巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
34.
美奈が眠った後、リルとドランとネコはラグに円陣を組んで座り、話し合う。
〈元々、このスペード公国には、オークは存在しない。〉
〈そうなのか? ・・・・・そう云えば、クローバー公国に続く山では見たことがあるが。〉
〈そうにゃにょにゃあ〉
〈その話し方はやめろ。キャットシー。気が抜ける。〉
〈そうだ。大体、気持ち悪い。〉
〈なんて言い草だ! ・・・・・・ととっ。スペード公国に多くいたのは、ベアー族や狼族と云った魔獣系だ。オーク族はベアー族と狼族に追われて、この公国から出て行ったと、キャットシーの史実書にある。〉
リルとドランが話すと、ネコも史実書の内容を思い出して云う。
〈・・・・となると、何者かが、オークをここまで転移させた。と云うことか。〉
〈しかも、狙いは美奈であった。恐らく、美奈だけを狙うように仕向けられたのではないだろうかと、考えられる。〉
〈美奈だけを・・・・・。〉
リルとドランが真剣になって話す中、ネコはベッドで眠る美奈を見て云った。
〈召喚された聖女は美奈だけではなく、もうひとりいると話していたよね。フェンリル王。〉
〈うむ。もうひとりは、第一皇子が囲っていると。美奈は、召喚された後、その場に放っておかれ、ロイ第二皇子が召喚のことを知り、美奈を保護した。と美奈から聴いている。〉
ネコが訊くと、リルは美奈から聴いたことを話す。
〈それは、もうひとりが、美奈の存在を疎ましく思って、オークをここにまで転移させたと云うことは考えられないか?〉
〈ありうるな。しかも、第一皇子はそのもうひとりに腑抜けにされているようだし。〉
〈ロイは来るたんびに、眼の下に酷いクマを買っているからなぁ~~。美奈もびっくりするぐらいに。〉
ケタケタと笑うネコを、リルとドランは呆れて見る。
〈しかし、それも事実故に。どうも云えぬが。そのもうひとりが、なにかしら噛んでいるのはあり得ることだ。少し、探ってみるか・・・・・。〉
リルはそう云うと、外へ意識を向けた。
王城の一室で、豪勢な天蓋付きのベッドが揺れていた。男女の乱れた呼吸や、みだらな音と声がかすかに聴こえてくる。外で警備にあたっている騎士兵たちは、毎晩の享楽にうんざりしていた。
「・・・・・一体、いつになったらやめて寝てくれんだろうか。」
「毎晩、毎晩。おさかんなのは構わないが。」
「良いもんか。これが原因で、夜の警備に立つのを嫌がるのが増えてんだぞ。本当に、ナニを考えていらっしゃるのか。第一皇子とあの聖女は。」
「お~~い。少しは声を抑えろよ? まぁ、俺もそう思うけどなぁ。」
外にまで聴こえてくる毎晩の行為の音に、騎士兵たちは本当に、呆れ果てて警護をするのもバカらしくなってきているのであった。
起きた美奈は、顔に思いっきりかぶさっているドランの羽根をどかし、身体を起こす。
「・・・・・・変な夢見たぁ・・・・・。毎晩、さかってるって・・・・・。動物の発情期じゃないんだから。いや待て、動物は発情期がある分、しっかりとその時に集中しているけど。ひとはいつでもどこでも、発情できるから、見境が無い?」
〈・・・・・なにを起きてすぐに云っているのだ。美奈。〉
リルも起きていたのか、美奈のひとりごとを耳にして、云ってくる。美奈はベッドから降りると云った。
「おはよう、リル。だってさぁ、なんか一緒に召喚されたひとが、あのくそ皇子と毎晩さかっているっていう夢を見てさぁ・・・・・。そういうのは、見たくないんですけど。」
ポリポリと頬を掻いて云う美奈を見上げて、リルも躯を起こし大きく伸びをする。
〈まぁ、ひとと云うのは、そういうことを繰り返して増やしているだろう。勿論、我らもそうだが。〉
「そうなんだろうけど。動物は、発情期っていう時期があるから。ひとは、年がら年中発情できるからねぇ。まぁ、私には全く関係ないけどっ。」
なにせ、彼氏いない歴が歳の数だけっ。とう~~ん、と身体を伸ばして云う美奈に、リルはなんだか憐れみの眼を向ける。
〈自分で云っていて、空しくはないのか〉
「真顔でそれを云わないでください。・・・・・さてっ、今日ものんびり、だんらりしましょうかっ。」
まだ寝ているドランとネコを見て笑い、美奈は着替える。リルも欠伸をすると、美奈とリビングへと出た。
テーブルに出て来たお茶を飲み、美奈は床で同じように水を飲んでいるリルと話をする。
「・・・・・・今夜は大丈夫かなぁ? 野菜を置きに行っても。」
〈この辺りに警戒を促した。それに、もともとオークはこの国にはいない。オークを見たらベアー族と狼族が見逃さない。〉
「それは、生息地域の場ってこと?」
〈そうだな。魔獣にも、それぞれに生息地域がある。スペード公国には、ベアー族と狼族といった魔獣が主に生息している。〉
「・・・・・森であったことないけど?」
パンを齧りながら、美奈が云うと、リルは顔を上げた。
〈美奈がここに居住を構えることになった時に、あのロイが相当量の魔力を費やして、浄化と結界を張っている。安全に、暮らして欲しいとの願いも込められているが。〉
リルの話を聴いて、美奈は本当にロイに保護されて良かった。と胸を撫で下ろす。
「そうなんだ・・・・・。次にロイとヤンさんが来たら、盛大にのんびりしてもらって、身体の疲れを癒してもらおう!」
と笑って云う美奈を見て、リルは、それも良いかもな。と出された食事を食べた。
のんびりできているのか、ちょっと書いていて自信が・・・・・・。




