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第4章 3つ首の竜 1

 今回から第4章となります。

 と言っても何か大きく変わる訳ではなく、前回からの続きとなりなす。


2025年11月19日

細かい修正を行いました。

 「いい?さっき決めたやり方のノックの音以外で誰かがこの部屋に入ろうとしても、扉を開けちゃ絶対にだめよ?例えあたし達の誰かが外から声を掛けてきたとしてもね。」

 「分かった。」

 心配するように念押しするルカに、あたしは大きく頷いた。

 「危険を感じたら窓から逃げるのよ。ここは2階だけど、あなたならどうにかなるでしょ?」

 「まあね。」

 クリスタも心配そうに言ってくれる。

 「使い魔のジョージを預けておくから、何かあったら連絡して。」

 「ありがとう。」

 カミラが使い魔のネズミのジョージをあたしに手渡しながら言う。

 「グスタフ叔父さんにも、あたい達以外の誰かが来ても2階には誰も居ないって答えるよう、キツく言っておくから。」

 「それなら安心ね。」

 知り合ったばかりのレジーナまであたしに気を遣ってくれた。

 4人は再度心配そうな表情で顔を見合わせたが、ルカが半分自分自身に言い聞かせる様に言う。

 「ここでグズグズしても仕方ないから予定通り動きましょう。それじゃあ、ゾラ、留守番お願いね。」

 「うん、分かった。皆、宜しくね。」

 4人は心配そうにしながらもダイニングを出て行く。

 事前にルカ達と相談した通り、あたしはダイニングテーブルを扉に密着する様に移動させて内開きの扉が開かないようにすると、椅子に深く腰を下ろした。

 ルカとレジーナは装備が心許ないあたしの為に武器やその他新しい装備一式を買いに、クリスタとカミラは更なる情報を求めて冒険者ギルドに戻っていった。

 あたしの為に危険を冒してまで動いてくれて、『キルスティンズ・ガーディアンズ』の面々には本当に感謝しかない。

 だが一方で、『キルスティンズ・ガーディアンズ』の好意に甘えても良いのだろうか、という気持ちも浮かんでくる。

 彼女達の好意に甘えるという事は、彼女達をあたしの件に巻き込むのと同義だ。

 死線を共に乗り越えた仲間ではあるが、所詮あたしは短期間パーティに助っ人として参加しただけの人間に過ぎない。

 彼女達を巻き込まない為には今すぐここを出るべきという気もするが、それはそれで彼女達の厚意を裏切る事にもなる。

 そもそもジーヴァと再会した時点で彼女達とは別行動するべきだった気がするが、ジーヴァと再会した事で一度緊張の糸が切れてしまい、そこからズルズルと彼女達の厚意に引きずられて何も考えずに行動してしまった。

 何とも身勝手で、自分の事しか考えていないような気がして自己嫌悪に陥ってしまう。

 そこまで考えた所で思考が自己嫌悪のループに陥っている事に気づき、強引にでも思考を変えなければいけないと思う。

 独りになって考える時間が出来てしまうと、どうもネガティブな思考にばかり陥ってしまう。 

 あたしは立ち上がり、なるべく足音を立てないように気をつけつつ、気分転換出来る何かがないかとダイニングの中をうろつく。

 するとタンスの上に鏡が伏せた状態で置いてあった。

 ドワーフの男は髭モジャの外見から身だしなみに興味がないと思われがちだが、意外とそうでもない。

 あたしも昔ドワーフの男性とパーティを組んだ事があるが、彼も暇があると見ているこちらがウンザリするくらい、鏡とにらめっこしては小さな鋏で延々と髭を整えていた。

 この鏡も、あたしの部屋にあった物より明らかに上質な物っぽい。

 毎日、長時間この鏡の前で髭を整えているグスタフの姿を勝手に想像して、勝手にイラッとする。

 それから、自分の男装メイクがどうなっているのか気になっていたあたしは鏡を覗き込む。

 眉墨で描いた口髭は、右側が半分以上滲んで消えかけており、殆ど髭の体を成していなかった。

 あたしはポーチから簡易メイクセットを取り出して、みっともない髭の出来損ないを消す。

 髭を消す作業をしながら、こんなレベルの低い男装にレジーナが見事に引っ掛かった事を思い出す。

 ちょっと天然っぽい所もあるし、余計なお世話と分かってはいても彼女の事が少し心配になる。

 それとは対照的に、クリスタとカミラはあたしの男装について完全に見て見ぬ振りをしていたな。

 恐らく彼女達なりの優しさが理由だろうが、今改めて思い返すと彼女達に気を遣わせた事が逆に恥ずかしくなり、むしろルカのように容赦なく弄ってくれた方が精神的に楽だったかもしれない、などと勝手な事を思う。

