FILE:21 ―― 決戦を構想しませんか
「あとは私から説明する」
鉞の後ろにすっぽりと隠れていた五月雨が、彼の後ろから顔をだす。
「これから、ヤクザとか自警団みたいな組織とアンモラルは戦争になる。
連中は鬼畜だから、正面からやりあおうとすれば、水道を潰されたりガソリンを使われたり、そういう奇襲で殺されるかもしれない。
となれば、一箇所に戦力を集めておくのは危険。そもそも、それじゃ敵の大将首は――」
「なぁ、待て」馳芝が割って入った。
「いつから我々は暴力団の傘下に入った? 他はともかく、私が貴様らと組むことはありえん」
「ですって、左門」
「ふん。腐っても警察だな」
霧雨と左門の嘲笑。
「戯れた口を訊くなよ。チンピラども」
馳芝がホルスターから二丁の拳銃を抜く。霧雨と五月雨も、彼女を挟むように銃を突きつけた。
「騒々しい。下げろ」
鉞が制する。三人はお互いに様子を見合うように、静かに銃をしまった。
「五月雨。続きを」左門が促す。
「えぇ。
調査の結果、アンモラルは埴っていうリーダーのカリスマで成立してるみたい」
「リーダーを討てば自ずと瓦解すると? 」荷稲が口を挟んだ。
「可能性は高いわ。瓦解までいかなくても、組織的な活動は難しくなると思う。
それで、アンモラルの動きを読むためにも、伊形組事務所には一定数の人間は置いておきたいわけ。囮としてね」
「ここには俺が残る」鉞が言う。
「裏社会でも名の知れたボスが残れば、アンモラルは必ずここを標的にする。だから、そこを狙う」
「具体的に、どうやって戦うんですか? 」柄木が質問した。
「奇襲よ。左門たちには各地に散った組員や、組に協力する人員を集めてもらいつつ、アンモラルの集団の背後に回ってもらう」
柄木は飯島の方を見て、「俺は質問してやったぞ、どうだ」とドヤ顔をキめた。
「この奇襲が成功すれば、全滅や大ダメージを避けつつ、効果的な一撃が期待できるわ」
「で、聞かせてもらうが」鷹邑が重い腰をあげた。
「なんでそのチームメンバーなんだ」
「コウジ様とボスを一緒にしておくわけにはいかない。組の頭が二人揃って同じ場所にいるのは危険だからね。
で、コウジ様には護衛が必要。護衛には、道中で仲間を増やせるコミュニケーション能力も必要。左門だけでは後者が心もとない。
で、ある程度名が知れてて、かつ左門に殺されない人間となればアナタしかいない」
「よーく分かった。けど俺はマイペースだぜ。人と歩調を合わすのが嫌いなんだ。いざとなれば伊形組なんてどうでもよくなるかもしれないぞ」
「大丈夫よ。コウジ様と左門から、アンタの話を聞いたわ。アンタは逃げないヤツよ」
鷹邑は黙りこくって、足元で尻尾を振るアドニスを見下ろす。「当の左門はいいのかよ」
「私はボスの命令に従うまでだ」
鷹邑は訝しんだが、内心はなんだか安心していた。味方としてこれほど心強い奴はいない。
「ま、面白そうだしやってやるよ。報酬は? 」
鷹邑は冗談半分で鉞にふっかけた。
鉞は口角をあげる。
「左門をくれてやる」
フロアがざわめいた。馳芝は顔をしかめ、シャビと霧雨は、左門と鉞を交互に二度ずつ見た。
「おいボス冗談か? 」
「冗談よね? ね? 」
「黙らんかい餓鬼ども」
シャビと霧雨は子どものように口をとじる。
「コー君の護衛にキックボクシングのチャンプがつく。良いガードだ。それから、この国じゃ金はもう機能してねェ。あとは女だろうが」
「だ、だからって、左門の都合もあるでしょうし、ね? 左門、たまにはボスに何か言ってもいいのよ」
霧雨が特に焦っていたが、左門は表情を変えない。変えないまま、ぶっきらぼうに告げる。
「霧雨。我々の存亡がかかっている。男の一人や二人、殺せば約束は反故にできる」
鉞は手を叩いた。
「左門。それでこそだ」
鷹邑も乗り気になってくる。
「報酬はさておき、考えは面白ぇから引き受けてやるよ……で、さっきから疑問だったんだが」
一同が「やっとツッコむか? 」という顔で鷹邑を見る。
「アンタ、息子のことコー君って呼んでんのか」
一同、鉞を見る。
鉞は、三拍空けて、照れくさそうに鼻をさすると、こう言った。
「俺は、家族が大好きだからな」
それは意外にも家族愛。次回へ続く。