第三話 マスターとの出会い。
「ミサちゃん、あの二人どうかしたの? 最近暗いのだけど」
「ダンジョンで大けがした冒険者がいてさ、ポーションでも治らなくて、ダンジョンのお約束を見たせいだね」
「ダンジョンでケガして動けなくなったら、モンスターの餌になるしかないからさ」
「あの二人さ、アタイならなとか出来るだろうと思って、助けてあげてほしいって言ってきてね。アタイはは断ったんだよ。これがケガをした冒険者の末路だ。よく見ろっと言ってね……」
「もう助からないって言ってあげた方が良かったんじゃないの」
「アタイが一人だったら、これ以上苦しまないようにしたんだけど……」
「ジュンとサオリは優しい過ぎるんだ。この業界には向いてないよ」
「アタシから見れば、ミサちゃんも向いてないけどね」
◇
「初めて、アタシがミサちゃんに会ったのいつだったろうね? 買出しに出かけてうっかり、予定額より一桁多くメモしてて、ジャガイモを木箱で5箱買っちゃって」
「これを一人で持って帰るのはキツいなあって思っていたら、ミサちゃんが手伝いましょうか? って言ってくれてさ、」
「まあ、二箱くらい盗まれてもいいやって思って、頼んだら五箱全部持って、他に買物ないですか? って、アタシビックリしたよ」
「その後、マスターは予定通り店を回って、全部買出ししたのには、アタイの方がビックリしたけどさ。少しは遠慮しろよって」
「女の子が木箱を五箱を抱えて、マスターは買物袋なんだもの」
「良いじゃないの。それでアタシはミサちゃんのことを気に入ってこの店の会員証を渡したんだから。うちわ、滅多なお客は入れないの。アタシがこの人好きって言う人以外、お店には入れないの」
「未だにギルド長を会員にしないのはなんでなんですか? 同じパーティメンバーだったのに……」
「身近な存在過ぎて、来てほしくないのさ」
「そうだ、あんたを追い出したパーティのミハエルって子がさあ、あんたに会いたいって」
あのパーティの縁の下の力持ちがミハエル。脳筋が多いあのパーティで唯一の頭脳派。それを認めないロスはアタイとミハエルの取り分を減らしていた。
モンスターを釣り上げるのがミハエルの仕事で一番重要なのにさ。ミハエルも僕はいつも安全なところにいられるので、それで良いですって言うし。
アタイとミハエルは超お人好しだった。
「そのミハエルがアタイに会いたいってなんの用?」
「ミハエルは市場にいるから会ってみたら」
「ミハエルなら会っても良いかな。あの子、必ずエール奢ってくれるし……」
「ミサちゃん、飲み過ぎ注意だよ。とくにタダ酒はね」
「はーーい、マスター」
◇
とくに用はなかったけど、市場に来てみた。ジュンとサオリ用のポーションがそろそろ必要かなって思うし。
「ミサ、キノコ買ってくれないかい」
「えっ……、ミハエル何をしているのよ?」
「バイトだけど。それがどうしたの?」
「ええ、あんたダンジョンに潜らなくて良いの。今は狩りどきだよ」
「ハンスが下手をうって、大ケガではないけど、ダンジョンには入れないんだよ。ロスのパーティはただ今休業中です」
ハンスは剣士なのに打撃重視の筋力バカ。鋼の筋肉なので、ケガとは無縁な奴だったのに。
「うっかりミスだよ。ヘルドッグに咬まれて、ポーションを飲んだけど咬み傷からの出血が止まらなくてさ……」
出血している奴と一緒にはいたくはない。モンスターが途切れることなく襲ってくるから。
「ミサ、今日は暇?」
「僕、今日は午前中でバイトが終わるから、昼から飲みに行こうよ」
「暇、暇。この後は薬屋とそうだ、武器屋に行くしか用事がないし、午前中で終わる」
「じゃあ、お昼になったらここに来てね。待ってるよ」
◇
アタイは、薬屋で回復のポーションを買って、ジュンとサオリに鎖帷子を買った。これってモンスター用ではなく人間用だ。
十階層で、サオリは一度、マジで犯罪者のオッサン冒険者に襲われて危なかったし、同じ十階層でジュンも何度か拉致されかけている。
モンスターを狩るより、人間を狩る方が楽だし、安全だから。モンスターを狩らずに人間を狩る連中がダンジョンにはいる。最近そうした連中が十階層に増えた気がする。
二人には初撃を防いで逃げるようには言っている。二人ともまだ人間を殺ってないから、戦うのはダメだとも言っている。
冒険者っていつかは人殺しになる。その前に二人とも、冒険者稼業との縁は切らせたいのだけど……。
◇
「ミハエル、お待ちーー!」
「それじゃあ、いつもの酒場に行こうか?」
「アイツらいないよね?」
「さあね。ロスはあの店は出入り禁止だし。ハンスは療養中。カインとアベルの兄弟はあそこの常連」
カインは戦士。アベルは弓使いだ。二人とも一流の冒険者だと私は思っている。
ただ、カインとアベルはいつも兄弟喧嘩をしているので、やかましいのが問題だ。とくに二人ともお酒に弱いから飲むとすぐに喧嘩が始まる。で、二人そろって時間がきたら寝る。
時計の代わりになって良いのだけど、雰囲気が一時的に悪くなるので、私として迷惑なんだよね。
「大将、エール二つ」
「はいよ。おつまみに鳥の唐揚げはいかが?」
「鳥の唐揚げ二つ」
「毎度アリーー」
「お客さん、今日は少なくない? ミハエル」
「最近はこんなもんだよ。九階層までのモンスターは減ったし、強くなったから。みんな、僕と同じでバイトの掛け持ちをやってるんだよ」
冒険者がバイトの掛け持ちってもう冒険者じゃないじゃん。
「ロスのパーティ、支援魔法が使える人を急募中だったりするんだけど……」
「ふーーん」