表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話 レモン

 俺は真面目な生徒である。先生の話はちゃんと聞くし、ノートもしっかりとまとめている。これはじいちゃんが言っていた、勉強できるやつはモテる、という言葉から来る習慣だ。おかげで成績は良い。


 ちなみに、希は運動神経が優れているため、体育の成績はずば抜けて良く、それ以外は並以下。体力テストではこちらをフルボッコしてくるが、テスト前には泣きついてくるのが恒例となっている。


 授業中、右斜め前にいる希の様子を見ても、何を考えているのかぼんやりとしていて、時折、授業を受けているのだと思い出したかのようにペンを取る。しかし、それも長くは続かず、どう見ても板書すら写せてないだろう、という有様だ。


 未央はまさにその逆。ちょっと鈍くさいところがあり、体育は苦手。それ以外の科目については、俺よりも要領良く勉強をするため成績は上。


 今の席では見れないが、前に見た未央はカラフルなペンを駆使して、まるで絵を描いているかのようにノートと向き合っていた。いや、実際に絵を描いているのだ。


 ちょこちょこっとデフォルメされたかわいらしいキャラクターは、先生の言うここテストに出るぞ案件を強調するために生まれたものだ。そのキャラクターのモデルが希だったりする辺りは、何というか、絵心はあってもセンスがないのかもしれない。きっと天然なんだろう。ある種の残酷さを持ち合わせている。


 さて、授業合間の休み時間。


 今朝、接触事故を起こした男子生徒が近づいて来て、ガッ、と俺の肩に腕を回す。


「なぁ、傾木かしぎ。俺は許せねえよ」

「……暑いし鬱陶しいから離れろ」


 彼の名前は檸檬れもん。ではないが、唐揚げはおろか、卵焼きや白米といった絶対合わねえだろ、と突っ込みたくなるものにまでレモンをかけまくるので、周りからはそう呼ばれている。


 短髪のむさ苦しい男子に、檸檬という絶対合わねえだろ、と突っ込みたくなるあだ名が付けられるほどの悪癖である。必殺技はレモンスプラッシュ。本人が言い始めたあたり、案外気に入っているようだった。


「俺はよぉ、入道さんという女子の幼馴染がいる、ってだけで許せねえんだ。なのにおまえってやつは、伊礼さんとも仲良くしやがってよ」

「……希と、仲が良いんだよ。俺はおまけ」


 これはごまかしであるが、嘘ではない。希と未央がまず最初に仲良くなり、希の幼馴染だからという理由で、俺と未央の繋がりができた。


「で、どっちと付き合ってんの?」と軽い声に反してすさまじい目つきで睨まれる。


 心臓が爆発した。しかし、顔に出さない。ポーカーフェイスを気取る。じいちゃんが言うには冷静な男はモテるらしいので、そう簡単に感情を表に出しやしないぜ。


「な、何を言うのかね……!」


 ダメだった。とんでもない勢いで声が上ずった。それと言葉遣いもおかしい。


 冷や汗が頬を撫でる。


 檸檬は盛大に舌うちをして、「やはりか……俺の手にレモンがなくて助かったな?」と低い声で言い、離れていった。


 やけにあっさりとした様子の檸檬に俺は嫌な予感を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