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テンセイシャの舞台裏 ─幽霊令嬢と死霊使い─  作者: 葉月猫斗


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第28話

「は?何を……?」


 バーナードは婚約者のあまりの言いように、笑い飛ばそうとして失敗したような歪な顔になる。

 自分達が?わざと?盗んだ?彼女に依存させる為に?


「し、失礼にも程がありますよ!なぜそんなことをしなければならないのです!」


 アランが吠えるがエリザベスは両肩を竦めてさらりと軽く受け流す。


「先程述べたでしょう?それに今まさにアマーリエさんは縋ってらっしゃるじゃないですか。貴方達の思惑通りに」


 エリザベスは今さっき思いついたことを話す。彼等にとって愛らしいテンセイシャが他の人間に目が向かないよう、わざとイジメを演出して自分達だけは味方だと印象付ける。

 そうすれば彼等の言葉を信じたテンセイシャは、感激して彼等以外の人間には寄り付かず、依存するようになるという寸法である。


 彼等にとっては実に馬鹿馬鹿しい理論だが、周囲にとってはそうは思えなかった。

 

 エリザベスの推測はあくまで自分達を犯人扱いする婚約者に、いい加減嫌気が差して思い付きで言ってみた、でまかせのようなものである。

 だが最近の彼等の言動が常軌を逸しているのも相まって、彼女の推測は信憑性を持たせるのに十分であった。

 

 現に周囲から「確かにあり得ないとは言い切れない……」や「前に別の場所でそんな騒動があったと聞いたことがある」と彼等に疑いの目を向ける。


「そんなくだらない推測をよくも僕達の前で話せたな!分を弁えろ!」


 良くない空気を感じ取ったバーナードが王子の威厳で悪い流れを断ち切ろうとする。しかし彼女達は一切怯む様子がない。

 

「貴方方の推測も私達から言わせれば『くだらない』の一言に尽きますよ」


 エリザベスも負けない。侯爵令嬢と王妃教育で培った支配者の空気を醸し出して対抗しようとする。

 一触即発な雰囲気の中、破ったのは彼等の元友人達だった。


「バーナード、そろそろ先生が来る。この話はもう止めにしよう」


 バーナードの元友人達が彼等を抑えて席に着かせようとする。女性達も壁になって彼等の視線からエリザベス達を隠した。


「待ってくれ!まだ話は……!」


 尚も引き下がろうとしないバーナードに、元友人の一人が彼の耳元に囁く。


「お前陛下の下にオブライエン家からの苦情が山程着てるのを知らないのか?」


 それは彼にとっては寝耳に水で、固まってどうしてと言いたげな顔をする彼に、友人は不快な表情を隠しもせずに説明した。


「最近のお前の言動があまりにもエリザベス嬢に配慮が無いって苦情が来てるそうだ。それこそわざわざそんな嫌がらせしなくとも相手の家に苦情を入れれば良いだけの話だろ?」


 それだけ伝えると振り返りもせずに友人は自分の席に着く。

 

 知らないことだらけで愕然とする。苦情?なぜ?自分はただ独りぼっちの彼女が可哀想で見ていられなくて助けているだけで、それでなぜ苦情を入れられなければならないんだ。

 大体距離が近いのもエリザベスの気にし過ぎで、彼女が嫉妬深いだけなのに、なぜ父上は反論しないのだろうか。

 

 嫌がらせだって苦情を入れても腹の虫がおさまらないとかの理由でやった筈なのに。それを自分達がアマーリエを依存させる為にやっただなんて。

 何でみんなも馬鹿馬鹿しいと言ってくれないんだ。何でそんな目で僕達を見ているんだ。


 純真で素直なアマーリエが嘘なんか吐かない筈で、そんな彼女が悲しそうな顔をしているということは確実に何かあっということで。僕は王子だから下の者を守らなくちゃならなくて、だからアマーリエのことも守っているのに、何でみんなしてそんな目で見てくるんだ。


