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テンセイシャの舞台裏 ─幽霊令嬢と死霊使い─  作者: 葉月猫斗


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第49話

 テストが終わると二週間後の文化祭に向けて構内は慌ただしくなる。

 

 ルカヤ魔法学校ではクラス毎の出し物は無いが、代わりに部活動によって様々な催し物が用意されている。

 例えば演劇部は講堂で小演劇をするなどのイベントの他に庭が解放されたりと、普段は閉ざされている学校が平民にも向けて開かれるのである。


 アマーリエは慈善委員会のチャリティーに出展する物を作ったり、手芸部での作品の展示をどうするかなどで仲間と話し合ったりと忙しくしている。

 ヘスターも自分の作品をどう演出するか、空間作りに余念がない。

 

 手芸部や美術部などの創作系は、作品を客が気に入れば買い取ることができる。

 学生にとっても貴重な小遣い稼ぎなのでみんな本気で取りかかっているのだ。


 殆どが文化祭を成功させようと準備に勤しんでいる中、どの部活にも属していないテンセイシャは暇を持て余していた。

 本番では攻略キャラと一緒にいられるが、この時期はみんな忙しそうにしている。

 

 こればかりは仕方がない。たまには一人の時間を満喫しようと街へと繰り出した。


 お金をパーッと使うのは気持ちが良い。前世では手に入らなかったあれもこれも簡単に手に入るし、自分には攻略キャラというパトロンが居る。

 値段を気にせず買い物ができるのは最高の娯楽だ。

 

 それに金を持っていると、それを知った店員がゴマ擦りに躍起になる。まるで自分が王様になったかのようで気分が良かった。

 

 今日は何を買おうかと品物を物色していると、ウィンドウの窓ガラスに反射して見知った人物が自分の横を通りすがろうとしているのが見えた。


 慌てて振り返ると間違いない、隠しキャラのアルベールだ。


(嘘!?何で!?こんな所で会えるなんて知らなかったんだけど!)


 もしかして隠しルート?と胸をときめかせながら、街に出ることを選んだ自分を褒める。


(そうだ!今はこんなことしてる場合じゃない!早く話しかけないと!)


 だが普通に話しかけようとしてもナンパみたいになるし、今は彼に声をかけられるフラグとなる落とし物をしていない。

 

 なら自分が落とし物を拾ってあげた風を装えば良いか、と考えた彼女はバッグの中を漁る。

 あれでもない、これも違うと引っ掻き回していると、男が持っていても不自然じゃないシンプルなデザインのハンカチが見えた。


(これだ!これ持って来た自分グッジョブ!)


「あの、落としましたよ!」


 急いで駆け寄って自分のハンカチを差し出す。


「いや、自分のじゃないな」

「あ!そうなんですか?すみません!」


 彼はそのまま行ってしまったが、今はこれだけで良い。彼は会う回数を重ねて段々と親交を深めていくキャラなのだ。

 今日は良いことがあったと上機嫌な彼女は、その後の買い物ではいつもよりも大盤振る舞いしていたという。


 


 その後彼女は毎日のように放課後街に出かけてはアルベールを探した。そろそろ時期が迫っているので早く親交度を上げなければならない。

 

 見つけたらその都度偶然を装って顔を合わせ、他愛のない会話を交わす。それを繰り返して彼からの信用をせっせと築いていた。


 今日は噴水が綺麗な広場のベンチに座っての談笑だ。水面が夕陽の光を反射して中々ロマンチックである。

 

 しかしそろそろ自分が隣国の第二王子であることを仄めかしても良い頃合いなのに、彼は中々明かそうとはしなかった。

 

 もしかしたらヒロインである自分から言うべきことなのかもしれない。そう思い、彼女は口を開いた。


「あの、もしかしてアルベール殿下ですか……?」


 彼は一瞬何のことか分からないといった顔をした後、「そんなバカな」と苦笑した。


「確かに自分は貴族だが王族だなんてまさか。そういうのは向こうに失礼だから口にしない方が良い」

「そうですか……」


 躱されてしまった。でも一度はぐらかされたぐらいで諦めたりはしない。今のは動揺しているだけで、時間が経てば変装を見抜いた自分に対して感動するかもしれないし。

 

