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THE DARK REALM  作者: 天神飯
7/12

アリスとリリアが村に戻ると、村人たちは焚き火の明かりに照らされたリリアの姿にざわめきが広がった。しかし、その反応は単なる恐怖や嫌悪ではなく、興味深そうな視線だった。リリアは、自分の焼け爛れた醜い姿が村人たちの目にどのように映るかを不安に思い、怯えた気持ちでその場に立ち尽くした。しかし、予想とは裏腹に、村人たちの表情は驚きつつも温かみがあり、嫌悪することなく彼女を見つめていた。


リリアはその反応に戸惑い、目の前に広がる光景が信じられなかった。彼女は過去に、自分が醜く恐ろしい存在として見られ、迫害されることを覚悟していたのだ。しかし、この村の人々はそうではなかった。子供たちまでもが彼女を恐れることなく、その純粋な目で興味津々に見つめていた。


その瞬間、リリアの目の前に小さな子供が現れた。彼は無邪気にリリアに近づき、母親に尋ねるような純粋な声で、「お姉さん、大丈夫?」と心配そうに問いかけた。その言葉にリリアは動揺し、胸が締め付けられるような思いを感じた。彼女はその子供にどう答えるべきか一瞬迷い、言葉が出てこなかった。ただ、その澄んだ瞳に見つめられることで、彼女の心の中で封じ込めていた感情が少しずつ溶け出していくような気がした。


リリアは自分の頬に涙が流れていることに気づいたが、それを隠すことなく、ただ静かにその場に立ち尽くしていた。アリスはそんな彼女の様子を見て、優しく肩に手を置き、微笑みかけた。その瞬間、リリアは少しだけ安堵し、心の中で少しずつこの村に対する警戒心が解けていくのを感じた。


アリスはリリアにそっと耳打ちし、魔女らしき痕跡を見つけたことを告げると、リリアはうなずき、村人たちに手短に挨拶を済ませた二人は急ぎ教会へと向かった。


霧が立ち込める夜の道を進むアリスとリリア。彼女たちが教会へと向かって歩を進める中、ふとした音にアリスは足を止めた。柔らかな足音が暗闇の中から聞こえてくる。反射的にアリスがその方向を見つめると、霧の中から二つの影が浮かび上がった。ペトリシアタとメルコムだ。


「こんな時間に、二人とも何をしているの?」アリスは軽い疑問を口にしたが、その内心には不安が広がっていた。二人の様子にはどこか奇妙な緊張感が漂っていたからだ。


「ええと…ただ、少し教会の様子を見に来ただけさ」メルコムは曖昧な笑顔を浮かべながら答えたが、その言葉はどこか空虚で、まるで何かを隠そうとしているかのようだった。ペトリシアタもちらりとアリスを見てから、視線を逸らしながら軽く頷いたが、その動きには焦りが見え隠れしていた。


アリスは彼らの態度に疑念を抱いたが、今はその理由を問い詰める時ではないと判断した。「そう…ならいいけど」と、少し怪訝そうに見つめながらも、それ以上は何も言わなかった。リリアも特に関心を示さず、アリスと共に教会の扉へと向かった。


教会の扉は重厚で、開けるときには鈍い音が響いた。アリスが勢いよくその扉を押し開けると、内部の冷えた空気が外の霧と混ざり合い、内部の様子が徐々に明らかになった。教会の中は薄暗く、古びた木のベンチが並び、ステンドグラスから差し込む僅かな光がその場を僅かに照らしていた。祭壇の上に並ぶ小さな蝋燭が、細く揺れる炎を立て、影を不規則に揺らしていた。


空間全体に漂う静けさは、ただの静寂ではなく、何か得体の知れない緊張感があった。アリスの心臓がその空気に反応して高鳴る。ふいに教会の隅で微かな動きがあり、アリスは本能的にその方向へと目を向けた。暗がりの中、何かが微かに震えるのが見えた。


