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THE DARK REALM  作者: 天神飯
2/12

継承

学会から渡された地図を握りしめ、私は不気味な森の奥へと足を踏み入れた。双指輪が隠されている可能性が高い遺跡への道は、どこか幻のように曖昧で、地図に記された道筋さえも時折霧の中に消えそうになる。木々は密集し、頭上に生い茂る葉は太陽の光を遮断して、森全体が薄暗く沈んでいた。


この森は、まるで生き物が息を潜めているかのように不気味な雰囲気を漂わせていた。空は厚い雲に覆われており、太陽の光はほとんど差し込んでいない。上空では、中型の竜が闇魔力を纏いながら飛んでいるのが見えた。私はその姿をじっと観察し、大気中の闇魔力を巧みに利用して飛行していることをメモに記した。


森の奥深くへと進むにつれ、道は険しくなり、私は川沿いを登るようにして足を進めた。この地に生息する昆虫たちは、異様なほど巨大で、かつて訪れたザハリカの雨林地帯と同格の大きさだった。不気味な静寂と、時折耳にする見えない生き物たちのささやきが、私を不安にさせる。


正午を少し過ぎた頃、私は山岳地帯の標高の高い場所にたどり着いた。周囲は一面、白い雪に覆われていた。これまで進んできた暗く不気味な森とは対照的に、この場所は静寂に包まれ、まるで別の世界に足を踏み入れたかのようだった。雪の上に足を踏みしめるたびに、僅かな音が聞こえるだけで、他には何も音がしなかった。その静けさに、私は心を奪われた。


北レーベップ大陸の乾燥した大気とは全く異なる、冷たく澄んだ空気が肺に心地よく染み渡る。ここでは、すべてが静かで平穏だった。風もなく、空にはただ青が広がっている。闇魔法の影響を感じさせないこの場所に、私は不思議な安らぎを覚えた。私は一瞬、旅の目的を忘れ、この静寂に身を委ねたくなる衝動に駆られた。


その時、ふと視界の端に動くものが見えた。私はその方向に目を向けると、雪原を軽やかに駆け抜ける鹿の群れがいた。彼らの動きは優雅で、どこか儚げで美しかった。この地でも生き物たちは息づいているのだ。闇魔法の影響を受けているのか、あるいはこの雪の中では無傷でいられるのか、その生態を観察しながら、私は慎重にメモを取った。


アリスは険しい雪山を登り続け、ようやく山頂にたどり着いた。冷たい風が頬を刺すように吹き付ける中、彼女は息を整えながら周囲を見渡した。辺り一面、白銀の世界が広がっており、青白く輝く雪が朝の光を受けてまばゆく光っていた


彼女は凍える指先で懐から地図を取り出し、広げた。地図には古い遺跡の位置が記されているが、この厳しい環境の中で目印となるものを見つけるのは容易ではない。


彼女は慎重に地図を確認しながら、目の前に広がる景色と照らし合わせた。山の麓には深い森が広がっており、その奥には小さな開けた場所が見えた。地図に描かれた記号が示す遺跡の位置と、その場所が一致することにアリスは気づいた。


遺跡は、森の中にひっそりと隠れるように存在している。その場所は、まるで自然の中に溶け込むようにして、周囲の目から逃れていた。


アリスは地図を再度確認し、遺跡への道筋を頭に刻んだ。


雪山を下山し周りの緑が増え始めていた頃のことだった。


アリスは森を抜け、目の前に広がる岩肌に立ち止まった。古びた石畳の道が、彼女を導くかのように延びている。空には黒い雲が垂れ込め、冷たい風が吹き荒れる中、その道の先にあるものが、彼女の目を引いた。


「ここが…」


彼女は自らの呟きをかき消すように、風が唸りを上げた。目の前には、長い年月を経たであろう朽ちかけた遺跡の入り口があった。かつては立派であったであろう石造りの門が、今では苔に覆われ、無数の蔓が絡みついていた。風雨にさらされて色褪せた石壁は、重厚な歴史を感じさせる一方で、どこか不気味な雰囲気も漂わせていた。


アリスは慎重に近づき、門をじっくりと観察した。古代の文字が刻まれているが、長年の風化でその意味を読み取ることはできなかった。文字自体は読めないのだがどこかで見た事のある文字だという引っ掛かりを覚えながらも古い遺跡の中を進んでいた。


湿った空気が肌にまとわりつき、薄暗い光が石壁を幽かに照らしている。突然、彼女の足が止まった。前方から、何かが這うような音が聞こえてきたのだ。その音は徐々に大きくなり、やがて巨大な影が遺跡の奥から現れた。


