巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
19.
湖まで歩くのは諦めた美奈が、大きな樹の下で休んでいると、そこかしこから話し声が聴こえて来て。美奈は、水筒を口にしながら聴こえてくる話し声に、耳を傾けていた。
『知ってる? ダイヤとの国境にドラゴンが現れたって。』
『知ってる、知ってる。みんな、逃げて来たって云ってたよ。』
『ドラゴンが来るなんて。ナニかダイヤでしたのかな? って、話しになってるよ。』
『こっちは安全だから、別に良いと思うけど。』
『そうだよねっ。だって、美奈がいるもん。危ないのは全部、どっか行っちゃってるもんね。』
『そうだよっ。それにしても、第一皇子はバカだよねぇ~~~。見かけだけでさぁ~~。』
『そうそうっ。それに比べて、第二皇子は、きっちりとしているよねっ。ちゃんと、美奈が希望した通りに用意したしっ。』
『アルフォード神様もとっても、感心していたよねっ。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
バササササッ・・・・・・・。
と飛び去って行く鳥たちを見て、美奈はリルを見る。リルは、ナニも聴いていないといった感じで欠伸をしていた。
「ドラゴン・・・・・・・。やっぱり、羽根つきで飛ぶのかな?」
〈美奈がいたところでは、ドラゴンはどのような姿かたちをしているのだ?〉
「ん~~~。まず、龍って呼んでる。水の神様とか、風の神様とかで。こんな感じで絵姿になってるよ。」
近くにあった木の枝を取り、覚えている範囲で龍の姿を描いていく。リルとネコはふむふむ。と見ていた。
〈・・・・・・にゃんきゃ、ちがうにゃあ~~。〉
〈そうだな。我らの世界のドラゴンとは、こういう姿かたちをしていて、種類も違う。〉
と、器用に爪で土に絵を描く。美奈は、眼を丸くして描かれていたドラゴンを見た。
「・・・・・・・怖そう。」
〈まぁ。この世界ではあまり良い感じはしないが。美奈の龍も大して変わらないとは思うのだが。〉
「そうかなぁ。私がいた世界では、神様として崇められていたし。こっちのドラゴンは、畏怖の対象になってそう。」
〈畏怖って、にゃんにゃあ?〉
「畏怖って云うのは、恐怖ってことだよ。でもさぁ、可愛いドラゴンもいると思うけど。」
〈・・・・・まぁ、ドラゴンの種類によるであろうな。〉
描いたドラゴンを消すリルを見て、美奈も描いた龍を消す。
「・・・・・・でもさぁ。そのドラゴンが、町とかを荒らしたりはしないよね?」
〈どうであろうな。云っておくが、ドラゴンもそれなりに美食家であるからな。ブクブクと脂ぎった貴族連中などは餌にもならん。と云っていたのを聴いたことがある。〉
「それって・・・・・。」
どこの世界でも、食は大事なんだねぇ。と、美奈は水筒にふたをした。
〈いや、確かに食は大事だが。・・・・・美奈のその感覚はどこか違うような気がしなくもない。〉
〈そうだにゃあ~~。食べるのは大事だけどにゃあ~~~。〉
リルとネコが云うと、美奈はいま口にした自分の言葉を思い出す。
「・・・・あ~~・・・・。確かに。でも、グルメな魔獣とか妖魔とかいそうだよねぇ~~~。」
笑って云う美奈を見て、リルとネコは周りを見回した。
さて、そろそろ戻ろうか。と美奈は立ち上がり、大きく伸びをする。
「ん~~~~・・・・・。空気がなんか来た時と違ってる感じがするのは、気のせいかなぁ? 元々、樹がいっぱいだし。空気も綺麗なんだろうけど。」
いや、それは違う。とリルとネコは思う。美奈がこの森の近くに来るまでは、森自体が臭気に耐え切れず枯れ果てていたところが多かった。だが、まだ4~5日しか経っていないのに、森から魔獣と妖魔が消え、空気が清浄され、樹々と草花が力を取り戻していた。
〈〈・・・・気づいていないとはいえ。癒しのステータスが、ナニもせずにとも発揮されているのだろうな〉〉
リルは大きく息を吐くと、歩き始めた美奈の横に行き並んだ。
〈帰って、のんびりするのか?〉
「うん。そのつもりだけど。そうだよっ。のんびりするんだいっっ。」
片腕を挙げて云う美奈を見て、リルとネコは果たしてのんびりできるのかを考えていた。




