巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
9.
“書く”ことを始めた美奈は、頭の中で構築されていた内容を一気に書き記す。いつの間にか、暗くなっていた。
「・・・・・・もう、暗くなってた。・・・・・右手が痛い」
今日はこれまでっ。と紙をトントンとまとめて、棚へ片づける。大きく伸びをすると、お腹が空いた。とリビングに出た。
「・・・・・自分で作るのめんどくさい。だからこその、土鍋での煮物しか作ってないのだけど。」
放っておけるのが一番いい。と台所に行こうとしたのだが。
カタン・・・・・。
外から音がして、美奈は火の魔法石が入ったランプを手にして、玄関に行った。
「な、なに? 何の音?」
おそるおそる引き戸を開けると、そこには、怪我をした大きな犬がいた。
「で、でかっ。大きいけど、犬、だよねぇ? ・・・・・と、とりあえず、中に入れて・・・・・」
大きな体をどうにか引きずって中に入れる。玄関を閉めると、美奈は大きな犬を見た。
「異世界だと、動物も規格外の大きさになるのかな?」
そんな訳あるか。と突っ込む人は誰もおらず。美奈は、汚れを取ろうとお風呂に向かう。その犬は、美奈の動きをジッと見ていた。
美奈が家から出て来たのを見たフェンリルは、その動きを見ていた。
「・・・・・・つ、疲れたぁっ」
〈は? 疲れたって。まだ、家から出てそんなに歩いていない・・・・〉
少しは坂道になっているが、そんなにすぐに息切れをするような坂でもなく。フェンリルは、いささか不安を覚える。
「も、もう、今日の散歩は終わりっ」
よたよたと戻って行く美奈を見て、フェンリルは唖然としていた。
〈・・・・だ、大丈夫なのか? この世界でひとりで暮らしていけるのか? 確かに、加護は得ているが・・・・・〉
大丈夫なのだろうかと、考えて歩いていると普段ではしない失態を犯した。
〈いっ・・・・・!! く、くそぉつ。こんなところに、人間が仕掛けた罠が・・・・!!〉
前足に刺さったウサギ捕り用の罠を、どうにか引きちぎり捨てる。前足は、鋭い刃に挟まれたせいか出血していた。
〈・・・・い、いかん。こ、このままでは、出血で死んでしまう・・・・・!!〉
そう悟ったフェンリルは無意識のうちに、美奈の家の前に倒れていた。
ぱたぱたと、奥の部屋からナニかの器を抱えて出て来た美奈が、フェンリルの前に座り、濡らしたタオルで血にまみれた脚を拭いていく。美奈の服は、フェンリルの血で赤く染まっていた。
「・・・・痛い? 痛くないわけないよね? ど、どうしよう。血が止まんないっ。このままだと・・・・」
どうしたら良いのか、考える。美奈は無意識に呟いていた。
「・・・・・でけっ。痛いの痛いの、飛んでいけっ。痛いの痛いの、どっかに飛んでいけっ。痛いの痛いの・・・・・・、飛んでいけっ。」
美奈の言葉に相するように、白い光がフェンリルの脚を包み込む。
〈・・・・・これは。・・・・・癒しの光!〉
血にまみれたタオルを洗い、何度も何度も拭いて言っていると、深く傷ついていた怪我が塞がった。
「・・・・・痛いの痛いの、とんでけっ。飛んでけっ。・・・・・・痛いの・・・・・。」
〈もう、大丈夫だ。傷は完全に塞がった。これ以上は、あなたの身体に障る故に。〉
フェンリルがその癒しの光を止めようと、話しかける。美奈は、きょとんとした顔をしていた。
「・・・・・もう、塞がった?」
〈塞がった。この通り、血も止まったし、怪我の痕もなくなった。〉
「・・・・・はぁ~~~。よ、良かったぁ。深い傷だったらどうしようかと思った。痛くもない?」
〈うむ。まったく〉
「そっか、それなら良かった。」
安心して、手にしていたタオルを洗面器に入れて、美奈はホッとして洗う。良かった、良かった。とタオルを洗っていた美奈だったが、ん? と気づいてフェンリルを見た。
「・・・・犬、もしかして犬と話せてる?」
〈もしかしなくても、話せている。そして、私は犬ではない。〉
ずささっ。思わず、後ろに下がってしまう。しかも、犬ではない。と云われてしまい。美奈は、じぃ~~。とフェンリルを見た。
「・・・・・なんで、話せてるの?」
〈それは、知らぬ。こっちこそ訊きたい〉
それもそうだ。と美奈は思い、もしかしてと自分のステータスを出す。
「ステータスオープンっ。」
眩い光とともに現れたステータスに、ある“言語レベル:無限大”と云うのを見る。その下には、注意事項が書いてあった。
言語レベル無限大:動植物であれば、会話可能。どんな言語でも、即翻訳して話せる。
「・・・・・・・・・・・・・・・。なに、この翻訳機能みたいなスキル。」
美奈がボソッと呟く。フェンリルは云った。
〈あまり、ステータスを出さない方が良いぞ。他人のは見えるものと見えないものがいるが。〉
「そ、そうだよねっ。・・・・ちなみに、見えてるの?」
〈多少は。しかし、動物は興味ないからな〉
「それもそうかぁ。」
と納得する美奈を見て、フェンリルは眼を細める。このままひとりにしていても、良いものだろうかと考えひとつ提案をした。
〈けがを治してくれたお礼に、ここであなたを護ろう。〉
「は? いやいや。そちらはそちらで、暮らしがあるでしょ。」
〈どうせ、日なが森でのんびりしているだけだ。〉
「のんびり!! 良いなぁ。私もこの際だからのんびりしたいのだけど、のんびりの仕方が解からなくって。」
フェンリルの前に正座をして、話す。なんか、人生相談しているみたい。と思いつつ、美奈はフェンリルとジッと見た。
「犬じゃなかったら、なに?」
その質問に、フェンリルはどうこたえるかを瞬時に考える。考えて、云った。
〈狼だ。体が同じ種族よりも大きくて、ひとりであるが。〉
「・・・・・そうなんだ。じゃあ、一緒に暮らしても問題ないのかな?」
〈ない、な〉
ハッキリと答えるフェンリルを見て、美奈はそれなら良いか。と一緒に暮らす方を選ぶ。
「じゃあ、一緒に暮らす? 私は、御厨 美奈。・・・・・あなたはなんて呼んだらいい?」
〈ふむ。特に名前はない。〉
答えるフェンリルに、美奈は少し考える。
「・・・・・・う~~ん。リル、でいい?」
〈〈・・・・・・・フェンリルとは知らないと思うのだが。まぁ・・・・・、良いか〉〉
フェンリルは、頷く。美奈は喜ぶと云った。
「んじゃ、お風呂に入ろうっ。脚は拭いたけど、体全体が汚れてるしっ。」
〈ふ、風呂だと!? い、いや。我れは・・・・・!!〉
「大丈夫だからっ。広くてそのまま入れるし。」
そういう問題ではないっ。とフェンリルは抵抗をしたのだが。
〈・・・・・・・・はぁ。ここは、天国かあ・・・・・・。〉
シャワーで体全部をまんべんなく洗われ、別に用意された大きさの浴槽に浸かる。フェンリルは、脱力していた。
「でしょ、でしょ。お風呂はどんな生き物でも、メロメロになるんだよっ。」
笑って云う美奈を見て、リルはこれはこれで良いだろう。と浴槽に頭を乗せた。




