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Abyssers  作者: Higasayama
Abyssers Season.1
1/56

FILE:1 ―― オッサンとヤクザと。

カクヨムで連載、完結したものをリメイクしてお届け。全55回。

どんでん返しの連続、ゾンビ蹴散らすバトルアクションをご覧あれ。


土日は百八戦譚、平日はAbyssersを連載。

 眉間に風穴を開けて仰向けに倒れたのは、眼前の男を喰らおうとしたゾンビだった。

 男はくわえていたタバコを吸い終えると、ゾンビの眉間の穴へ差し込む。

「南無三っと」

 返り血に塗れたワイシャツ姿の男は、蕪雑に分かれたセンターパートをかきあげると、屍を後にする。彼の眉間には、二十代後半とは思えないような険しい力が込められていた。

 ――今やゴーストタウンとなった東京。

 ゾンビの突如とした出現によって、世界は壊滅的な被害を受けた。とりわけ日本は、軍事的な対応が後手後手に回った結果、先進諸国の中でも、特に甚大な被害を受ける結果となった。

「まだ生きてる飯はあるかな」

 ドアの無くなったコンビニへ入店。中のゾンビが二体反応し、男に向けて動きだす。

「邪魔、邪魔」

 ゾンビは男の目の前に一体。視界から外れた左に一体。

 前方のゾンビを前蹴りでフッ飛ばすと、商品棚に叩きつけられた勢いで首がひしゃげて動かなくなった。

 左のゾンビは、もぬけの空になった商品棚の間から迫ってきている。

 その胴体へ同じ前蹴りを放つと、ゾンビは膝から下は立った状態で仰向けに倒れた。

「倒れろよ」

 足払いでその膝を倒し、仰向けの身体が起き上がる前に左足を胴体に乗せる。それから、サッカーのシュート態勢のように、その軸足に体重を乗せつつ、右足を浮かせ後ろへ引き、渾身こんしんの一撃で革靴の爪先つまさきを、ゾンビの顎めがけて振り抜いた。

 脆くなったゾンビの首は簡単に飛び、飲料棚のガラス戸に当たると、空気の無いサッカーボールのような鈍い感触で落ちた。残った身体は、数秒跳ねて静止した。

「で、飯は」

 商品棚には何も無かった。

 レジを抜けて店員の休憩スペースに入ると小さな冷蔵庫があり、その中には茶が二本とアンパンが二つ入っていた。

「茶はいける。パンも開いてないし大丈夫だろ」と、独り言をぶつぶつ。

 茶とパンをリュックに詰め、休憩スペースを後にしてレジへ出る。

 すると。

「おい、テメェ食糧出せオラ」

 汚れたタンクトップでタトゥーの入った細い男が、ナイフを片手に、レジ越しに脅してくる。

「コンビニ強盗してる場合か」

「うるせぇ、若が腹空かしてる」

 男は無表情で拳銃を取り出し突きつける。

生憎あいにく。俺もペコペコなんでな」

「ひっ……!? 」

 入れ墨男は背を向けて逃げ出すと、外を通りすがった、屈強なガタイをしたゾンビに捕まり、呆気なく首筋を嚙まれていた。

「……こっちに来るよな、あれ」

 体長二メートルはあろうかという筋骨隆々のゾンビと、男は目が合った。

「やっば! 」

 休憩スペースに逃げ込むと、そこにはレジ側とは別の、もう一つの扉があった。それをこじ開けて後ろ手に閉める。

 扉越しに、ガラスを粉砕する頭の悪い音が轟いた。

「玄関から入れよ……! 」

 通路の突き当りには裏口があり、その左脇には扉の開いた部屋がある。

 男は考えずに裏口へ直進したが、脇の部屋を一瞥したときに人影が見えた。

 商品を管理する薄暗いスペース。

 物資が漁られた形跡のある乱れた部屋の最奥にその少年はいた。

「おいお前、子どもだな? こんな所で何を」

「は? 誰だよ」

 ダボついたパンツとパーカー、スニーカーを履いてあぐらをかき、いかにも偉そうな態度の、中学生ぐらいの茶髪の少年。

「一緒に来るか? 」

「どうして」

 ドアを蹴り開けんとするこれまた頭の悪い音がこだまする。

「あぁもう、まだるっこしい……なぁ急げ。時間が無いから」

 質量の大きな風切り音がしたかと思うと、さっき閉めてきた扉が男の足元まで飛んできた。

「……っぶな! 」

 男は冷や汗かいて小部屋に駆け込み、その扉も閉める。保管用の棚やケースをひたすら扉の前に積み、それを少年にも手伝わせた。

「これで助かんの」

「少なくとも寿命はちょっと延びる」

「ちょっとかよ」

 やれやれと首を振る少年をよそに男は拳銃を出す。

「銃で殺せるの」

「殺せるといいな」

 少年も、通学用であろうノースフェイスのリュックから拳銃を取り出した。

「なんだよガキンチョ、最高だな。どこで拾った」

「親父ヤクザだから」

「前言撤回。最低だ」

「殺すよ」

「もちろん殺さないでくれ」

 バリケードが落葉の山をふっと吹くように散らされると、そのゾンビはのれんをくぐるように侵入してきた。

「撃て! 」

 二人はゾンビの胴体めがけて二発ずつ発砲。貫通こそすれ効いている気配が無い。

「やっぱ無理か」

「ドスもあるけど? 」

「……アレに近づくのか? 」

 男は追加で三発を、顔面、首、肩に見舞ったがまるで効いていない。

「じゃ、僕が行く」

 少年はいつの間にか取り出していたドスを小脇に構えると一気に距離を詰める。

 ゾンビのアッパーにも似た振り上げを間一髪避け、脇腹に刃を突き立てる。すぐに抜くと立て板に水を流すように血が流れた。

「ッんならよっ! 」

 続く男は少年の頬を掠める高さのドロップキックを腹部へカマしたが、よろめいたくらいで致命傷には至らない。ゾンビは地に伏せた男を蹴り飛ばそうと足を引く。

「ドス! 」

 少年は掛け声に呼応してドスを投げ渡す。

 蹴りは横に回転して避け、ドスは床のタイルの隙間へ突き立てる。それを引く力を利用して勢いをつけ一気に立ち上がると、「走れ! 」と指示を出して少年とともにゾンビの脇を抜けた。

 だが簡単に逃がしてはくれない。ゾンビは少年のフードを掴んだ。すぐさま男が腐った顎に銃口を突きつけ引き金を引く。

「往生せいや! 」

 ゾンビは脳天を銃弾が貫通した衝撃から、わずかに上を見上げて静止する。

 二人は全力疾走でコンビニを後にした。





 ―― 次回へ続く。

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