 描いた髭を消した後は、魔剣を抜いて何か分からないか調べてみたり、義肢の故障箇所を調べてみたりしていたが、あたし自身集中力を欠いていた事もあり、何の成果も無かった。

 そうこうしている内に、ルカ達と事前に決めていたノックの音がする。

 緊張感が緩む様な間抜けなリズムのノックの音だったが、あたしは用心しつつ閂代わりのダイニングテーブルをずらし、扉を少しだけ開ける。

 隙間から奥を覗くと、罠という事もなく大きな荷物を背負ったレジーナと、小さな荷物を持ったルカの姿があった。

 近所で買い物を済ませたにしてもかなり早い帰還で、余程急いで買い物を済ませたのだろう。

 もしかして、長時間独りにするのが心配になるくらい、ルカ達の目にもあたしが情緒不安定に見えたのかもしれない。

 あたしは改めてダイニングテーブルを移動させると、扉を開けて2人を招き入れた。

 「色々買ってきたよ。背負い袋にショート・ソード、スリングに鉛弾、保存食に盗賊道具と変装道具一式って所ね。」

 レジーナが少し高いテンションで買ってきた物をダイニングテーブルの上に広げる。

 「剣はショート・ソードで良かったの?前はバスタード・ソードを使っていたわよね?」

 ルカが心配そうに訊いてくる。

 武器にショート・ソードを希望したのはあたし自身だ。

 「まあ、右腕の義肢もいつ直るか分からないから片手で剣を振るわなきゃいけないし、ただでさえ嵩張ってしまう使えない魔剣も持ち歩く事を考えれば、携行性の意味でもショート・ソードがベストかな?」

 「威力的には大丈夫なの?」

 今度はレジーナが訊いてきた。

 「当分、街から出る予定は無いからね。街中で遭遇する敵の中で、ショート・ソードで貫けない様な装甲を持つのは、レジーナみたいに重装鎧を着込んだ相手くらいでしょ?そういう相手からは逃げるから大丈夫。」

 「確かにゾラの逃げ足なら重装鎧を着た相手なら余裕で逃げ切れるでしょうけど……。ただゾラの逃げ足も包囲されたら意味無いからね。」

 ルカが釘を刺すように言う。

 口調こそキツイが、心配してくれているのは分かるので有り難い。

 「まあ、この剣はいざという時の保険だと思って暫くは逃げに徹するし。」

 あたしの言葉にルカは更に何か言いたげだったが、特にそれ以上は言及せずにスリングと鉛玉の入った袋を示す。

 「あと、頼まれなかったけど、スリングと鉛玉も買ってきたわ。大きな種族の人達はスリングを馬鹿にしがちだけど、ハーフキンのあたしにとっては投石と並んで馴染みのある遠距離攻撃法なの。弓より嵩張らないし、片手で発射出来る。街中では充分役に立つはずよ。」

 自信有り気に勧めるルカに、あたしはちょっと困った。

 あたしもルカがスリングを使っているのを見た事あるし、威力も携行性も申し分ないのも確かなのも分かる。

 だが彼女にとって馴染み深過ぎる武器故か、逆に彼女は大事な事を失念していた。

 「ええと……。確かに発射は片手で出来ると思うけど、装填は片手じゃ無理かな?」

 「あっ……!」

 少し躊躇してから発したあたしの言葉に、いつも冷静なルカの顔がみるみる赤らんできた。

 不謹慎ではあるが、ちょっと可愛く感じてしまう。

 「まあ、頑張って訓練すれば片手で装填出来る様になるかもしれないし、義肢が直った後ならば、ルカの言う通り街中では弓より使い勝手が良いような気もするから有り難く頂いておくよ。」

 「……うん。そうしてくれると嬉しい。」

 あたしのわざとらしいフォローに、恥ずかしそうにしつつもルカは律儀に反応してくれた。

 「そうそう、盗賊道具と変装道具はあたいもルカも専門外だからどういうのが良いのか分からなかったんだけど、これで良かった?」

 レジーナが何事も無かったように口を挟んできたので、微妙だったあたしとルカの間の空気が緩む。

 「充分よ。クリスタ達が戻って来るまでまだ時間があるだろうし、今の内にまた変装しておくわ。そこの鏡借りて良い?」

 「良いよ。鏡もグスタフ叔父さんに使われるより、ゾラに使われた方が嬉しいでしょ。」

 意外とレジーナも毒舌な所があるな。

 ルカ達と話した事であたしの気も紛れたらしく、少し落ち着いたあたしは男装メイクに集中する事が出来た。

 ルカはその間、ジーヴァを可愛がったりノエルに話しかけたりであたしのメイクには大して興味なさそうだったが、意外な事にレジーナが熱心に変装の過程を見守り続け、更にいくつか質問もしてきた。

