第四話 冒険者ロスのパーティ
「ミサ、応募してみない」
「この前、ノロマの魔女って追い出されたのに、マサカでしょう?」
「ミサがさあ、戻ってきてくれると僕、ロスから嫌がらせを受けなくてすむんだけどさあ……」
「どう言うこと?」
「僕ね、ミサがクビにされる前にさ、ロスに冒険者稼業をやめるって言ってたわけよ。知ってたあ?」
「知らなかったよ」
「でもって、パーティを抜けるのにどういう手続きがあるのか調べたんだよ。そしてわかったこと……」
「僕もミサも実は、二人ともロスの正式なパーティメンバーではなかったの」
「えっ、正式メンバーじゃないのに、なんで冒険者年金の掛け金を天引きされてたのよ」
「ロスの取り分になるからです」
「ギルドで確認したら、ミサも僕も年金未加入だって……」
「うわー、最悪だ」
「そして、ミサがクビになった本当の理由、ロスが命令したタイミングで、ロスに支援魔法を掛けないから。ミサはパーティ全体を見て必要なパートに支援魔法を掛ける癖があるからです」
「そうなんだあ……」
「それでですよ。ミサをクビしたロスさんは、自称支援魔法の達人にパーティに参加してもらったわけよ。達人さんには何はともあれ、一番最初に自分に支援魔法を掛けるようにって言ってね」
「だったら、アタイが戻る必要ってないじゃんよ」
「自称支援魔法の達人さんは口は上手いけど、実力はほぼゼロでした。ロスは焦ったね。僕は冒険者稼業を廃業するって言うし、支援魔法の使い手はいないしさ、それでもってハンスは犬に咬まれて療養するしでさ」
「それで、お前がやめるなら、ミサをパーティに戻せって言うわけよ。今さらだよね」
「でもさあ、元々ミサも僕もソロの冒険者なのにパーティに戻せって無理な相談なのに、そこは綺麗に忘れているのがロスの凄いところだよね」
「けど、アタイ、あちこちでノロマの魔女さんって言われているのに、そんなのアリなの!」
「今は牛を倒した最高の剣士様って言われてるから良いじゃない」
「アタイは剣士じゃないし、魔女だし」
「では、余談はこれくらいで、僕ね、来月からお食事どころの主人になるの。そのお店は会員制なのよ。これ、渡しておくね」
「お食事どころミハエル」
金属製のプレートをミハエルから貰った。
「ミサなら分かると思うけど、そのプレートには魔法が付与されている。それがないと僕のお店にはたどり着けないんだよ。ロスみたいなヤバい奴には来てほしくないからさ」
「ありがとう、ミハエル」
「ところでさあ、もう、ミサのとこにギルド長からの依頼は来てる? ロスのとこにさあ、ギルド長から依頼が来て、あのバカ有頂天になってんだけど」
「何? ギルド長の依頼って?」
「ダンジョンの調査だって、二十階層まで潜れっていう内容だよ」
「無理じゃん。まだ、ソルドの親方がやっと十八階層にたどり着いたばかりなのに、二十階層って無理、無理、絶対に無理」
「ギルドのダンジョン観測班によるとダンジョンの二十階層に異変が起こっているらしいからその調査だって……、牛を倒してしまったミサはその調査隊員に確定らしいよ」
「やだよ。マジ?」
「誰が言ったかは言えないけれど、確かな情報だよ」
「たかが、牛一頭屠っただけでなんでそんなヤバい依頼を受けないといけないのさ」
「ミサ、五年間もロスのパーティにいて一度も牛と出会わなかったって事を不思議に思わないの?」
「えっ、まあそういうこともあるかもだし……」
「パーティの進路は誰が指示していたのかなあ」
「ミハエル……」
「そう、僕がね、牛さんと出会わないようなルートを選んでいたから。ロスのパーティの実力だとね。ハンスは即死、カインは瞬殺。後はみんなで必死に逃げるしかないって思っていたんだ」
「もう一度言うね。僕が、パーティと牛さんとが遭遇しないルートを探していたの!」
「あ、ありがとうございます……」
「牛と遭遇して喜ぶのはソルドの親方のパーティぐらいだよ」
「へえ、牛ってそんなにヤバかったんだあ。びっくりだよ」
あの時、ジュンとサオリの表情が思い切りひきつっていたよね。でも、やはりあの距離では逃げられなかったし、第一、十階層にアレが出てくるはずがないって思い込んでいたから。まったく警戒していなかった。アタイのミスだ。
「じゃあ、ロスにはミサはあちこちのパーティから誘われて困っているって言っておくよ」
「ありがとう、ミハエル」
「大将、エールお代わり」
「おつまみは?」
「大将のお勧めでお願い」
「毎度ありがとうございます。ローストビーフ一丁」
◇
下宿に戻るとドアにメモが挟んであった。
明日、午後一時にギルド受付に来るようにと書いてあった。ミハエルの話通りなら私は調査隊員になってしまう。
絶対に断ろう。私には前人未到の領域に行く趣味はないから。それに、私って冒険者になって十年も経っていないし、やっと中堅冒険者になったばかりだから。
絶対に断るんだ。まだ死にたくないもの。
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