 バーナードの思考や情緒はぐちゃぐちゃで、最早何の為に考えているのかすら自分でも分からなくなっていた。


 自分が媚を売っている相手の顔色が悪いのにも気付かず、テンセイシャは唇を噛む。

 上手くいったと思っていたのに、まさかそんな返しをしてくるとは予想外だった。エリザベスの口の上手さを舐めていた。

 しかもそれなりにあてにしていたモブ達の反応が薄いのも、計画には無かったことで腹立たしい。モブのくせにどうしてこう思った通りに動いてくれないんだ。


 計画ではここで完全にモブを味方に引き入れて物量でエリザベスに対抗するつもりだったのに、これじゃあ現状と何も変わらないじゃないか。


 仕方ない、この際モブ達は切り捨てる。所詮声を大きくする為の布石でしかないし、攻略キャラさえ仕事してくれれば問題は無い。


 どうせキャラの心を掴んでいるのは自分の方だ。エリザベスが今更どう足掻こうとも、どっちの言うことを聞いてくれるかは明白だ。

 次は目立たずに彼等にだけこっそり嫌がらせの報告をしよう。周りには誰にも頼れないとでも言えばさっきのこともあるし、きっともっと同情してくれる。


 しかし朝の出来事は既に教師に伝わっていたらしく、担任から不安であれば自分だけ別教室にする提案をされ、私物を使った罪の擦り付けは断念せざるを得なかった。


 そこで代わりに言葉による嫌がらせを報告することにした。言葉のイジメであれば言わなかった証拠も無いが、言われなかった証拠も無い。

 また教師に話が行っては面倒なので大事にしたくないと殊勝なフリをしてやれば、なんて優しい子だと賞賛の声がかかる。

 なんだ、最初からこうすれば良かったんだ。もうモブに期待するのは止めとこう。その方が手間もかからないし。


 だがテンセイシャは後に自身が切り捨てたモブによって窮地に立たされるなど思いもしていなかった。



 


 ルカヤの生徒は貴族や商家など経済的に余裕がある家が多い。ソル・マッセが近い日には慈悲深き王の逸話に倣い、授業の一環として炊き出しを行う。実際に平民との交流を通して上に立つ者に必要なノブレスオブリージュの精神を学ぶのだ。


 その授業では本格的に炊き出しに使う食材の調達から始まる。市場に買いに行くのも良し、商人や農民から売り物にならない商品を買い付けるのも良し、運動がてら狩りに行くのも良し。

 犯罪行為でなければ調達の方法は生徒の自由だが、これは食料がどうやって手に入るのか、どの程度の手間がかかるのか、肌で実感させる為の学校側の考えである。


 そうして持って来た食材は当然生徒一人で運べる量ではなく、その日は寮や学校の使用人も総出で食材運びを手伝うのである。

 あらかじめ教師が念押ししたからか、テンセイシャも食材を用意していた。しかし彼女が持って来た食材の量はたった一人分しかなかった。


「アマーリエ、もしかしてそれだけなのかい?炊き出しだから到底足りないよ?」


 気付いたアランがそう言うとテンセイシャは目を見開く。

 

「え!?そうなの?私知らなかったぁ」


 知らなかったではない。余程悪辣な貴族でなければ炊き出しなどの慈善事業は行っているし、その子ども達も後学の為に何度か見学をしている筈だ。

 それなのにそれっぽっちの量で済むと本気で思っていたら頭が足りないとしか言えない。これが運ぶ途中で事故などで食材がダメになったのなら同情できたのだが。

 

 しかも彼女に焦っている様子は一切無い。知らなかったんだからしょうがないみたいな雰囲気だ。


「仕方がないなぁ。俺のを分けてあげるよ」


 果たしてそれは本当に仕方がないのか。これが他の人がやらかしたのなら恐らくあり得ないなどと叱責するだろうに、彼女にはうっかりで済ませている。

 アラン以外にも例の生徒達は注意する様子が見られず、更には自分の食糧を分けてあげる始末である。周囲はつくづく彼女を前にすると盲目になるなと、失望を通り越して心が冷めていった。

 

 しょっぱなから不安だらけのスタートとなった今年の炊き出しだが、当然クラスメイト達の不安は的中した。

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