 早く慣れるよう常にプレートメイルを身に着けている為か今は化粧っ気が無いが、質問の内容からして結構メイクには詳しい事が窺えたのも意外だった。

 男装メイクが完成すると、レジーナはこちらが照れる程、手放しで褒めてくれた。

 それはそれで嬉しいが、褒められ慣れていないあたしには『さっきよりは随分マシ』というルカ程度の褒め言葉の方が素直に受け入れられる。

 男装メイクが終わってもクリスタ達は帰ってこなかった。

 あたしはルカ達が買ってきた荷物を義肢と共に背負い袋に詰め、腰に短剣を佩いてマントも羽織り、何時でも出発出来るよう準備を整える。

 結局、クリスタ達が戻ってきたのはとっぷりと日が落ちてからだった。

 「お帰り。随分と時間がかかったわね。」

 「その代わり、ある程度の情報は仕入れてきたわよ。下でグスタフが、今から夕飯を運んで来るって言ってたから話はそれを食べてからにしましょう。」

 出迎えたルカに、クリスタが答えた。

 クリスタ達がマントを脱いで椅子に腰を下ろした直後に、グスタフが夕食の載ったトレーを持ってやってきた。

 やけに早いと思ったら、数時間前に食べた『軽食』と全く同じメニューだった。

 違うのは、量が3倍近い事だ。

 代わり映えしない料理と明らかに多すぎる量にルカとクリスタが文句を言うが、グスタフは涼しい顔で階下に戻っていった。

 文句を言いつつも、皆がそれぞれ好き勝手に大鍋から自分の皿にシチューをよそっていく。

 相変わらず、人参やじゃが芋のカットの仕方が大き過ぎて食べづらい。

 一口二口食べてから、クリスタが報告を始める。

 「まず最初に言っておくわね。ギルドはゾラの首に賞金をかけた。賞金は金貨30枚よ。」

 クリスタの言葉に、緩んでいだ雰囲気が一気に重くなる。

 「ゾラにかけるには、安い賞金よね。」

 クールな容貌に反して気を使いすぎる傾向のあるカミラが冗談を言うが、内容といいタイミングといい完全に外してしまい、気まずい沈黙が訪れる。

 だが、クールビューティ然とした容姿のカミラが、冗談が滑った上に、その事であからさまに狼狽えてしまった事があたしの中で妙にハマってしまい、あたしはつい小さく吹いてしまった。

 そこで他の面々も、多少失笑じみてはいたがまばらに笑い出だし、再び雰囲気が少しだけ緩む。

 「ちなみにあたしの罪状は?」

 「衛兵ベクターと衛兵シェールに対する暴行と傷害よ。」

 「公僕に害をなした犯人の賞金にしては、金貨30枚は確かに安いかも。」

 あたしは少し考えつつ言う。

 同じ罪状でも被害者が公僕の場合、刑にしても賞金にしても一般人が被害者の場合の2倍になるのが相場だ。

 それに当てはめると、金貨60枚でもおかしくはない。

 ただ刑と違って賞金の場合、罪状だけでなく犯人確保の難易度も賞金額を大きく左右する。

 あたしを捕まえる難易度が低く見積もられているとすれば、それはそれで妥当な額と言えなくもない。

 微妙に屈辱的ではあるが、賞金が低ければ狙われる確率も減る。

 だがクリスタは、そんなあたしの思考を読んだかのように言う。

 「確かに相場より低いかもしれないけど、それでもギルドの中であなたを捕らえる事を公言しながらイキっている連中もいたわよ。」

 「あたしも知ってる連中かな?」

 「多分知っていると思う。『スカーズ』ってパーティよ。」

 「ああ。」

 あたしは小さく溜め息を吐く。

 『スカーズ』はヒューマンの男3人とエルフの女1人のパーティで、顔中に堂々と呪紋を入れているという、突飛な外見をしている者が多い冒険者の中でも飛び抜けて尖った外見をしている事からも分かるように、かなりイケイケな連中だ。

