巻き込まれて異世界に来てしまったけど、聖女とか関係ないのでのんびりします。
10.
先にお風呂から出て、リルの体を拭く。美奈は、リルの寝床をどうしようか考えていた。
「・・・・・寝るところはどうしようか。床にそのままって云うのはさすがに、ねぇ・・・・・」
〈我はどこでも休めるから、気にしなくてもいいぞ〉
「そうはいきませぇ~~ん。せっかく、一緒に暮らすのなら、どっちも快適なのがいいに決まってるからねっ。・・・・・そうだっ。確か、動物用のお布団なんかを見た記憶が・・・・・。」
と考え始めた美奈を、リルはじっと見ていたのだが。ピカッ、とお風呂に入る前に通った部屋が光ったのを見た。
「・・・・・・できちゃったかも。」
〈なにが?〉
リルが訊き返すと、美奈は、てへへ。とあいまいな笑いを返した。
プライベートルームに出ると、大きなペット用のお布団があり。美奈は手触りを確かめる。
「あ、これ。手触りがとっても良い。リル、ちょっと確かめてみて。」
おいで、おいで。と手招きをされて、リルはこれは一体。と云う顔をして傍に行く。が、前足を乗せると、その気持ちよさに体すべてを預けた。
〈・・・・・こ、これはっ。なんと、気持ちの良い・・・・・!!〉
良かった気にいってもらえた。と美奈はホッとしていた。
「あっ。そうだ。ロイに教えておかないと。確か、この紙に・・・・・。」
ペンを取り、ロイに連絡用にと渡されていた紙に、怪我をした狼を保護して一緒に暮らすことになりました。と書いて外に飛ばした。
その頃、王城ではロイが美奈の報告を受けていて。
「・・・・・狼と?」
「は、はい。申し訳ございません。まさか、狼が生息しているとは、我々の調査不足です。」
がたん、と執務の椅子を倒し、立ち上がる。ロイはいますぐにでも、美奈の家に行きたかった。そこに、美奈からの伝書紙が飛んで来て窓を叩く。コツコツと窓を叩く音を聴いて、ロイは振り返った。
「美奈に渡した伝書紙・・・・・。」
窓を開け、中に入れ手に取る。手紙に姿を変えて、書いてあることを読んだ。
「怪我をした狼を保護・・・・・。このことか。しかし・・・・。一緒に暮らすとはどういう!?」
これは、城で美奈の生活を見守っている場合ではない。と、ロイは明日のスケジュールをすべてキャンセルするように指示を出した。
翌日、美奈は起きるとパジャマから私服に着替えて、リビングに出る。まだ寝ているリルを起こさないようにして、美奈は動いていた。
「掃除終わりっ。朝ご飯どうしようか? 作るのがめんどくさいっ。誰か朝ご飯作ってっ。焼きトーストにチーズがとろ~~りと溶けてるチーズトーストっ。それに、目玉焼きっ。」
と云っていると、台所からとてもいい匂いがしてきて。まさか・・・・。と思い、美奈が台所を覗くと、お皿に言っていた品が、用意されていた。
「・・・・・・料理スキルなんてなかったけど?」
中に入り、テーブルにあるのを見て言う。もしかして、と美奈はステータスを呼び出した。
「ステータスオープンっっ。」
生活スキル/レベル無限大:生活に必要なスキル全般。掃除・洗濯・料理すべて、専用の物に命ずるだけで発揮。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか。」
美奈は、あんぐりと口を開けて、肩を落とした。
せっかく作ってくれたのだから。と美味しくいただいていると、リルが起きてくる。リルの朝ごはん。と思っていると、いつの間にか用意されていたリル用の器に、大量の肉が盛られて出て来た。
〈・・・・・・・・せめて焼いてくれ。美奈。〉
「生肉じゃないんだ? おはよう」
〈生肉も食べるが、焼いてくれた方が良い・・・・。おはよう? とは?〉
器を鼻で押しつつ、リルは答えて訊き返す。
「“おはよう”っていうのは、起きて来た時に言うの。私がいた世界での朝の挨拶だよ。焼くのは良いけど、焼き加減は?」
焼いてくれるのか。と、リルは顔を上げる。
〈中が少し赤いぐらいが良い。〉
「ミディアム、ね。・・・・んじゃ、よろしく。ミディアムにお肉を焼いてね。」
美奈が云うと、器が台所へと行く。リルはなにごとかと、ジッと見ていた。そのうちに、肉が焼ける匂いがしてきて。リルは、美奈を見ると云った。
〈・・・・・もしかしなくても、そういったスキルがついているのか。〉
「そうみたい。私もついさっき、知ったばっかりだから。」
料理苦手だから、とっても便利だし良い。と笑って云う美奈を見て、リルは暢気なものだ。と床に丸まった。
食事後も色々と動き回っている美奈を見て、リルは欠伸をして訊く。
〈のんびりすると云っていたが。まったく、のんびりしているようには見えんぞ。美奈。〉
リルの言葉に、美奈は動きを止め、リルの前に座る。
「・・・・・だよねぇ・・・・。のんびりしたいのだけど、のんびりの仕方が解かんないって云うか。・・・・・だってさぁっ、散々バブルで景気が良かったのにっ。ひとが卒業を迎える1年前にはじけちゃってさぁっ。超就職氷河期時代に突入だよ!? 高校生枠にどうにか引っかかって、働いて約20年以上っ。ずっと、家と会社の往復だけだったからっ。のんびりの仕方が解からないっっ。どうしたら良いと思う!?」
頭を抱えて本気で訴えてくる美奈を見て、リルはなんの話かさっぱり分からず。が、美奈の叫びはまだまだ続いた。
「それにさぁっ。給料も上がらないしっ。物価だけが上がってさぁっ。独身アラフォー女子には、生きにくいしさぁっ。顔を見るたびに、結婚はまだなの? とか、良い人はいないの? とか。良いひとを紹介しましょうか? とか! 余計なお世話だっつうのっ。こっちはこっちで、必死に生きてたんだよっ。なんでもかんでも、家庭持ちが有利な制度ばっかり・・・・・!!」
なんだか、とても美奈がいた世界と通じるものが、こちらにもあるのを聴き取り、リルは云った。
〈安心しろ。こちらの世界の人間どもも、似たようなものだ。男も女も、ひとりでいると似たようなことを云われているのを、聴いたことがある。〉
「ほんと!?」
〈う、うむ。〉
「そっか。そっか。どこの世界もおんなじなんだねっ。安心したよっ。さて、のんびりしようっ。」
〈こ、こらっ。〉
リルの体に自分の身体を預けてくる美奈に呆れながらも、まぁよいか。とリルも丸まった。




