第二十八話 迷宮
九十四階層から下には何もいない。ただ真っ暗で壁が一時間おきに動く迷宮だった。それに気付くまでかなり掛かった。
初めて来たはずの壁に印が付いていて、同じ場所をグルグル回っているのかと思ったら、回っているのは壁の方だった。
黒龍様が壁を破壊してみたけれど、けっこう簡単に壊れるけれど、修復するのは一瞬だった。
「奴も奴の親父も強くねえ。ただ、現実を書き換える能力があるので厄介だ。体力が回復したって言うだけで、さっきまでヘロヘロだった奴の親父は元気いっぱいになっていた。マジでキリがなかった」
「奴の親父はどこでもそのチート能力が発揮出来るが、奴はこの空間だけその現実を書き換え能力がある」
「それじゃあ、アタイたちは絶対に勝てないですよ!」
「その通りだ。まあ、勝つ必要はない。俺としては奴がここで反省して親父に謝ってくれればそれで良いだけだ」
突然頭の中に声が聞こえて来た。
「ヤダよ。私は悪くないのだから。一度この世界を壊してから計画的にバランスを保つ方が断然効率的だもの」
「バカ息子、どの道この世界は終わるのだから、それまで待ちゃあ良いだろう。俺もお前も世界が無くなって存在するのだから」
「父上の仕事は管轄するすべての世界のバランスをとる事。あんたみたいに世界樹の世話だけやいて終わるわけじゃない。あっちに飛んでこっちに飛んで忙し過ぎるよ。私はあんな仕事はしたくない」
「だったらこの空間に箱庭でも作って遊んでろう!」
「うるさいぞ、たかが龍の分際で」
「俺はお前のl親父と同時に生まれたんだぜ。坊や」
「……」
「龍も黒龍まで上がると世界の終わりをいくつも見る事になる。まあ、世界が終わってくれれば俺は寝られるので嬉しいがな。俺の後継者は後、数千年待たないって現れねえし」
「お疲れ様です」
「ありがとうよ……」
もうこの迷宮どうやっても出られないと何度も思ったけど、何とか九十八階層まで来た。でもドンドン難易度が上がってくる。壁は動くし、地面も動く、転移もさせられる。もうめちゃくちゃだ。
「黒龍様、どうします?」
「出られるさ、奴の準備が整えば、奴も待っている。退屈で退屈な日々を過ごしてきた奴が、やっと遊び相手が来てくれたのだから」
「それまで、アタイたちは待つのですか?」
「そう言うこと。ほら準備が整ったから正面の壁が消えて九十九階層の入口が開いた」
アタイたちの前に眩しいほどの光を放つ空間が現れた。アタイたちはその中に入った。
◇
「えっ、ここは外なの」
太陽が輝いている。花が一面に咲き誇っている。
「ここが奴の棲家だ。ここでは奴が神様だ。神様だから何でもありだ。奴がここにいる限り絶対者何だよ」
それってこのダンジョンにいる限りアタイたちは百パーセント負けるってことと同じ。アタイたちは何をしにここまで来たのかわからない。黒龍様もここでは全力は出せないって言うし。もうどうするのよ。
「おい、ミサ何をビビってんだよ!」
「アタイだけなら別に良いけど、子どもを二人も巻き添えにするなんて……」
「ミサさんの責任じゃあないよ、私たちが選んだ事だから、ねえ、ジュン」
「あっ俺たち仲間だからさ死ぬのも生きるのも一緒だから」
「バカ、アホ、間抜け。アタイはここから出られたら、もう冒険者なんかやめる。あんたたちもやめるんだよ」
「えええええ、それはないよ。俺たちまだ駆け出し冒険者で実績も何もないし……」
「神様の領域に入ったんだから、もう超上級冒険者になっているの」
「お前たち、戯れてないで、奴の棲家に行くぞ!」
はあ、黒龍様はマイペースだ。世界が終わっても存在出来るってそれって神様じゃんよ。アタイたちは簡単に死んじゃう儚い存在なのに。
アタイたちの気持ちなんて絶対わからない。というか黒龍様って人間を食っていたんだった。
「ほれ、あれが奴の棲家だ」
何あの真っ白な宮殿は。果てしなく続く建物。純白って言う色はこの色だって主張している気がする。
「奴はあそこにいつも一人だが、今日は堕天使も悪魔もたくさんいるみたいだ。ガキども一緒に来るならこの短剣をやるが、どうする。ここで待っていても良いんだぜ」
「私たちは行きます」
こう言う時、ピッしって言うのはいつもサオリだな。サオリがお姉さんでジュンが弟に見える。黒龍様が短剣を二人にそれぞれ投げた。
「この短剣、重さを感じない」
「ガキども、ミサから離れるなよ。堕天使も悪魔も床からも壁から出て来る。その短剣で奴らを倒す事は出来ないが追い払う事は出来る」
「ありがとうございます。黒龍様」
「ミサ、これは貸だぜ! 取立ては厳しいからな。それとだ、奴は自分が負けるって思ったら俺たちを亜空間に転移させて隔離するかもだ。覚悟しておけ。まあ俺はそこでこの世界が終わるまで寝かしてもらうがな」
オッサン、もしかしたら寝たいから、アタイたちをここまで連れて来たんじゃないのか! 最悪だよ。




