウ」

 二体のアビスは呼応する。生き残った馬とアドニスは鷹邑を庇うように立ち塞がったが、当然、そんなことで戦況は覆らない。

 鷹邑が仰向けになったまま吐血する。

 二匹の動物は処置の術を知らない。

 他に誰の気配もない。

 仰向けの鷹邑の視界には、雲の間を縫うように飛ぶ、黒い点が見えた。

 プロペラの旋回音がする。

「(ドクターヘリじゃ、なさそうだ)」

 馬も、アドニスも、アビスさえも、どんどん高度を下げてくるヘリコプターを見上げた。

 十分に高度を下げ、宙で静止したヘリから、鷹邑の側にワイヤーが降りる。ヘリの風圧で馬の鬣がなびく。

 それから、フルアーマーの兵が五名連続して降りてくると、彼らは、鷹邑とアビスの間に並んで配置した。合計五人の隊員。その背中には。

()()()()()()()()()()、現着。目標二体と接敵」

『接敵了解。目標討伐の判断は一任する』

「了解」

 隊長と思しき中心の男はインカムの通信を切ると、鷹邑をゴーグル越しに一瞥してから、ライフルを構えてアビスに向き直る。

「総員、民間人を護衛しつつ、アビス二体を撃破せよ」

 四人の隊員も、口を揃えて応答した。

「了解」

 突如として救援に現れた日本警察最高戦力。

 希望の第三ラウンドへ、ゴング。

 




次回へ続く。

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