 アルベールは第二王子ではなく自分自身を見てくれる人を求めていた。今までのアピールの言葉の数々は確実に彼に届いている筈である。

 

 結局その後は別れたが、彼女は今の会話に確かな手応えを覚えていた。



 

 立ち去るふりをして、彼女から見て死角になる場所に身を隠したアルベールは、彼女の姿が見えなくなると、警戒心も露わに呟いた。

 

「やはり俺の正体を知っていたな。それに何も考えていないというのも本当のようだな」

「テンセイシャといってもそれぞれですからね」


 すぐ側から一人の青年がひょっこりと姿を現す。彼はアルベールが初めて出会ったテンセイシャであり、従者でもあり、友人でもある。

 

 そう、彼こそがアルベールにポーカーやチェスなどを通して知能をアピールする方法を入れ知恵した張本人である。


 彼の助言もあり、この国に訪問する頃にはすっかり王宮の人間への反抗の仕方を覚えたアルベールだが、それを知らない彼女は親交度を高めようと、彼がほしい言葉だった「生まれ順に関係なく能力を発揮する機会は与えられるべき」だと度々ほのめかしていた。


 しかしその行動がこの世界のアルベールの目には不審に映ったのである。

 

 このラネルニア王国は元々生まれ順に関係無く魔法力の高さで継承順が決まる文化である。「魔法力に関係無く」と主張しているのなら不自然ではないのだが、なぜ少女はわざわざ「生まれ順」と言ったのだろうか。

 

 彼女の言葉はまるで自分の正体を知っているかのようだった。自分は貴族であるとは明かしたが、出身国については話していないのに。

 

 まぁ自分の正体を見抜いたのは鋭い人間なら有り得なくはない話だ。

 だが自分を取り巻く環境まで知っているかのような発言をしていたのはなぜなのか。

 

 大いに警戒したアルベールは、急ぎ従者に不審な少女について調べるよう命じた。

 そして従者の報告で彼女がエリザベスと同級生であること、彼女の婚約者や複数の男を手の平で転がしていること、学校の入学前と現在で性格が全く違うことを知った。


 性格が突然変わるということはすなわち彼女はテンセイシャであることが高いという訳である。

 

 もしエリザベスが、あの少女と婚約者のことで心を痛めているのなら、それとなく伝えた方が良いと思い、数日前に彼女に会っていたのだ。


 結局要らぬ世話だったのだが、その際にあの少女は特定の地位の高い男性を狙っているので気を付けろと、彼女から忠告を受けていた。

 

 ならば何が目的なのか、またエリザベスに危害を加えるような素振りを見せれば阻止するつもりで、あえて少女と接触していたのである。

 

 それで分かったのは、少女が単に地位の高い男にチヤホヤされたいだけの、全く何も考えていない危険な女であるということだ。

 

 もし自分も少女に恋をしたとしよう。そうなれば一人の少女を違う国の王子が奪い合う地獄のような構図ができあがってしまう。下手すれば国同士の関係が悪化してしまう可能性さえ生じるのだ。

 

 その可能性さえ思い至らないような、国や国際情勢のことなど何も考えない自分の大嫌いな部類の人間だと、少女をカテゴライズした。

 

 それが今日はついに自分の正体を暴こうとしてきたのだ。

 

 ここらが潮時だ。この辺りはもう出歩けなくなってしまったな、と残念に思いながら、今度こそ従者を伴って広場を立ち去った。


 もし彼が従者と出会っていなければ、テンセイシャの言葉に救いを見出していたであろう。

 しかし彼はとうに救われていたのだ。そして現在は自分の願いを実現するべく最大の理解者と共に道を歩んでいる。

 

 そんな彼に今更テンセイシャの言葉など何の意味も価値も無かったのである。


 その後テンセイシャは何度も街に張り付いても結局アルベールと再会することは叶わなかった。

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