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巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。

18.


アルフォード大国は、アルフォード神教会を中心にして、放射線状の円錐形で、4つの公国から成り立っている。その国境は、今日は教会への道となっており、大きな森林で分けられていた。その森にも、魔物や魔獣は住みついていて。4つの公国は常に兵を国境の杜へと派遣していた。そして、その魔物や魔獣を、その森から外へ出さないように、聖なる力を持って封をしているのが、各公国に在られる聖女であった。


スペード公国第2皇子ロイが率いる名を呈した、シトリン騎士団団長のハインツは、ロイに謁見を申し出、応接の間でロイが来るのを待っていた。聖女が召喚されたらしい。という話は、もう外に回っていて。少しでも早くの浄化を望んでいたのだが。ここ2~3日の間、見回りに出た誰もが、魔物や魔獣に遭遇することがなく。それどころか、いままで感じたことがないほどの、清らかな空気を感じていたのであった。

「・・・・・信じていただけるかは、解からないが・・・・・。」

だが、おかしなところもあり。ハインツはロイにどう報告をするかを、いまなお悩んでいた。

「召喚された聖女様は、第1皇子が保護していて、城の外には一度たりとも出ておられないし・・・・・。しかし・・・・・。」

ハインツが悩んでいると、扉が叩かれ、開かれた。

「すまない。待たせてしまったか。」

「いえ、ロイ殿下。急な謁見にお応えいただき、ありがとうございます。」

「構わない。ハインツは、国境付近の警備をしてくれているからね。森にナニかあったのか? 座ると良い」

椅子に座るロイを見て、ハインツも会釈をして座る。お茶を用意してきたヤンが、テーブルに置くのを見て、ハインツは口を開いた。

「実は、ここ最近。森にいたはずの魔物や魔獣の気配を、まったく感じ取ることがありません。それどころか、どことなく清浄な空気に包まれていると云いましょうか。騎士団の者たちも、不思議に思っておりまして・・・・・。」

「魔物や魔獣の気配を感じない? そんな馬鹿な。ダイヤ・ハート・クローバー3公国からは、魔物や魔獣からの攻撃は変わらず。と報告を受けている。なのに、わが国だけ?」

「・・・・・はい。3公国からの国境警備隊からも、同じような内容で情報を共有しておりますが。」

ロイはヤンを見る。

「なにか、森の近くで変わったことがあったのではないかと。我々は考えているのですが・・・・・。殿下は、なにかご存じであられますでしょうか?」

ハインツの問いに、ロイは考え込む。ここ2~3日で変わったことと云えば、ただ一つ。

「・・・・・美奈?」

「考えられることは、美奈さま以外に考えられませんが。・・・・・・ですが、美奈さまは特になにも鑑定できなかったと・・・・・。」

ロイとヤンが話す内容を聴き、ハインツはもしや。と思い至る。

「もしや・・・・。召喚された女性は2人いると。噂が聴こえてきていましたが。・・・・・まさか、そのうちのお一人を、森の近くに?」

ハインツが訊くと、ロイはソファに凭れると答えた。

「・・・・・美奈自身が、希望されてね。目立ちたくはない。と云っていたので、森にある王家の山小屋を提供した。もちろん、美奈が安全に住めるように周りはすべて浄化し、魔物も魔獣も近寄れないようにはしてある。」

「それ、は・・・・・。女性おひとりで、ですか? いくら、ご希望とは申されても、森の一軒家に?」

「それが。1日目にけがをした狼を保護されました。いまは、その狼と一緒に暮らしていらっしゃいます。」

ヤンがロイに代わり答える。ハインツは大きく眼を見開いた。


起きた美奈は、布団の上でへそ天で寝ているネコを見る。スピスピと寝ているネコを見てから、下を見るとリルが大きく伸びをして欠伸をしていた。

「・・・・・野生味が無くなってきてない?」

〈そんな訳あるか。野性味はたっぷりとあるぞ。〉

「そうかなぁ? まぁ、ネコは家猫とか安心しきってこんな感じになるだろうけど。リルは狼なのに。」

〈・・・・・・それは、美奈の偏見ではないのか?〉

リルが、くああ。と再び欠伸をして云う。美奈は、それもそうか。とベッドから出た。

洗面所で顔を洗い、着替えをして引き戸を開けリビングに出る。テーブルには朝食が出来上がっていた。

「・・・・・・朝ご飯できてる。」

〈一度、頼めばそのまま継続するのではないか? 我の分もあるようだし〉

「便利っっ。ありがとうっ。いただきますっ。」

台所に向かって礼を云い、手を合わせる美奈を見て、ステータスも喜んでいるようであった。

「うまっ。ベーコンの焼き具合も良いし。たまごも半熟と完焼の両方があってっ。申し訳ないけど、お城で出されていたご飯よりめっちゃくちゃに美味しいっ。」

んあ~~~っ。と頬張り喜んで完食していると、ネコが起きて来た。


水筒を用意して、斜めかけにするとリルとネコと一緒に外に出る。

「ん~~。良い天気っ。今日は歩けるところまで、で。」

〈歩けるところまでって。散歩と云うのはそう云うモノではないだろう。〉

「良いのっ。のんびりするからっ。のんびりするのっ。」

どういう意味なんだろう。と思いつつ、リルとネコは美奈について行った。

森の小道を歩きつつ、射してくる陽射しを感じる。美奈が歩くと、そこかしこから妖精や草花や木たちがこぞって話を始める。リルは、その神力で抑えていた。

〈〈フェンリル王。もう、みな話したくてしょうがないのでは?〉〉

〈〈そうなのだが。美奈自身が、己のステータスを理解していない状態で会わせるわけにはいかん〉〉

〈〈そうですけど。理解しますか?〉〉

〈〈・・・・・・便利なものとしか理解していないようだが。〉〉

ぼそぼそと話をして、リルとネコは溜め息を吐いた。

「そう云えば、さぁ。ロイがこの辺りは余り奥に行くと、魔物や魔獣に遭遇してしまうかもしれないから、行かないようにって、云われてたけど。そんなの、今日まで見たことないよね?」

美奈が云うと、リルとネコは美奈を見る。

〈・・・・・そうだな。普段であれば、オークやスネークやキメラやらと出て来ていたが〉

「ちょっと待ってください。いまなんか、聴こえましたけど?」

〈そうだにゃあ。キメラとか、ドラゴンとか、大キバイノシシとか出て来てたにゃあ~〉

「・・・・・・・・・・・・・・・・。暢気に云うなぁっっ。」

リルとネコが話すことを聴いて、美奈は頭を抱えて叫んだ。



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