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第3話

「すまない。来客があったようだ」

「いえ、お忙しい中ご対応頂きありがとうございました」


 椅子から立ち上がり、頭を下げると金髪の束が肩から落ちた。

 ナターシャの髪が太陽の光で輝くのを眺め、国王は背を向けて去って行った。

 大魔法師がこの場に来なかったことに安堵し、ナターシャは王宮を後にした。

 ナターシャは魔法に詳しくない。

 魔法師団しか使えることを許されていない魔法は、ナターシャの心を穏やかにしない。

 いつこの嘘を見破られるのではないかと、冷や冷やしている。

 魔法で嘘が露見すればどうなることか。

 そのため、ナターシャは魔法師団とは関わりを持っていない。

 特に大魔法師とは、絶対に関わりたくはない。

 数年前の、英雄と呼ばれるようになった事件をきっかけに大魔法師となった男。きっととんでもない魔法を使うに違いない。

 人の心を操ることができたり、心の声を聞くことができるという黒魔法の使い手ではないことくらい噂で知っている。大魔法師は風魔法を使うのだと。

 分かっているが、自分が国を欺いているように、大魔法師だって国を欺いているのかもしれない。

 危険の種は撒いてもいいことはない。

 魔法師団の人間とはできるだけ避けて生きる。

 ナターシャは逃げるように邸宅に帰った。


 その頃、王宮の一室にて国王は大魔法師のソーマと対面していた。

 近頃、魔物の出没は減り、国と国の争いも減った。

 平和が続いている。

 それは、嵐の前の静けさであり、国王とソーマは今後について話し合っていた。


「暫く落ち着いているようだが、どれくらい続くのやら」

「こんなに長く、魔物が出没しないなどあり得ませんからね」

「遠い国では魔物が現れているようだが」

「この辺りだけ静かならば、まだマシでしょう」


 すべての魔物が姿を見せないならば大問題であるが、他国では発見されている。


「一体いつ、何が起こるのやら」


 国王はため息を吐いた。

 平和が続けば、大きな災難が起こる。

 それは国民も知るところである。

 このまま平和が続けば、不安になる民が出てくる。そうなると、誤報が飛び交い国は混乱の渦を巻いてしまう。


「また聖女にお願いすればいいのでは?」


 ソーマが口に出した。

 国王は大きく頷き「それは、考えていた」と深い声で答えた。

 ソーマが英雄と呼ばれるようになった事件について、実は聖女が予言していた。

 近いうちに、魔物の大群が国を襲ってくるだろう。そう予言したのだ。

 そのため聖女は教会に籠り、魔物から国を守るため何日も何日も祈りを捧げ続けた。

 その甲斐も虚しく、国は魔物の群れに襲撃されることとなった。

 魔法師団が奮闘することで被害は最小限に抑えることができた。特に、ソーマの活躍はたくさんの国民の目にとまり、ソーマの働きあってこその平和だと称賛し、感謝した。それからというもの、ソーマは大魔法師と呼ばれ、若くして魔法師団団長の座に就くこととなった。

 あの事件を、聖女は予言していた。

 ソーマはその聖女に興味を抱いていたが、会う機会はなかった。用もなく教会へ足を運ぶことはできなかったので、これはいい機会だと口角を上げた。


「陛下、俺が聖女の元へ行きますよ」

「いいだろう。しかし、怖がらせるなよ。聖女は繊細なのだ」

「怖がらせるも何も、話をするだけです」

「お前が不愛想だから言っておる」

「失礼ですね、笑うことだってあります」

「鼻で笑う、の間違いだろう」


 言い返す言葉もないので、ソーマは肩をすくめる。


「そういえば、聖女が来ていたようですが、どんな用で?」

「大したことではない。聖女の美貌にやられた老害の対策を頼まれた」

「ほう」

「使える守衛の配置をするくらいだ」

「そんなに良い女ですか、その聖女は」

「あぁ。聖女に勝る女はいない」

「国王にそこまで言わせる聖女に興味があります」


 王妃や王子にも厳格に接する国王が、聖女をここまで褒めている。

 王妃に対する褒め言葉を聞いたことはない。王妃以上の女であるということか。

 色ボケ爺め。

 そんなことを口にはできないので、心の中に留めておく。


「聖女の予言を聞き出せ」

「はいはい」


 大魔法師は聖女同様、国にとって失えないものであるため、国王はソーマの失礼な態度を気にすることはなく、「頼んだぞ」と言った。

 その言葉を最後に、ソーマはクリスタルを使って王宮から姿を消した。


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