巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
22.
ソレは、赤い実を食べきりゆっくりと羽根を広げる。
【・・・・・とても、眠い・・・・・・。】
躯が癒えるために、睡眠を求めているようで。抗えないほどの睡魔と、居心地の良い雰囲気にソレの眼がだんだんと落ちてくる。
【こ、ここで寝る訳にはいかない・・・・・。ど、どこか・・・・・。】
休めるところがないかと、眠い眼をなんとか開けて、周りを見回す。
【・・・・・あそこが、良い・・・・・。】
見つけた厩舎に、ソレはひとたび飛ぶと、中に入り柔らかい藁の上に身体を横たわせた。
〈・・・・どうしよう。まさか、ドラゴンが来るなんて。〉
〈大きな怪我をしていたから、ナニもしないと思っていたけれど。〉
〈・・・・・フェンリル様にお伝えしないと。〉
〈もし、美奈が厩舎でドラゴンと鉢合わせしちゃったら・・・・・。〉
大変だ、大変だ。と妖精と精霊たちは、慌てふためいて飛び回る。その声が聴こえていたのか、リルは顔を上げると、腹を枕にして寝ている美奈を起こさないようにして躯を動かし、器用に扉を開けて外に出た。
〈どうしたのだ。ナニをそんなに騒いでいる。〉
〈フェンリル様! 大変ですっ。厩舎に、ドラゴンがっっ。〉
〈ドラゴンが? ・・・・・やはり、あの足跡はドラゴンであったか。しかし、なぜここに?〉
厩舎にいる。と云ってくる妖精たちに案内され、リルは美奈が造った厩舎へと行く。中からかすかに感じ取ることができる、魔力にリルは眉間にしわを寄せた。
〈この界隈には、ドラゴンはいなかったはずだが。怪我でもして、ここまで飛んできたのか。〉
厩舎の中に入り、ドラゴンが眠っている場所へと行く。柔らかい藁の上で丸まって寝ているドラゴンの状態を視て、リルは息を吐いた。
〈〈・・・・あの赤い実を食べたことで、躯の怪我が治り、魔力も回復しているのか。だからこそ、また食べに来た。と云ったところか。しかも、躯の怪我はすべて完治しているし。力も取り戻している。・・・・しかし、どこからも殺気も恐怖も感じないのは、おそらくこの雰囲気を感じて興がそげたのであろうな。ドラゴンにとってそれが良いことであるかは解からぬが・・・・・。きっと、ここに居たがるであろうな。〉〉
さて、どうしようか。とリルは考えるが、考えるのを止める。
〈・・・・・我が考え悩んでも仕方のないことよ。きっと、美奈のことだから。コヤツが居たいと望めば、笑ってここに好きなだけいれば良い。と云うであろうな。〉
リルの言葉は風に乗り、森にいる妖精や精霊たちに伝達のように伝えられる。居心地の良い場所を、誰もが求めてしまうのは当然のこと。それは、魔獣であろうが、妖精・精霊であろうが、神獣であろうが変わらぬ摂理。リルは、そっと厩舎から出ると、家へと戻った。
お昼も過ぎてからようやく起きた美奈は、大きく伸びをして置いてあった水を飲む。
「ふあああ~~~。良く寝たぁ~~。ここに来てから、ずっと寝てる気がする・・・・・。」
〈それだけ、以前の世界での疲れが残っていたのではないか?〉
「・・・・・う~~ん。あり得る。なにしろ、365日ずっと、家と会社の往復のみで、毎日満員電車に揺られて出勤して、終電間際まで仕事をして、ふらふらになりつつ家に帰ってはそのまま玄関で寝てるってこともあったしねぇ~~~~・・・・。」
〈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。〉
〈・・・・・・・・・・・・・・・お、恐ろしいにゃ・・・・・・。〉
一体、どんな世界だったのだ。とリルは絶句し、ネコはフルフルと震えて呟く。美奈は、ごめんごめん。と笑ってお盆を持ち立つ。
「この世界だとそういうのはなさそうだけど。でも、どこの世界でも摂政とか宰相とか、国の重鎮の位置にある人たちは、全員忙しいと思うけどね。」
ロイがそのいい見本。と云う美奈に、リルはここで寝てしまっていたロイを思い出す。
〈・・・・確かに。あやつの眼の下はとんでもないぐらいに、隈ができていたからな。〉
「でしょ? 休みも必要なんだけど。また、ロイに手紙でも贈らないといけなくなるようなことがあれば良いのだけど。そしたらさぁ、休めると思うんだよね。」
台所にお盆を置きに行き、洗い場に置くと使ったコップがすぐに洗われる。美奈はお礼を云うと、リビングに出た。
〈手紙を書く理由か。それなら、厩舎にあるぞ。〉
リルが、ふむ。と云うと、美奈とネコは、はい? と云う顔をしてリルを見た。




