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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
15/56

FILE:15 ―― 渡る世間に鬼と君

 (かたわ)らのアドニスは、開けた窓からさんざんに吠えている。

「がうっ! わうっ! わうっ! 」

 時折、鷹邑を向いて吠えるアドニスは「もっとトばせ、馬鹿! 」と急かした。

「警察犬がスピード違反させんじゃねえっつーの」

 ――正門に達すると、アドニスは次に体育館の方へ吠える。

「あっちだな? よしよし」

 車から降りることなく、庭園の花壇を轢きながら、体育館までほぼ一直線で向かう。

 ガラスが粉々に散らばった玄関に到着。奥で、ゾンビと猿の群れが争っているのがみえる。さっきからの銃声も、少しずつまばらになっていた。

「急ぐか」

 降車して、アドニスが「我先に」と中へ。鷹邑も拳銃を構え後を追う。

 ――馳芝の警棒に猿が噛みつく。柄木は疲労困憊で、金属バットを振る腕を鉛のように感じていた。シャビの弾は尽き、荷稲も指先から出血。矢も尽きて、猿に刺さった矢を拾い集めてガムシャラに振り回している。

 霧雨と縦木は。

「取った。戻るわよ」

「でも……! 」

 二人はスプレーとライターを手に入れたが、来た道には、体勢を戻したゾンビと猿が憎悪と飢えに目を見開いていた。

「ピーンチ」

「……ずっとそうだろう」

 霧雨は面の傾きを直し、縦木は首を鳴らす。

「行くわよ」

「はいはい」

 ――ボス猿と対峙する一延。

「(コイツ動きが! )」

 ボスは一延の足さばきを学習し、自らが踏み込むべき間合いと攻撃の威力を調節し始めた。おそらくこの個体は、いつでも殺せる相手を練習相手に、戦いにおける駆け引きを学びはじめている。

 全員が汗と返り血で体中を濡らしていた。猿になぶり殺しにされることも覚悟する、絶体絶命のピンチ。

 にわかに、入り口の方から声がする。

 犬の鳴き声と、一部の人間には聞き覚えのある声。

「誰かいるのか! 返事しろーっ! 」

「ワウッ! 」

「ここです! 生存者がいます! 」馳芝が枯れた声で返答する。

「分かった、助けてやる! 」

 アドニスは、猿とゾンビの間をかいくぐる。鷹邑は並みいるゾンビを蹴り崩し、猿は銃で仕留めながら前進した。

 馳芝の左腕に猿が噛みつく。「くっ……! 」重みで体が前のめりになり、急な重さで腰に痛みが走る。

「バウッ! 」

 その猿の頭に食いつき、引き剥がしたのはアドニスだった。馳芝はその顔を見て瞬時に気がつく。

「アドニス! 」

「わふっ! 」

「来てくれてありがとう! 手伝って! 」

「ガルルッ! 」

 アドニスは「任せろ」とでも言うように馳芝のそばに立ちはだかると、双牙を剥き出しにして臨戦態勢に入る。

 鷹邑も遅れて突破してきた。顔の返り血を上品にハンカチで拭きつつ、生存者の集団に混じってくる。

「やぁやぁ、こんばんは」

「あなたは? 」馳芝が訊ねる。

「鷹邑一喜。元キックボクサーです……おっと! 」

 飛びかかった猿を顎へのフックで床に落としたところに、ローキックで頭蓋を砕く。靴には鉄板を仕込んであり、猿は痙攣して動かなくなる。

「我々は今、あの非常口からの脱出を試みています……このっ! 」

 馳芝は会話に割って入ったゾンビの顎を警棒で粉砕、銃口を喉までねじ込んで発砲した。

「……今はこの群れに対処するため、二人の生存者がアルコールとライター、つまり火炎放射器を取りに行っています。一人はあのボス猿と対峙を」

「へいへい、把握した」

 鷹邑は背中のリュックからマガジンを出し、馳芝とシャビ、飯島に二つずつ渡す。

「ほらよ。ほらよ。ほらよ」

「お? お前若頭の付き添い(ボディーガード)じゃねぇか」シャビは鷹邑に気付いた。

「久しぶり、デカブツ」

「今回も助けられたな。後でキスしてやる」シャビはキス顔をつくるが、鷹邑はあしらう手振りをした。

「結構だ。俺はあのボス猿を仕留めにいく。ここは任せた」

「やれんのかボディーガード? 」

左門(あの女)より弱けりゃな」

 シャビは手を叩いて笑った。

 鷹邑が駆け出すのと入れ違いで霧雨が帰ってくる。

「これ、持ってきたわ」

「ありがとう……無事で良かった。縦木さんは? 」

「包囲から抜け出すために私を助けて……あそこに残って足止めを」

 霧雨は慚愧(ざんき)()えない声で報告する。無論、霧雨は面の下では真顔である。彼女にとってここにいる人間はほとんどどうでもいい。

「貴様、嘘じゃないだろうな」

「まぁ、お巡りさんがヤクザを疑うなんて」と、目の涙を拭くような動作をした彼女を、馳芝は心底侮蔑した。

 馳芝は、姿のみえない縦木へ向けて、せめてもの敬礼を送る。

「……必ず脱出します。ご武運を」





ヤクザは、いかなるときもヤクザらしく。

次回へ続く。

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