 キャリアはあたしより大分短いが既にその力は準高レベルと言って良く、実力的にはあたしや『キルスティンズ・ガーディアンズ』よりも明らかに上だ。

 そして『スカーズ』の連中はあたしとの接点がほぼないにもかかわらず、あたしを毛嫌いしてきた。

 その理由は結構長い間あたしにとって謎だったが、ある日ギルドのロビーで彼らと擦れ違った際に、聞えよがしに『イカれたレズ女』と言われた事で全てを察した。

 以来、あたしの方でも彼らを無視する事に決めたのだが、困った事に彼らは決して冒険者達の間で鼻つまみ者という訳でもない。

 敵も多いが味方も多いというタイプで、彼らを慕う若手冒険者は結構多く、ちょっとした派閥を作っていた。

 彼らの主戦場は主にアビスだが、一方で腹芸は苦手らしく賞金稼ぎのような街中での冒険はそれ程得意ではないはずだ。

 それでも、派閥の若手に大規模な動員をかければ、あの連中でも結構な脅威になるかもしれない。

 「でもゾラの罪状について、懐疑的な冒険者達も少数ながらいるのよ。」

 「『ドリフトウッド』の人達は、ゾラを庇って『スカーズ』の連中と口論になっていたわね。」

 黙って考え込んだあたしを気遣うようなカミラの言葉を、クリスタが補足した。

 『ドリフトウッド』は南方大陸出身の男1人女3人の計4人のパーティで、彼らがこの街に流れ着いた直後に仲良くなった。

 出会った時は低レベルだった彼らだが、とっくの昔にあたしのレベル抜き、彼らも準高レベルといって良い実力を持つまでに成長した。

 それにもかかわらず、今でもあたしと親しく交流してくれる有り難い連中だ。

 それだけに、嬉しさよりも心配が先にくる。

 ただでさえ差別されがちな南方人であるのに加えて彼らには秘密があり、それがバレたら最低でも白い目で見られる事になるのを自覚している彼らは、今まで悪目立ちはしないよう慎重に行動してきたはずだ。

 まあ、秘密と言っても他人に害を与えるものではなく、どちらかと言えば偏見の対象になってしまう類のものだが、どちらにしても悪目立ちを避けてきた結果、彼らは実力を過小評価される傾向もあり、実力的には『スカーズ』とほぼ同等であろうが、他の冒険者への影響力という点では圧倒的に『スカーズ』の方が上だ。

 考え込むあたしを置いたまま、カミラとクリスタの話は続く。

 「まあ、あの人達がゾラの罪状に対して堂々と疑問を口にしたのは大きかったと思うわ。」

 「そうね。上手く表現出来なかったモヤモヤを、キチンと言葉にして腑に落としてくれた感じ。」

 2人の話に、レジーナが無邪気な声で割って入る。

 「ゾラは信用出来る人間だと、周りに訴えてくれたんだね!」

 レジーナの無邪気な声にあたしは不覚にも目頭が熱くなりかけたが、即座にクリスタがサバサバした口調で身も蓋もない事を言い出した。

 「いや、『ドリフトウッド』のリーダーのシウバが、ロビーでイキっている『スカーズ』に対して冷静な口調で言ったんだ。

 ゾラの実力的に、被害者とされるあの2人に手傷を負わせるのは難しいんじゃないかって。それで、『スカーズ』に煽られていた連中も冷静さを取り戻したみたいでさ。」

 クリスタの言葉にあたしは思わず鼻白んでしまったが、確かにレジーナのようにあたしの人柄云々を言うよりは遥かに説得力がある。

 あたしはキャリアが長いだけの万年低レベル冒険者として悪評が立っていたし、ベクターもシェールも1ヶ月程前に衛兵になるまではそれなりに名の売れた冒険者で、その実力が準高レベル〜高レベルである事も知れ渡っていた。

 1人だけなら不意打ちやマグレで何とか倒せても、2人共倒すのは難しいと考えるのが普通だろう。

 そういう意味では一見あたしを貶めるようなシウバの発言は、あたしの罪状への疑義を生じさせ、ひいてはあたしへの追求を弱めるファインプレーと言える。

 「まあ、事実だから説得力はあるよね。」

 あたしが自虐混じりに苦笑すると、他の全員の視線があたしに集中する。

 事の経緯についてあたしは全員にザッと話したが、ベクターとの対決の詳細は濁した。

 ナギの事を秘密にするためだ。 

 だからこそ、『キルスティンズ・ガーディアンズ』の面々もどうやってあたしが手練れ2人から逃る事が出来たのか、気になっていたのだろう。

 あたしは作り笑いを浮かべつつ、なるべく軽い口調になるよう意識して言う。

 「皆、忘れているかもしれないけど、あたしはベクターやシェールと正面から戦って勝った訳じゃないよ。単に逃げる事が出来ただけ。そしてそれが可能だったのも、あり得ないくらい運が良かったってのが大きかった。それだけの話よ。」

 我ながら苦しい言い訳だったが、まず最初に笑みを浮かべたのは意外にもルカだった。

 「まあ、ゾラの逃げ足は一級品だからね。それで、ゾラに対する冒険者の反応は真っ二つって感じなの?」

 有り難い事に、ルカはこれ以上追求しない事を選んでくれたばかりか自然に話題も変えてくれた。

 これはあたしの言い訳に納得した訳ではなく、あたしに詳しく言えない事情があるのを承知の上で、あたしの言い訳を呑んんでくれたのだろう。

 そして、尊敬されているリーダーのルカの決断に他のメンバーも同意してくれたようで、クリスタもルカの質問に即座に答える。

 「真っ二つというよりは、興味はあっても野次馬以上の関わりを持つつもりは無いというスタンスの者がほとんどみたいね。ゾラの敵になるにせよ味方になるにせよ、積極的にゾラの件に関わろうってのは極少数よ。」

