巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
23.
厩舎に来た美奈とネコは、そこに寝ている大きな物体を見て唖然とする。リルは、美奈を見上げた。
〈あの赤い実を食べていた犯人だ。どうやら、食べすぎて眠くなってここで寝ているようだな。〉
〈そ、そ、そ、そそそそそ・・・・っ。そんなことを、なんとも無いように云わんでくださいっっ。〉
思わず普通に話したネコにも気づかず。美奈は、中に入って行く。
〈あ、危ないっ。美奈っ。そいつに近寄ってはダメだっ。〉
ネコが慌てて止めに行こうとする。リルはのんびりとして云った。
〈大丈夫だ。寝ているからな。我が近づいても、全く起きる気配を見せなかったから。〉
と云って中に入るリルを見て、ネコはあんぐりと口を開ける。
〈それよりも、見ておくと良い。・・・・・起きるようだ〉
美奈が近くに行くと、気配に気づいたのかソレがゆっくりと眼を開ける。美奈の姿が眼に入ったのか、ソレは首を上げた。
〈人間・・・・・!! くそぉっ。まさか、ここまでこられるまで気づかぬとはっっ。〉
バサァッ と羽根を広げて脅しをかけるが、その後ろにいるフェンリルの姿を見て、羽根を抑える。〈・・・・・フェン・・・・。〉
〈美奈。そいつが、すべて食べていたのだが。どうする?〉
「リル・・・・。どうするって云われてもなぁ~~~。なんで、食べたかの理由にもよるけどね。」
度胸が据わっているのか、なんとも思っていないのか。美奈は、リルに振り返って云う。リルは、ふむ。と頷くと、ドラゴンの傍へと行くと云った。
〈美奈、これはドラゴンだ。どうやら、怪我をしてここまで飛んできて、あの赤い実を食べたようだな。〉
「怪我をして? 一体、どこから?」
リルが云うと、美奈が眼を丸くして訊く。リルはドラゴンを見上げると、云った。
〈我が主が、どこから来たのかと訊いている。答えよ。〉
“我が主”と聴いて、ドラゴンは息を飲む。その後ろにいるキャットシーを見て、更に眼を見開いていた。
〈我が主・・・・? フェンリルが? 逆ではないのか?〉
〈その返答は追々に。で、どこから来たのだ。美奈が訊いている。答えろ。〉
リルが強く云い返すと、ドラゴンは答えた。
〈・・・・・クローバー国とダイヤ国を跨いである山からだ。なぜか、人間どもに攻撃を受けてしまい。どうにか逃げてきたら、甘い匂いがしてきたので降りた。〉
「地図を見せてもらったことあるけど。そんな遠くからよくここまで飛んでこられたよね。しかも、怪我をしていたんでしょ?」
美奈が云うと、ドラゴンはふんっ。と顔をそむける。リルはそんなドラゴンを見てから、美奈に云った。〈赤い実を食べて、どうやら躯に残っていた怪我はすべて治っているようだ。魔力も回復しているようだが。あまりの心地よさに、ここで寝てしまっていたようだな。・・・・・で、どうする?〉
「どうするもなにも・・・・。外に出たとしても、また攻撃されるかもしれないし。もしかしたら、まだ治っていない怪我もあるかもしれないし。躯が完全に治るまで、いても良いよ。」
美奈の返事を聴いて、リルはそうなると思っていた。と笑う。ドラゴンは、まったく理解できないと。眼を丸くして美奈を見降ろしていた。
〈信じられないにゃっ。相手はドラゴンにゃっ。魔物の中でも一番に危ないにゃっ。〉
ネコが憤慨しながら云う。美奈は、少し困ったような顔をしてネコを見ると、視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「ん~~~。ネコには危なく感じるのかもしれないけど。私がいた世界では、ドラゴンとか架空の動物だったし。そう怖いとは思わないだよね。ここに、いるひと達には脅威かもしれないけどさぁ。怪我をして休んでいるんだし。休める場所があるなら、休ませてあげるのが一番でしょ。」
〈・・・・・そうだけどにゃあ・・・・・。〉
「ネコだって。怪我をしたりとかした時は、ゆっくり休みたいでしょ。」
〈・・・・・・・・・はい、にゃあ・・・・・。〉
「じゃあ。もう云わない。それに、ここにずっといるかどうかは解からないしね。さて、なにか実ってるかもしれないし。菜園に行ってみようっ。」
よしっと立ち上がり、美奈は造った菜園へと行く。ネコは、しょうがないなぁ・・・・。ととことことついて行った。
〈・・・・・ドラゴンよ。ここにいるのは美奈が許したから構わないが。そのままの大きさだと、他の者たちが驚くゆえに。魔力が戻っているのであれば、躯を小さくした方が良いぞ。〉
リルの話を聴いて、ドラゴンは閉じていた眼を開ける。
〈・・・・・・あの、人間。正気か? フェンリルまで手なずけるとは。〉
〈美奈は我を手なずけてはおらぬ。・・・・・・聴いておらぬか? この国の第一皇子が、聖女召喚の儀を行ったと云うことを。〉
〈聖女召喚の儀・・・・。話しは届いていたが。本当に召喚したのか? どの国でも、召喚の儀は禁止されているのではなかったか。〉
〈そうなのだがな。この国の聖女はお役を免除され、座を去った。それで、聖女を教会が育てていたのだが。育つまで待てないと、第一皇子が行ったのだ。その時に、巻き添えを受けて召喚されたのが美奈だ。〉
〈巻き添え・・・・・。まさか、放り出したのか。〉
その話に、流石のドラゴンでも憤りを感じていて。リルは、頭を振った。
〈第二皇子が美奈の後見人になっている。この家と土地も、第二皇子が用意した。美奈が、ひとがいないところでのんびり暮らしたい。と望んだのでな。〉
リルが話すと、ドラゴンは溜め息を吐く。
〈アルフォード神はご存じであられるのか?〉
〈ご存じだ。我れに、美奈の護りを命じられた。〉
それでか、とドラゴンはまた眼を閉じ眠りについた。




