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第五話 ギルド長

「ギルド長から、お昼にギルドに来るようにってメモをもらったミサですけど、何の用でしょうか?」


「ミサ様、お待ちしておりました。二階の応接室にご案内いたします」


 いつも気さくな受付のお姉さんが丁寧な物言いで、私を応接室に案内してくれた。初めて応接室に案内されたのでなんか緊張する。


 応接室には入ったものの、ソファに座って良いのかわからなかったので、ずっと立っていた。


 ギルド長が応接室に入って来た。


「ミサさん、どうぞお座りください」


「いえ、結構です。もし、調査隊に参加しろって言うことなら、お断りするつもりでここに来たので」


「明日からダンジョンを閉鎖します」


「えっ」


「なぜ、閉鎖なんですか? うちみたいな弱小パーティだとダンジョンを閉鎖されると、その日からご飯が食べられなくなります」


「その理由を説明しますので、どうぞお座りください」


 アタイは仕方なくソファに座った。受付のお姉さんがお茶を持って来てくれた。ギルド長はアタイの正面に座った。


「ダンジョンを閉鎖する理由ですが、例年と比較してダンジョンでの死亡者数が、今日までに例年の二倍になっています。そして死ななくても受傷した冒険者の人数は四倍です」


「ミサさんはなぜだかわりますか?」


「一階層から九階層までのモンスターが凶悪になったからだと聞きましたけど」


「凶悪になっています。しかも今までいなかったモンスターも出現しています。なのに、ドロップするアイテムが埴輪しかないのです。以前であれば金貨とかもドロップしたのに。今は埴輪のみです」


「稼ぎたい冒険者は、危険を承知で、初級、中級になりたての冒険者も、十階層に降りて行って死んだり、深手を負っています」


「それにこれまでその階層にはいなかったモンスターが現れた。牛が昨日八階層でも目撃されています」


「これは非常事態です。そう言うことで、ダンジョンが今どうなっているのか? そしてなぜこうなったのか、その原因がわかるまでダンジョンを閉鎖します」


「ギルドでは、調査隊を編成しています。隊長はソルド、副隊長はベンとアナキン。ソルドのパーティから二名、ベンとアナキンのパーティから各二名です」


「そしてあなたがいたパーティリーダーのロス、本来ならハンスもメンバーだったのですが、現在療養中で不参加で、合計十名の編成です」


 ロスが平隊員なのは、経験年数とパーティの規模のためだろうか? この編成を聞けば拒否するかもだ。


 アレはかなりプライドが高い。現状、十五階層まで到達したパーティメンバーばかりなので、他の冒険者から文句は出ない編成だとは思う。


「本音を言うと、私は、おそらく、誰も戻って来ないと思います。十九階層には人喰い鬼とゴブリンの大集落があるので、そこを抜くのはほぼ不可能です。ソルドは十九階層が死に場所になると覚悟してくれました」


「ええ、そんな死にに行くだけの調査隊っておかしいですよ」


「では、ギルドが何もせずに、国王陛下に軍隊の派遣をお願い出来ますか?」


「……」


 ギルドがまず率先してやらなければ、軍隊は動かせない。だからと言って、水準以下の冒険者を数合わせで送っても犠牲者が多くなるだけだし。でも、それって調査隊と言う名の捨て駒じゃないか。


 調査隊を捨て駒にして、軍隊の派兵を願い出るのがギルド長とソルドの親方の狙いか。おそらく、ロスを除いた全員が死を覚悟を決めての参加だろうな。


「しかし、ミサさんがこのメンバーに入れば、ミサさんだけは戻って来る可能性が高いと私は判断しています」


「……」


 アタイは支援魔法が専門で攻撃の専門家ではないのですが。


「でも、ギルド長はなぜ、十九階層に人喰い鬼とゴブリンがいるのを知っているのですか?」


「私ともう一人の男と若い頃、二十階層に潜ったからです。公式記録には載っていませんけど……」


「ミサさんが贔屓にしている酒場のマスターに一度相談してくれないでしょうか? 私としては彼が参加してくれればと実は思っているのですけど」


「少し考えさせてください……」


 アタイは応接室を出た。



「ギルド長が、マスターに参加してほしいですって」


「お断りです。二度とあんなところには行きたくないよ。あそこは地獄だよ。ギルド長が言うように誰も帰って来られないだろうね」


「ギルド長は、アタイなら戻って来れるかもって言っていたけど」


「ミサちゃんなら、生きて帰って来るかもだけど、数パーセントの確率しかないと思うよ」


「アタシたちが生きて帰って来れたのはエルフ様と出会えたから、そうじゃなければ、二十階層で死んでいたよ」


「二十階層にはエルフ様がいるの?」


「わからないよ。旅姿だったからたまたまの可能性の方が高いと思う。アタシたちはツイていただけ」


「ダンジョンが閉鎖されれば、この街はおしまいだね。引越し先を探さないとダメだよね。ミサちゃんもアタシと一緒に来たら。ジュンとサオリも一緒にさあ」


「アタイはさあ、冒険者として生きて冒険者として死ぬつもりなのよね。この両の手には血がいっぱい付いているからさ」


「何言っているの! アタシだってミサちゃん以上に血まみれだよ。ギルド長なんてアタシの倍は汚れているよ」


「アイツが行けば良いのにさあ」


「ギルド長が行ったら、国王陛下にお願いする人がいなくなるじゃん」


「人喰い鬼は牛よりも早く再生するし、ゴブリンは数千匹単位でいるよ。ミサちゃんは、そんなところを往復出来ると思っているの?」


「でもさ、アタイって一流の支援魔法使いだから、やってみたいかもなのよね」


「マスターにダメって言われると大丈夫って言いたくなるし……」


「ギルド長の思惑通りか。ミサちゃん、ソルドの下で働きなあ。ソルドの指示以外は聞かない。ソルドが死ねば即撤退ってギルド長に条件を出しな。それをギルド長が飲んだら参加しな、アタシは止めないよ」


「ありがとうマスター」


「ジュンとサオリ、そういうことだから、ミサちゃんが戻って来るのをエルフ様に祈りなよ」


「ミサさん、死なないで……」


「ううううう、ええええ、んんん」


 ジュンは何とか言葉になったけど、サオリは泣き声だった。


「生きて帰って来るから安心しな」

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