 「それより、ヨハンナさんの件の方が注目されているわね。何せギルドのこれからに直結する話だし。」

 補足するカミラの言葉に再び場が緊張する。

 「その、ヨハンナの件について続報は入ったの?」

 あたしが恐る恐る尋ねると、カミラは首を振った。

 「ギルドからの公式の発表は、最初に出て以来新しいものは何も出ていないわ。新しい発表があるかもって粘っていたからこそ、帰るのがこんな遅くなってしまったんだけど。」

 「その代わり、噂はかなり流れていたわね。」

 ちょっと意地の悪い笑みを浮かべるクリスタに、ルカがウンザリしたような口調で答える。

 「そりゃまあ、これだけの大事なのに具体的な情報がないとなれば、皆勝手な憶測を言うし、好き勝手に噂だって流すわよ。」

 「それが、単なる噂にしてはやけに内容が具体的なのよね。無論単なる噂の可能性もあるけど、あたしの見る所、誰かが意図的にリークした情報が噂の元になった可能性も高い気がする。」

 クリスタの発言にルカの表情が険しくなり、視線をカミラに移す。

 カミラが黙って頷いたのを見て、ルカは視線をクリスタに戻した。

 「話して。」

 「まずヨハンナさんについての噂だけど、執務中に自室で倒れたらしいわ。その後、治療を受けて自宅に戻されたって所までは共通しているけど、倒れた原因とか今現在の容態については皆言ってる事がバラバラね。」

 ヨハンナは確か、金持ち御用達の高級集合住宅の一室を借りて一人暮らししていたはず。

 ヨハンナはいつでも遊びに来て良いと言ってくれたが、いかにも金持ち然とした建物と部屋、そしてセレブな雰囲気の近所の住人達に気後れしたあたしは、数回しか彼女の部屋を訪れた事はなかったが。

 通いのメイドがいたはずだが、夜は独りになるはずだし大丈夫だろうか?

 クリスタはチラリとあたしの方を見たが、構わずに話を続ける。

 「それで、ヨハンナ様が倒れてバタバタしている最中に、今度はギルド長の元にメッツァーが取り巻きを大勢引き連れてやって来て、ヨハンナ様の解任を迫ったらしいわ。」

 「解任を迫ったのって、健康上の理由でヨハンナさんが副ギルド長の職務を遂行出来ないから?」

 ルカの質問に、クリスタは再びあたしをチラリと見ると、一度大きく息を吸ってから言う。

 「いいえ、身内の不祥事を理由に挙げていたらしいわ。……あくまでも噂の話だけどね。」

 クリスタはハッキリとした口調で言ってから、ちょっと申し訳無さそうに付け加える。

 身内の不祥事とはつまり、あたしが賞金首になった件か。

 「それで実際に解任されたって事は、ギルド長がメッツァーの要求を呑んだって事よね。あのギルド長にしては意外、というか弱腰よね。」

 レジーナが少し憤慨したように言うが、もしかしたらあたしに気を遣っての発言なのかもしれない。

 「もしかして、ヨハンナ様の後任の副ギルド長も噂になっていたりする?」

 ルカの質問に、クリスタが頷く。

 「そうね。名前は……何だっけ?」

 クリスタが言いかけ、困ったようにカミラを見る。

 「フェリポ。」

 「誰、それ?」

 あたしも知らない名前だったが、ルカも知らなかったらしく訊き返す。

 「あたし達も知らない名前だったから知り合いに色々聞いてみたけど、冒険者の中にも知っている人がいなくてね。受付嬢の1人を捕まえてようやく教えて貰った。ギルドの上級職員の1人で、メッツァーの腰巾着の1人らしいわ。」

 「メッツァー自身が旧守派の腰巾着なのに、更にその腰巾着か。」

 可愛い顔して、ルカが相変わらずの毒舌を吐く。

 「まあ、あたし達以上に受付嬢を始めとするギルド職員達が大変っぽいけどね。外野から見ただけでもかなり混乱していたし、これから派閥争いも今以上に激しくなるでしょうしね。」

 カミラが同情を込めて言った。

 確かにギルド職員の場合、誰の下に付くかが出世に直結するので、派閥争いは冒険者の比ではないだろう。

 もしかして、ヨハンナに重用されていたエレノアもチーフの座を追われるのだろうか?