それは、巨体を誇る大蛇だった。鱗に覆われた体は光を反射し、冷たい光を放っていた。その瞳には冷徹な輝きが宿り、口元からは猛毒の滴る鋭い牙が見え隠れしていた。アリスは一瞬、息を呑んだ。この化け物が、この遺跡を守護する存在なのかもしれない。


「まずい…」


アリスは身構えたが、すぐに大蛇が動き出した。巨大な体が一瞬で距離を詰め、アリスに襲いかかってきた。彼女は反射的に後退し、間一髪でその攻撃をかわした。大蛇の頭が地面に激突し、石の床が砕け散った。だが、それはただの始まりに過ぎなかった。


大蛇は再び身を持ち上げ、鋭い目でアリスを睨みつけた。彼女は素早く逃げ場を探したが、遺跡の狭い通路が逃走を阻んでいた。


この大陸は虫といい鹿といい大きさがおかしい程大きいな!

背後に壁を感じ、アリスは焦りを覚えた。こんな巨体に正面から挑んで勝てるわけがない。


「どうする…?」


アリスは考えを巡らせながら、大蛇の動きを見極めた。その瞬間、大蛇が再び突進してきた。彼女は急いで横へ飛び退き、なんとか攻撃をかわしたが、足元がぐらつき、バランスを崩してしまった。遺跡の石床に手をついて立ち上がろうとした時、大蛇がその巨体を反転させ、彼女のすぐ近くに迫っていた。


絶体絶命の状況だった。アリスは大蛇の鋭い牙が迫るのを感じ、咄嗟に遺跡の柱の間へと身を滑り込ませた。大蛇はアリスを捕らえようと無理に身をねじ込んだが、その巨体は柱の隙間に挟まり、動きを封じられた。


「今しかない…!」


アリスは恐怖を振り払うように、炎の剣「イグニスシュヴァルト」を手に取った。魔法の力が彼女の体内で燃え上がり、剣の刃が灼熱の炎に包まれた。大蛇が逃れようともがく姿を見据え、アリスはその瞬間を逃さなかった。


彼女は全力で剣を振りかぶり、一気に大蛇の頭部へと突き立てた。剣は大蛇の鱗を貫き、燃え盛る炎がその内部を焼き尽くしていった。大蛇は苦痛の咆哮を上げ、遺跡の中に響き渡ったが、その叫びも次第に弱まっていき、ついには静寂が戻った。


大蛇の巨体が地面に崩れ落ち、その命は尽きた。アリスは息と今日の魔力全てを切らしながら、剣を握りしめたままその場に立ち尽くしていた。彼女の全身は汗で濡れ、体中に力が入らなくなっていたが、何とか立ち上がり大蛇の死を確認した。


その時、遺跡の奥からかすかなうめき声が聞こえた。アリスは慎重にその方向へと足を進める。薄暗い石の間を抜けた先には、一人の老騎士が倒れていた。彼の鎧はボロボロで、顔には疲労と苦痛の色が濃く漂っていた。


「大丈夫ですか?」


アリスは近づいて問いかけた。老騎士はゆっくりと顔を上げ、その目にはかすかな希望が宿っていた。


「お前が…あの大蛇を…倒したのか…?」


「はい、なんとか…」


老騎士は弱々しく頷いた。その体は見るからに衰弱していたが、死に至ることなく、ただ苦しみに喘いでいる。


「私は不死者だ…この遺跡に縛られ、大蛇の猛毒に苦しみながら…永遠に生き続ける呪いを受けている。」


アリスはその言葉に息を飲んだ。目の前の男は、彼女と同じく不死の呪いを背負っていたのだ。しかし、その苦痛は想像を絶するものだった。


「だが…もう限界だ。お前に…ダークレルムを…託そう…」


老騎士は震える手でアリスの手を掴んだ、そしてその手に指に指輪をはめた


アリスがその指輪に触れた瞬間、世界が一変した。重く冷たい空気が彼女の周囲を包み、全ての色彩が影の中に吸い込まれていく。心臓の鼓動が耳鳴りのように響き、まるで時が止まったかのように感じられた。


指輪は黒く光り、彼女の手に吸い付くようにしてはめ込まれた。痛みはなく、むしろその冷たさは不気味なほど心地よかった。しかし、次の瞬間、アリスは自分の身体に異変を感じた。肌が一瞬で青白くなり、指先から力が抜けていく。目の前の景色が揺らぎ、現実と幻の境が曖昧になる。


