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第二十三話 黒龍様

「さてと、お前ら人間が何で龍の谷に入れた。いやその前にだ、どうやって黒の森を通れた。人間をあそこは絶対に通さない」


 神様の割に何か柄が悪い。


「黒龍様、聖者アクナイは黒の森を抜けました」


「アイツは人間じゃあねえし、ケモ耳族の戦士だぜ」


「まさか!」


「勝手に人間にされたらアクナイが怒るぞ」


 真実は知らない方が幸せみたい。


「ケモ耳族がどうして、人間のために龍の谷に来たのでしょうか?」


「人間の親友に頼まれたって言ってたぜ。親友の婚約者が龍の花嫁、生け贄として連れて行かれたので、儀式自体をなくしてほしいと頼まれたそうだ」


「貴族に頼まれた?」


「いや、狩人だ。貴族の娘とか王族の娘が生け贄にされるわけがあるかよ。農民やら狩人の娘を養女にして生け贄にしていた。俺がそんなことも知らないとでも思っているのか? その程度の信仰だわな」


「あのう、黒龍様」


「なんだエルフ、俺は世界樹を守りに行くから慌てるなよ」


「アタイは人間ですけど」


「お前からエルフの臭いがプンプンするけどな。お前がコイツらを引っ張って来たのか?」


「はい、そうです。それで龍の花嫁はどうなったのですか?」


「食った」


「食った。他に使い道がないから。食った」


 黒龍は邪神だわ。討伐対象にしないといけない。


「では、アンリエッタ王女はなぜ食べられていないのでしょうか?」


「俺たちは人間みたいなマズいもの、頼まれなければ食わねよ。人間に頼まれたから我慢して食ってやったんだから。文句があるなら人間を食ってくださいって頼んだ奴に言えよな!」


「エルフの様な人間、世界樹のとこに行くから、俺に乗れ」


「はっ、えっ、何?」


 ちょい悪おやじが漆黒の龍の姿に変わった。


「何って堕天使の馬鹿が世界樹を切り倒すんだろう。それはこの世界の破滅だわな」


「すみません。ちょっとお話についていけないのですが……」


「飛びながら、説明してやるから早く乗れ」


「アタイの他に二人乗っても良いですか?」


「構わねえけど、そいつらお前と違ってが守られてねえから落ちるかもよ」


「ジュン、サオリ行くよ!」


「はい、ミサさん」


 アタイたちは黒龍様の背中に乗った。


 黒龍様が飛び立とうした時に、黒龍様の足にしがみついた人間が一人いた。


「姫様……」セノン様が絶叫している。


 黒龍様はそのまま飛び立ってしまった。


「ミサさん……」


「あれを助けたいのか?」


「見捨てたくはないです」


 アタイは縄ばしごを下ろして、黒龍様の足首にしがみついているアンリエッタを抱き抱えて黒龍様の背中に乗せた。後は知らない。


「ミサさん、ありがとう」


下郎げろう私に気安く触れるな!」


「……」


「落としてやろうか!」


「ジュン、あなたのお父さんならたぶん許しているわ」


「サオリは優しいよなあ」


 二人は兄妹じゃないとわかってから、何か良い感じにしか思えない。羨ましい。


「お前ら膜に突っ込む。衝撃が来るぞ!」


 アタイたちは黒龍様の背中にしがみついた。


 ガーーン。


「ジュン、サオリ大丈夫?」


「俺たちは大丈夫だけど、あれが失神している」


 王女をまたあれ呼ばわりしているジュンはかなりご立腹の様だ。


「あれはどうなってる?」


 アタイもかなり頭にきているけど。


「失神してるけど、しっかり背中にしがみついている。凄い執念だよ」


 飛んでる間に説明すると言っていたけど、聞こえるのは黒龍様の鼻歌? だけだった。


 何かロッケンロールって聞こえた気がした。意味がわからないよ。



 エルフの里に着いた。


 あれは、黒龍様の背中に貼り付いているかの様に引き剥がすのが大変だった。何とか引き剥がして地面に寝かせた。


「どうするのアンリエッタ王女様を……」


 サオリのみ、あれをアンリエッタ王女と呼んでいる。本当に優しいだ。


「俺はエルフの長老のとこに行く。お前はどうするエルフの戦士」


「アタイはミサ、エルフの戦士ではありません」


「俺に名前を覚えてほしければ悪魔と堕天使と戦え。それじゃあなあ」


 黒龍様はちょい悪おやじの姿になって消えた。


「ジュン、あれをかつげ」


「やだよ」


 サオリがジュンを見つめた。


「わかったよ。でもまたあれが下郎って言ったら放り出すからな」


 アタイたちはアイラさんの家に向かった。


「こんにちは、ミサです。また来ました」


「お母さん、ミサお姉ちゃんだよ」


 百歳以上年上の人からお姉ちゃんと言われると変な気分になる。


「あのはミア」


「ふーーん、ミサにミアか、姉妹みたいだ」


 アイラさんが笑顔でやって来た。


「綺麗な人……」


 サオリがうっかり本当のことを言ってしまった。


 ジュンは、思春期真っ盛り状態で真っ赤になっている。


「こっちがサオリでこっちがジュンで……」


「ジュンちゃんが背負っているは?」


「このは黒龍様のところで巫女見習いをしているアンリエッタ、ちょっと口が悪いので許してください」


 サオリがアタイのフォローをしてくれた。ナイスフォローありがとう。


「フーータ」


 アタイたちの服が綺麗になった。


「アイラさんって綺麗で凄い」


 これまたサオリが心の声を声に出して言ってしまう。アイラさんがにっこり笑った。


「巫女見習いさんはベッドに寝かせてあげて」


「ミサさんは長老のところに行ってほしいの、悪魔たちがそろそろ世界樹にちょっかいを掛けそうなの」


「はい、了解です。アイラさん、ジュンとサオリと巫女見習いをよろしくお願いします」


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