 「確かに嘘か本当かは置いておいて、噂にしては内容が具体的ね。リークの可能性は高いと思う。」

 「でしょう?」

 ルカの言葉で、クリスタが微妙にドヤ顔になる。

 「そしてリーク行為が事実なら、噂が流れる早さからしても一連の出来事は前もって準備されてきた可能性が高いわね。そうなると、これは一種のクーデターと言っていいかもしれない。」

 ルカは言い切ってからあたしを見る。

 「ゾラも、この一連の流れの中で嵌められたんだと思う。」

 ルカの推測が合っているのかは分からないが、彼女がそう断言してくれたのは嬉しかった。

 「ありがとう。」

 あたしがお礼を言うと、皆程度の差こそはあれ皆の表情が生暖かいものになった。

 その緩みかけた雰囲気を再び引き締める様にルカが一度咳払いをしてから言う。

 「今考えてみれば、前々から兆候はあったような気はする。一時は下火になってたのに、最近急に冒険者にパトロンがつく事案が増えてきたのもそれかもしれない。」

 「そうなの?」

 この前のエレノアとの話でも同じ話題が出たが、この辺の事情については本当に疎い。

 まあ、ヨハンナの姉という立場的にも、あたしの実力的にも、旧守派の連中があたしを勧誘する理由は乏しく、そうなればあたしの方から積極的に情報収集しないと何も知り得ない状況だったのは想像に難くない。

 ヘスラ火山への遠征やダリル達の依頼に集中していたという事もあって、冒険者間に流れるゴシップを仕入れていなかったのが、ここに来て仇になってしまった。

 「そうね。高レベルのパーティ程そういう勧誘が多くて、そういったパーティがパトロンの財力を背景に、より低レベルのパーティを舎弟化して派閥を作ったりって事も増えてきたみたいだしね。」

 ルカの言葉に、あたしはエレノアから聞いた『ホワイト・ドーン』の話を思い出す。

 細部は違うが、『ホワイト・ドーン』にパトロンがついた件も、このクーデターの準備の一環だったのだろうか?

 「実際、あたし達のパーティにも誘いはあったわ。あたし達みたいな中レベルになりたての、野心もあまり感じられないような緩いパーティにまで声がかかるって事は、余程広く声を掛けているんでしょうね。まあ、断ったけど。」

 「断ったの?」

 訊き返したあたしに、クリスタが苦笑混じりに言う。

 「基本、あたし達はしがらみとかが嫌で冒険者をやってる連中の集まりだからね。でも、上昇志向の強い連中程派閥には入るでしょうね。」

 「なるほど。」

 あたしが頷くと、レジーナがボソリと言った。

 「そういう動きが行き着くと、冒険者同士で戦うって事もあり得るのかな?」

 レジーナの質問に、あたし達は黙り込む。

 暫くして、ルカが口を開いた。

 「当面はそこまではいかないでしょうね。メッツァーの狙いとしては、冒険者の支持者を増やして自らの政治力を高める事でギルド長に圧力をかける事だと思う。ただ、こうした政治抗争がチキンレース化して、矛を収めるタイミングを見誤ったりしたら、そういう事態もないとは言えない。」

 そう言ってからルカは一つ咳払いをして、皆に向き直る。

 「さて、ここで1つ皆の意識を確認しておきたい。大事な事だから自分の意思を嘘偽り無く表明して欲しい。その結果、パーティが分裂、解散してもそれはそれで仕方ないし、あたしはその結果を受け入れる覚悟はあります。」

 そう言うと、ルカはゆっくりとパーティメンバーを見渡す。

 「1つはギルド長派とメッツァー派にギルドが分かれた場合、どちらかに付くか、あるいはどちらにも付かずに中立を保つか。2つ目は、ゾラの扱いについてどうするか。意思が決まった人から発言して。」

 「はい。」

 間髪置かずにいきなりクリスタが挙手した。

 「1つ目については可能な限り中立で、どちらかに付かねばならなくなったらギルド長かな。ゾラについては言うまでもない。全力でバックアップします。」

 そう言って、クリスタはあたしに向けて冗談めかした感じでウインクする。

 続いてカミラが手を挙げた。

 「メッツァーに付く事はあり得ないので、あたしも消極的にギルド長支持かな。ゾラについてはクリスタと完全に同意見です。」

 「じゃあ、次はあたしだね。メッツァーがあり得ないってカミラの意見には同意するけど、ギルド長が何を考えているかが今一つ分からないんだよね。だから出来れば中立がいい。ゾラについては、皆と同じ。」