「これは…一体…」


呟く彼女の声は、自分の耳にさえ遠く響いた。周囲の空間がゆっくりと歪み、彼女の視界は闇に包まれていく。その闇の中から、低く囁くような声が聞こえた。


「お前は選ばれし者だ…ダークレルムの呪いを受けし者…」


その声はまるで彼女の心の奥底から湧き上がるようだった。恐怖がアリスの心を掴み、彼女は必死にその声から逃れようとしたが、身体は動かない。目を閉じたくても閉じることができず、ただその闇に引き込まれていく。


やがて、声は静かに消え、アリスはその場に崩れ落ちた。


「結婚の儀式を…完成してくれ…」


それが、彼の最後の言葉だった。老騎士は微笑みながら目を閉じ、その体はゆっくりと崩れ落ちていった。彼の魂は解放され、この世を去っていった。


アリスはその場に立ち尽くし、老騎士の言葉の意味を考えた。結婚の儀式とは何を指すのか、そして、それがダークレルムにどう関わるのか。彼女の心には、解けぬ謎と共に、新たな使命が刻まれた。








冷たい風が、夜の帳に包まれた古城の中庭を駆け抜けた。朽ちかけた石壁に囲まれたこの場所には、かつての栄光を思わせる面影はすでになかった。しかし、その廃墟の奥深くには、今なお脈打つ闇の力が宿っていた。


一人の騎士が古びた鎧を軋ませながら、双指輪のもう片方である闇を司るシャドウレルムに優しく触りながらゆっくりと立ち上がった。彼の顔には疲労と苛立ちが混じり合った表情が浮かんでいる。だが、その瞳には、得体の知れない歓喜が宿っていた。彼は周囲を見渡し、仲間たちに声をかけた。


「聞こえたか、皆の者…ダークレルムが目覚めた。」


騎士たちは静かに頷き、古城に響くその言葉を噛み締めた。長い年月を経て、彼らはこの瞬間を待ち続けていた。彼らの使命はただ一つ——ダークレルムの力を再び手にし、この世界を支配すること。


「ついにその時が来たか…」騎士の一人が、口元に笑みを浮かべながら呟いた。「あの力があれば、全てが我らの思い通りになる。」


彼らは次々に立ち上がり、共に陰険な笑みを浮かべた。その笑顔は、決して喜びを表すものではなく、むしろ彼らの内に潜む悪意を露わにするものだった。彼らの胸中には、これから起こるであろう暗黒の未来が、何よりも甘美に響いていた。


「まずは、この城を取り戻すのだ…そして、次に世界を。」


闇の力が彼らを包み込み、古城の騎士団は再び動き出した。彼らの背後には、黒い影が蠢いていた。ダークレルムの力を手にした者が、彼らの計画を知る由もなかった。古城の中庭に、不気味な静寂が戻る中、彼らはその悪しき企みに胸を膨らませていた。






一方、森の奥深く、沼地に隠された小屋には、薄明かりの中で動く影があった。小屋の中は湿った空気が漂い、あたりにはかすかな腐敗の匂いが混じっていた。そこに集まる者たちは、皆一様に黒いフードを深く被り、その顔を隠していた。


「ダークレルムが…蘇ったのね。」


低く囁かれたその声は、小屋の中で静かに響いた。声の主は、フードの中で鋭い目を光らせていた。その目は、狡猾さと共に計り知れない力を秘めた瞳であった。


「そうよ…ようやく、我らが望んでいた時が来たわ。」


別の声が応じると、そこにいた者たちは一斉に薄笑いを浮かべた。彼女たちは沼の魔女たちであり、長年この時を待ち望んでいた。彼女たちの目的は一つ——ダークレルムの力を手に入れ、森と沼地を支配すること。


「これで我らが森はさらに力を得るでしょう。あの愚か者が指輪を手にした時点で、全ては我らの計画通りよ。」


彼女たちは互いに視線を交わし、その中で一際鋭い笑みを浮かべた。一人の魔女が手元に置かれた茶碗を持ち上げ、それをゆっくりと口元に運ぶと、毒々しい緑色の液体がその中で蠢いていた。彼女は一口飲むと、その喉を通り抜ける感覚を楽しむかのように目を閉じた。


「これで、あの地に再び闇が訪れる…そして、我らの思い通りの未来が訪れるのよ。」


彼女たちは小さな声で笑い合いながら、茶会を続けた。だが、その笑みの裏には、底知れない悪意と欲望が潜んでいた。森の中で、沼地の魔女たちはその時を待ち続けた。彼女たちの計画が進む中、森の奥には暗黒の力が徐々に膨れ上がっていくのが感じられた。

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