その動きに気づいたのはリリアが最初だった。彼女は反射的に、瞬く間にその影に向かって突進した。アリスが「待て!」と叫んだが、その声にリリアはぴたりと動きを止めた。

リリアが振り向く先には短刀を喉元に向けるペトリシアタとそれを止めようとするメルコムの姿があった。


「やめろ、ペトリシアタ!」メルコムは必死に彼女の手を押さえようとしたが、ペトリシアタは固く唇を結び、リリアに向かって短刀を突き立てようとした。メルコムの焦燥感とペトリシアタの覚悟が教会内の緊張感をさらに高め、その場の空気は凍りつくような張り詰めたものになった。


教会の奥から、背丈の低い、縁の大きなとんがり帽子をかぶった魔女がゆっくりと現れた。その顔には、深い皺が刻まれ、冷酷さと狂気が宿っていた。杖を握りしめたその手には、邪悪な力が感じられた。「少しでも動いてみな、その娘が自分の喉を刺すことになるよ」残酷な笑みを浮かべながらその魔女は言った。


「何が欲しい?」アリスは魔女を見据えながら静かに問いかけた。彼女の声には冷静さが宿っていたが、その裏には怒りと不安が入り混じっていた。


「若い女の脳髄を煮込んだ汁で、若返るのさ」と魔女は嘲笑を浮かべながら答えた。その言葉が教会の静寂を切り裂き、場の空気がさらに張り詰めた。「止めろ、僕はこの子を愛しているんだ!!」メルコムはペトリシアタを守ろうと必死に叫んだが、魔女はその叫びを冷酷に笑い飛ばした。


その瞬間、リリアは誰の目にも留まらぬ速さで動きペトリシアタに近づきの腕にある沼の刻印を切り落とした。刻印は消え、ペトリシアタはその場に倒れ込んだ。メルコムは彼女をしっかりと抱きしめ、その無事を確認しながら涙を流した。


リリアはその光景を静かに見つめ、複雑な感情が入り混じる表情を浮かべていた。彼女の目には、過去の自分への悔恨と、目の前の者たちへの深い思いやりが映し出されていた。彼女はメルコムに「大事にしてやってくれ」と、静かに、しかし重みのある声で伝えた。その言葉には、自分の過去を背負いながらも、彼女が今ここにいることの意味が込められていた。そして、再び魔女に向き合った。


「今、何をした?」アリスは驚くと同時に疑問を持っていた。通常刻印は傷をつけたくらいでは効果を失うことは無い、そうなれば傷をつけた鎌が特殊な効果を持つものかリリアが魔術を使ったかのどちらかだ。「この鎌の能力は『無効(キャンセル)』。あらゆる刻印を無効化する能力を持った鎌よ」リリアの大型の鎌が放つその異様の正体をアリスはやっと理解した。


「そんな馬鹿な…そんな鎌があってたまるもんか!!」先程の余裕と冷酷さを失い顔一色焦りの色で染められたその魔女はたじろぎ逃げ道を探るように辺りを見回した。

「そ、そうだ、アンタも若返りの秘薬を飲むかい?その見た目じゃあ周りからも嫌悪されるだろう?山分けしてやるからどう…か?」

一体何が起きたのか魔女にはわからなかった。自分の視界が上下反転し頭が床にあったからだ。唯一確認できたのは汚れた夜中の教会の差し込む月光に照らされる汚れた純白のウェディングドレスを見に纏い鎌を持つ女の後ろ姿だった。悔しくもその魔女が美しいと感じたのは気のせいではなかっただろう。


魔女が打ち倒され、教会内の緊張感は一瞬にして解けた。アリスが魔女の杖を折り、その邪悪な力を封じ込めると、リリアはゆっくりと呼吸を整え、周囲を見渡した。ペトリシアタはメルコムの腕の中で気を取り戻し、目に涙を浮かべながら彼を見つめた。


