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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
22/56

FILE:22 ―― Honey days, Honey morals.

 ――アンモラルにアジトはなく、根城はいつも、彼らが適当に占拠した民家などである。

 そこはまだ、生活感の残るリビング。

 三人の人間がいる。

 赤子の写真をくりぬいた面をつけた埴は、テーブルに直接腰をおろしている。

 離れたソファにかけているのは、紺色の袴の老人。 彼はローテーブルの茶をたまにすすっている。

 最後の一人は、どどめ色の袴を着た、これも老人。庭側にある大きなガラス戸に向かって仁王立ちしている。

 紺色の袴の老人は近衛といい、どどめ色の袴の老人は東條といった。

 話を切り出すのは近衛。

「近ごろは、右翼の活動が活発化しておりますな。かつての日本を取り戻すぞ、と。さらには、我々を共通の敵にしてまとまっているようです」

「浅はか」東條が一蹴する。

「僕たちの名前が広まりつつある証拠だね」

「たかが政治団体がなんの武力を持ちましょうや」

 近衛は一笑にふす。

「そりゃ武力は外注に決まってるよ」

「いつの世も常套手段ですな」茶をすする近衛。

「ヤクザなど恐るるに足らず」上の空で呟く東條。

「油断大敵ー! ほら、作戦会議するから席について」

 二人は、埴が座るテーブルに面したイスへ向かい合わせで座る。

「これから僕たちが戦う相手は増えていく。考えなしに進めば、大ダメージは避けられない」

 近衛は腕組みする。「でしょうな」

「しからば、次はどこへ」東條が口だけを動かして訊ねる。

「東京だ。遊び道具が山ほどある」

「その経路には、大阪がありますな。

 あそこには、再興に励む民間組織が乱立しとるようです。京都では、同じ勢いで文化財保護団体がわいていると」近衛はかかと嗤った。

「今のお前、僕よりヤバい顔してるよ」

「これはこれは、失敬」

「分かってるよ。うずうずしてんだもんね。自作の武器とかアイデアを皆がどんどんあげてくれるから、僕も選べなくなってきてるよ」

 東條が一つ咳払いする。

「さしでがましいようですが。チンケな民間人などいくら殺しても詮無きこと。力ある者を傷つけ凌辱せねば、名声も高まりますまい」

「近衛はとにかく人数を稼ぎたくて、東條は地位が欲しいんだね。どっちがいいかな……近衛、僕たちって今何人? 」

「七〇〇人近くおります」

「じゃ、三つに分けようか。それで経路を三つに分けて、東京で合流しよう。どう? 」

「なぜ三つに? 」近衛が疑問を抱く。

「今みたいに、最近はアンモラルの中でも、皆のやりたい事が分かれてきてるからね。

 目的ごとに、近衛、東條、僕の隊に分けるんだ。東京に予定通り到着すれば、後は何をやってもいい。

 近衛は大阪で大暴れすればいいし、東條は要人の暗殺でもすればいいよ」

「それは妙案……しかし、一つ伺ってもよろしいですかな。埴殿」

「なに? 東條」

 間合いをはかるように沈黙が生まれる。

「埴殿は、何を見据えておられるのか」

「……何も? 」

「何も、ですか」東條は宙を見つめる。

「僕もそうだけど、アンモラルの皆は空っぽだよ。愛するものも、守りたいルールもない。かといって、社会ではほどほどに生きていたゾンビみたいな人たち。

 だから、僕たちはご馳走のほうへ歩いていく」

「しかし、それならば、人々が埴殿につき従う理由が説明できませぬ」

「なんでだろうね。顔が良いからかな? 」

「仮面ではありませんか」

「いやなに、簡単な話さ。

 僕たちの行動が世界史にどう残るのか。何万人もの人を殺せば、本当に人は悪人から英雄になるのか。それを実現するのはどんな人なのか。

 それを皆気になっていて、一人ならわざわざ行動しないけど、組織があるならノッてみるかって話」

「埴殿は好奇心をかき立てる才能がお有りだ。民草を動かすには、好奇心をくすぐるのが一番」近衛はしわを深めて微笑し、東條は一切表情をつくらずに頭を下げた。

「こんな機会、後にも先にも無いよ。絶対モノにしよう」

「御意」






 

次回へ続く。

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