 最後のレジーナまで、3人続けて間髪入れずに発言したので、ルカが溜め息を吐いた。

 「せっかく考える時間をあげたのに皆即決してしまって、本当にそれでいいの?特にゾラを庇う事について、本当にそのリスクまで考えて発言しているの?」

 真面目な表情で話すルカに、クリスタが笑いかける。

 「じゃあもし、あたしがゾラをメッツァー達に引き渡すって言ってたらルカはどうしたの?」

 「ぶっ飛ばす。」

 真面目な顔で即答したルカに対し、皆少し失笑気味に笑い出し、一拍遅れてルカもニヤッっと笑う。

 彼女達が自分達の意思統一を果たすと同時に、あたしの気を紛らわせようとしている事は明らかだった。

 あたしは立ち上がると、改めて頭を下げる。

 「皆には迷惑をかけます。ここは厚意に甘えさせて貰います。ありがとう。」

 「いいって。後でタップリお礼を貰う気満々だし。」

 クリスタが冗談めかして言ってくれたのが、あたしにとっては有難かった。

 「それに、ゾラを助けるのは全くの善意だけって訳じゃないの。」

 ルカはパーティメンバーを見渡し、一呼吸置いてから言う。

 「クリスタ達は、今のギルド長はメッツァー達より幾らかマシ程度にしか考えていないみたいだけど、あたしの意見はちょっと違うのよね。」

 「そうなの?」

 クリスタが首を傾げる。

 「皆、若いから今のギルド長以前のギルドを知らないでしょ?前のギルド長時代から冒険者をやっているのは多分、あたしとゾラくらいよね?」

 「まあね。」

 あたしは頷くが、実はあたしが冒険者になったのは前のギルド長どころか4代くらい前だった気がする。

 「今のギルド長になってから、本当にギルドの風通しが良くなったのよ。だから今のギルド長であるソニア様には思い入れもあるし、信用したい気持ちもある。ただ、これはあたしの個人的な思い入れだから、皆に強制するつもりはないわ。ただ、メッツァー一派の企みが成功すれば、ギルドは以前のように、金持ち達の下請けになる可能性が高いって事だけは覚えておいて。」

 そう言ってからルカはあたしに向き直る。

 「あたしがゾラを助けるのは、ゾラを友達と思っているって事もあるけど、それが結果的にメッツァー一派の企みを妨害する事になるっていう理由も大きいのよ。だから、ゾラは過剰に恩を感じる必要もないし、恩に感じるなら何としても捕まらないで欲しい。」

 そう言うと、ルカはグッと左拳を突き出す。

 「責任重大ね。でも、分かった。」

 あたしは照れ隠しに苦笑を浮かべつつ、ルカに向けて左拳を突き出し、軽く拳を合わせた。

 ルカは一瞬だけ表情を緩めてから、真面目な表情に戻る。

 「それで、これからどうする予定?やっぱりスラムに潜伏するの?ゾラが望むなら、グスタフに頼んでここに居させて貰う事も出来るけど?」

 「グスタフ叔父さんは頼りなさそうに見えるかもしれないけど、口は固いし信用出来るよ。」

 レジーナが、ちょっとだけ自慢気に口を挟む。

 あたしはレジーナに柔らかく微笑みかけた。

 「気持ちは有り難いけど、ここはギルド本部から近すぎるし、やっぱり面識のない人は極力巻き込みたくはない。気持ちだけ貰っておくよ。」

 「まあ、スラムはこの街で唯一ギルドの影響力が及ばない場所だしね。でも、別の危険も多いわよ。」

 「そこは割り切るしかない。」

 心配気なカミラに、あたしは作り笑いを浮かべつつ断言する。

 「伝手はあるの?」

 「いくつかね。伊達に長く冒険者はしてないって。」

 あたしはそう言ったが、実は半分以上ハッタリだ。

 治安が極度に悪いスラムは極力避けてきたので、信用出来そうな伝手は数える程しかない。

 その伝手も、信用出来るのはあたしに現金が残っている間だけだ。

 だが、これ以上ルカ達に迷惑や心配をかけるのは流石に気が引けた。

 「じゃあ、そこは突っ込まないでおく。後は、どうやって目立たずにスラムまで行くかだけど、この周辺の警備はどうなっていた?」

 「衛兵の数は普段と特に変わらない感じね。多分、上がゴタゴタしている分、普段より動きが鈍い可能性すらあるわ。ただ、賞金目当ての冒険者達の動きは読めないわね。」

 「冒険者の中には、時々セオリー無視の非常識な行動取る奴らがいるしねぇ。特に普段はアビス専門で街中での冒険には慣れていない連中とか。」

 クリスタの言葉にカミラが溜め息混じりに同調する。

 昔、その手の冒険者とトラブった経験でもあるのだろうか?

 「そういう連中については出たとこ勝負で対処するしかないよ。考えてもきりがないし。」

 クリスタがカミラの言葉に脳筋な返答をするが、意外にもルカがそれに同調した。

 「そうね。じゃあ、衛兵の体制が整っていない今の内に移動するのがいいかもね。ゾラ自身は変装で外見を幾らでも誤魔化せるけど、ジーヴァの銀色の毛皮は目立から、その意味でも夜の間に移動するのが良いと思う。」

 ルカの言葉に頷いてからあたしはふと気付く。

 「ルカ達は、ジーヴァと一緒の所を見られているのよね?」

 もし見られていたら、あたしとルカ達が繋がっている事が容易にバレてしまう。

 「それは大丈夫。あたし達は人気の無い部屋でエレノアにジーヴァと引き合わされたし、ジーヴァを連れてギルドから出た所も誰にも見られていない。……大丈夫よね、レジーナ?」

