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第6話

 昼にやってきたソーマだったが、窓から差し込む光がなくなるまで教会に滞在していた。

 そんなに祈ることがあるのか。

 長い間ぴくりとも動かないナターシャに眉を寄せる。

 姿勢を崩さないまま座り込んでいる姿は、寝ているのではと疑問を抱いてしまう。

 ソーマはゆっくり立ち上がり、足音を殺してナターシャの前に立つ。

 前髪に隠れているが、瞼は閉じられており、両手は顎の辺りで握られている。

 あの瞳を瞼の中に収めていても、その美貌は変わらない。

 華美でない、質素でもない、けれど質の良い布の白い衣装がナターシャの美しさを際立たせている。

 綺麗だ。

 女の容姿に対して、初めてそう思った。

 この美貌を悪用すれば、国一つ堕とすことだって可能だろう。

 敵に回せば厄介である。

 この女にとって、聖女は天職かもしれないな。

 ソーマが無遠慮にナターシャの顔をじっくりと観察していると、ナターシャの瞼が開かれた。


「ひぇ!」


 神像があるはずだったが、何故かソーマが視界に入る。

 思わず口から飛び出た声に驚き、慌てて手で口元を覆う。


「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって」


 照れたように頬を掻く。

 心臓が大きく揺れる。

 目を閉じている間に何か魔法をかけられただろうか。

 足音を立てずに近寄るなんて卑怯だ。


「それで?」


 何故目の前にいたのか、理由を言わないまま預言について尋ねる。

 耳の血色が良いことに気付いたが、そんなことよりもその態度に腹が立つ。

 悟られないよう注意しながら、立ち上がって微笑む。


「人間の悪意が大きく膨らんでいます。近々、それが爆発するでしょう」

「近々とはいつだ」

「そんなに遠くない日です」

「いつだ」

「いつ、と断言はできません。預言といっても、そこまで正確なものではありませんから」

「はぁ」


 なんだ、と落胆を隠さないソーマはため息を吐いた。

 それもまたナターシャの怒りを買う。

 一体聖女を何だと思っているのだ。歴代の聖女も絶対に力はなかったはずだ。金髪碧眼で生まれただけで、力なんてなかったと確信している。自分がそうなのだから、過去の聖女だってそうだ。こうして預言しろだのなんだのと求められ、嘘ばかり吐いていたに違いない。

 自分もそれと同じことをしているだけだ。

 先のことが分かるなんて、そんな都合の良い能力はない。

 魔法ですらできないものを、ただの女ができるわけないだろう。

 金髪碧眼で生まれただけだ。それを周りが誤解しているだけなのに、何故落胆されなければならない。


「それ以上は分からないのか」

「ごめんなさい、私が未熟なものだから…」

「はぁ」


 二度目のため息を吐かれた。

 そこまで露わにしなくてもいいだろうに。

 こんな奴の部下になったら大変だ。

 コミュニケーション能力は低いが、できる男故に上に立っている。魔法師団の人間関係はよくないと察した。

 もしも魔法が上手くできなかったら「何故そんなこともできない」と見下すのだろう。

 人の気持ちが分からない男だ。


「まあいい。それを国王に伝える」


 仕方ない、と付け加え教会を出て行こうとするソーマの袖を掴む。

 何だ、と振り向いたソーマは怪訝な顔をしていた。

 ぱっと手を放し、無意識でしたとアピールする。


「ご、ごめんなさい!」


 わたわたと手を動かしてナターシャは目を逸らす。

 ソーマはそんなナターシャを一瞥すると、扉を開けて帰って行った。

 ぱたん、と扉の閉まる音が虚しく響く。


「ちっ」


 少しくらいときめいてくれたっていいのに。

 今後のことを考えると、ソーマを敵に回したくはない。

 疑いを抱かれたくない。

 自分に惚れていれば操りやすいと思ったのだが、あの乾ききった瞳を見る限りナターシャに対する気持ちは持っていないと推測する。

 あざとく近寄りすぎると引かれてしまうので、積極的に会うことはしないでおこう。

 会いたくはなかったが、会ってしまった以上変な疑念を持たれないよう行動するしかない。

 できるならこの美貌で虜にしたいところだが、あの美形は手強い。

 顔も実力もある男は簡単に落ちてくれないだろう。

 無理やり惚れさせようなんて思ってはいない。

 引き際も肝心だ。

 様子を窺いながら行動するしかない。

 次にいつ会えるか分からないが、今のところ好感度は上がっていないだろう。

 預言の能力が低いと感じ、落胆していたがこの美貌でプラマイゼロといったところか。

 なんとしてでも聖女の振りをし続け、この先も大金を貰いたい。

 今日は疲れた。

 帰ってステーキでも食べよう。

 ナターシャは腹の虫が鳴いていることに気付き、扉を開けて外へ出た。



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