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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
20/56

FILE:20 ―― ラスト・ボス

 声明の動画は選挙放送を真似ており、後ろの手話通訳やネームボードまで、皮肉っぽく再現されていた。

 画面中央のスーツの男は面を着けている。赤子の笑顔の写真を現像し、雑に切り抜いたものだった。

 スピーチが始まる。

「皆様ごきげんよう。僕はアンモラルのリーダー、(はに)。それから、この子だけど――」

 自らの面を指差す。

「この子の名前も埴。名付けられる前に奪って、僕と同じ名前を付けたよ。早い者勝ちだね」

 後ろでは、表情を失った女性手話通訳が、必死に手と指を動かしている。

「次。僕たちは普段、何をしているか。

 僕たちはよく、クレーンを使って人を遠くまで投げたり、大仏様の中をくり抜いて内側に家具を持ち込んで暮らしたり、湖に毒をまいてから、浮かんできた魚の数を数えて、生態系を調査したりしている」

 手話の女性は時々怪訝な顔をするも、画面に映らない何かに怯えたように、手話を再開する。

「今回は、ガソリンを使っておっきな火文字を書いたんだ。✖市は、ほら、昔戦争があったよね。だから、『死』っていう字を、街を使って、めいっぱいに書いておいたよ」

 埴は、言い終わるとおもむろに仮面を剥がす。

「ばぁ」

 すると、下には別の子どものお面があった。表情は笑っていて、五歳ぐらいの女の子だった。

「とりあえず、やりたいことは沢山あるからね。

 富士山も噴火させたいし、琵琶湖もせき止めてみたいし、ゾンビを何万体も集めて警察と戦わせたいし、自衛隊の駐屯地に爆撃ドローンを突っ込ませたいし、ヤクザとマフィアを戦わせたらどっちが強いのか見たいし、あぁもう、言いきれない」

 埴はヒートアップしていく。

「そうだ、これを観てアンモラルに興味を持った方はぜひ、自分がやりたかったことを行動に移してみたらいい。好奇心は猫をも殺すと言うけど、今この国では、好奇心で何を殺しても許される。

 では、さようなら」

 動画が終わる。

 一番に口を開いたのはシャビだった。

「……これが人災ってヤツか? 」

「かもね」霧雨が面を浮かせ、手で顔を扇ぐ。

 フロアには怯えが充満した。誰もが、今の連中がこの街に迫っている事実に恐怖した。

「そういえば、コウジとか他の組員は? 」鷹邑が聞く。

「出払ってる」霧雨が一蹴。

「……そうか」

 ――夜がふけ、皆が寝静まったころ。

 アドニスが、最初にその音と臭いを察知した。鷹邑も、第六感的に目が覚める。

「敵か」

 エレベーターの駆動音。

 馳芝、荷稲、シャビ、霧雨の四人もまた起きると、デスクの陰などに息を潜めた。

 牙をむくこともせず悠長に口角をあげているアドニスを除いて、誰も気を緩めなかった。

 扉が開いて薄い照明が差しこむ。

 二つの影。

 先頭は左門だった。相変わらず、洞窟の入り口のように暗い目をしている。

 彼女に続いて現れた姿に、ある者は驚愕し、ある者は歓喜した。

 獅子を彷彿とさせる金髪にサングラス、二メートルにも届くであろう身長に、トラックともがっぷり四つで組める肩幅。はち切れんばかりの黒スーツの上から、返り血まみれのロングコートが羽織られ、口元には葉巻を寄せている。葉巻と逆の手はポケットにあった。

 威厳に満ちた彼が、見た目どおりの声を発する。

「ポリ公がいるな」

「処理しますか」

「構わん」

 彼はやがて、最奥のデスクに腰を下ろす。

「全員訊け」

 子どもを除いて、寝ていた他の生存者たちまで立ち上がり、目を見開いて彼を見つめる。

 鷹邑だけが、立ちもせず、座ってアドニスを撫でていた。

「この伊形 まさかりが、組長として伊形組の方針を伝える」

 全員が(こうべ)をたれる。その拍子に、誰かの汗は額から床へ落ちた。

 鉞はサングラスを外す。

「ただ明確に。()()()()()()()()()()。それから――」

 その眼光は、獅子からくり抜いた眼球をそのままハメこんだようだった。

「――左門、鷹邑、コー君の三人はチームになって、この戦いの中枢を担ってもらう」






コー君呼び、その理由やいかに。次回へ続く。

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