「メルコム…あなたが私を守ってくれて…本当に嬉しいわ…」彼女の声は震えていたが、そこには感謝の気持ちが溢れていた。メルコムは彼女の頬に手を添え、優しく微笑んだ。


「ペトリシアタ…俺はずっと君を守るよ。だから、近いうちに…結婚しよう」彼の言葉には深い決意が込められていた。ペトリシアタは驚きと喜びで一瞬言葉を失ったが、すぐにその涙が微笑みに変わり、彼の胸に顔を埋めて頷いた。


いつの間にか二人の温かいやり取りを見守っていた村人たちは、安堵のため息と共に喜びの声を上げた。彼らはペトリシアタとメルコムの幸せを祝福し、感謝の意をアリスとリリアに伝えた。


「本当にありがとうございます!お二人のおかげで村は救われました!」村の長老が涙を浮かべながら頭を下げた。他の村人たちもそれに続き、アリスとリリアに感謝を述べる。


「お二人とも、どうか今夜は酒場で一緒に飲んでください!私たちがご馳走を用意しますから!」若い女性が声を上げ、周りの村人たちも拍手を送った。こうして、アリスとリリアは村人たちの温かい歓迎を受けることになった。




夜が更け、酒場は村人たちの笑い声と酒の香りで満たされていた。木のテーブルにはたくさんの料理が並び、アリスとリリアはその真ん中に座っていた。周囲の村人たちは杯を掲げ、次々と二人に感謝の言葉を述べた。


「アリスさん、あなたの旅の話を聞かせてください!」村の若者が興味津々な表情でアリスに問いかける。アリスは少し照れた様子で微笑み、これまでの冒険の一部を話し始めた。彼女が語る壮絶な戦いや、世界の神秘に触れる旅の話に、村人たちは熱心に耳を傾けた。


「それから…ある日、巨大な蛇と戦ったんです」アリスがそう語ると、村人たちは驚きの声を上げた。「その蛇は…ただの蛇じゃなくて、古代の魔力を宿した存在で…倒した後にある指輪を手に入れたんです」


話が盛り上がる中、リリアは静かに杯を傾け、周囲の雰囲気を楽しんでいた。お得意の冒険談を話を聞かせて酒場が盛り上がった後にアリスはふとリリアの過去に思いを馳せ、彼女に向き直った。


「リリアさん…昔、何があったのか…もしよければ教えてくれませんか?」アリスの声は優しく、慎重だった。


リリアは一瞬戸惑った表情を見せたが、やがて静かに語り始めた。


アリスはその言葉の意味を咀嚼しながら、リリアがなぜ再び生きることになったのかを考えていた。


を聞いていたアリスの胸にも、重苦しい感情が広がった。リリアの運命があまりにも残酷で、不条理だったからだ。アリスはその言葉の意味を咀嚼しながら、リリアがなぜ再び生きることになったのかを考えていた。


アリスはその中に一筋の光を見出した。


「リリア、もしかして、王妃の指輪が関係しているんじゃないか?」アリスは思い出したように言った。「王妃の口付けの話を覚えてる?それが特殊な魔力を発動させたのかもしれない。」


リリアはその言葉を聞いて、少し戸惑いながらも、すぐに思い出した。「そう…エイダも、あの日に口付けを受けていたわ。もし、それが原因で彼女も生きているとしたら…」リリアの目に涙が浮かんだ。「エイダがまだ生きているのなら…」


リリアは感動のあまり、静かに涙を流した。彼女の表情には、これまで見せたことのないほどの希望が宿っていた。


アリスは、リリアの手にそっと自分の手を重ねた。「きっとエイダはどこかで生きている。私たちで一緒に探しましょう。」


その夜、リリアの涙は悲しみではなく、希望と再会への期待で満たされていた。アリスはリリアの肩に手を置き、そっと微笑んだ。「きっと…エイダもどこかで生きている。私たちが探し出して、必ず再会させましょう」


酒場の温かい光の中、二人の女性は新たな希望を胸に抱き、未来への決意を新たにした。暗い夜から照らされる月明かりが彼女たちを見守り、その瞬間を祝福した。


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