 言った後で、急に不安になったようにルカがレジーナを見る。

 そういえば情報収集をする時に、レジーナは腹芸が出来ないという理由で参加を見送られ、一人離れてジーヴァの世話をする事になったのだな。

 それからあたしと出会うまでの間に何があったのかはレジーナしか知らない事だ。

 「大丈夫。ゾラに会うまで誰にも見られていないし。」

 自信満々に断言するレジーナを見ても少し不安そうなルカだったが、直ぐに気持ちを切り替えたようだ。

 「だから、あたし達については大丈夫。ただ、ジーヴァがどのようにしてギルドで保護されて、エレノアが預かっていたのかその経緯はあたし達には分からないわ。」

 何だかまたエレノアに迷惑をかけている気がする。

 いや、迷惑というレベルで済んでいれば良いが、今のあたしには確かめる術もない。

 色々な人に迷惑をかけてしまっているが、今のあたしにはその相手に謝罪する事も感謝する事も出来ない。

 逃亡者であるという現状を再確認してしまったあたしは、これ以上『キルスティンズ・ガーディアンズ』に迷惑を掛ける事が急に恐ろしくなって、ここに滞在する事が今以上に申し訳なく感じてしまった。

 「じゃあ、あたしそろそろ行くね。皆、本当に世話になったわ。このお礼は必ずするから。」

 「待って。」

 少し早口になったあたしを制し、ルカは革袋を差し出す。

 「これも持って行って。」

 あたしはそれを受け取って中身を覗いてみると、金貨が詰まっていた。

 「いや、流石にここまでしてもらう訳には。」

 返そうとするあたしに、ルカはニヤッっと笑ってみせた。

 「何か誤解しているみたいだけど、あげるとは言ってないわよ。貸すだけ。」

 「ちゃんと幾ら貸したか記録も付けておくし。」

 「遅くなると利子が膨らむから、なるべく早く返してね。」

 ルカに続いてクリスタとカミラも悪ノリ気味に続いた。

 湿っぽくならない雰囲気にしてくれたのは本当に有り難い。

 「分かった。利子とか払いたくないから、速攻で返すわ。」

 「いや、利子はタップリ欲しいからゆっくりでいいって。」

 あたしの冗談にレジーナが真面目くさった顔で応えてくれた。

 金貨の一部を、革鎧や服の隠しポケットやブーツの中に忍ばせる作業をあたしが終えると、まずルカとレジーナが階下に降りていく。

 酒場に客として入って、そこで怪し気な奴が居ないか確かめるのと、あたしが裏口からコッソリ出て行くのをグスタフに予め伝えておく為だ。

 一応キルスティンがあたし達の傍に残って、ルカが異変を感じれば伝えてくれる手筈になっている。

 一定時間が過ぎてもキルスティンが静かなままだったので、今度はカミラが降りていく。

 カミラは先に裏口から出て周囲を探索し、異変がないか調べてくれるそうだ。

 カミラも使い魔のネズミのジョージをクリスタに預けており、何かあれば知らせてくれる事になっている。

 暫くして、ジョージがキーキーと2回小さく鳴いた。

 これは予め決めておいた、異常無しの合図だ。

 「じゃあ、キルスティン、またね。」

 あたしは大きな山猫に声を掛けたが、彼女は相変わらず完全にあたしの事を無視して床の上に寝そべっていた。

 あたしとクリスタは苦笑を交わし合うと、ソロソロと傾斜な急で狭い階段を降りていく。

 裏口へ出るには厨房の中を通る必要があるらしいが、その時酒場の客席から見えてしまう可能性があるらしい。

 ただ、厨房の奥が一番見える席にはルカとレジーナが居座ってくれている筈だし、あたし自身も身を屈め、更にクリスタがあたしを隠すように動いてくれた。

 無事に裏口まで辿り着き、まずクリスタが扉を開け外を確認してからあたしを手招きする。

 この家に着いた時には小雨だったが、外を見るとかなり強い雨になっていた。

 一瞬気が萎えかけたが、身を隠しつつ移動するには却って好都合かもしれないと思い直す。

 意を決して外に出ようとすると、クリスタが無言のままハグしてきた。

 そして直ぐにあたしを解放すると、ニヤッっと笑いながらあたしの背中を力強く押してくれた。

 懐にノエルを抱えたあたしが外に出て、足元のジーヴァがそれに続く。

 その直後、裏口の扉が静かに閉まった。

 顔を上げると、少し離れた物陰にカミラが身を隠しつつ周囲を警戒している姿が目に入った。

 あたしは感謝の気持ちを込めて彼女を一瞥すると、強い雨の降る闇夜の中へと足を踏み出した。





 読んで下さりありがとうございます。

 次回の投稿は、諸事情により1ヶ月後ではなく、半月後の4月後半を予定しています。

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