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第二十話 黒龍山

 山道は随所ずいしょで落石で途切れている。アタイたちは大岩を乗り越えて進んでいる。後ろの冒険者さんが「こんな岩、発破をかければ登る必要なんてない。お前ら離れたいろ」って声が聞こえた。


「皆んな、アタイの側に来て!」


 アタイはシールドを張った。


 ドゴーーーーン。爆発音がした。しばらくの静寂の後、小石が転がる音がし始めた。


「落石だああーーーーーー!」


 この岩山は脆い。脆すぎる。少し強い風が吹いても崩れる。爆発音だと百パーセントの確率で崩れる。この落石事故? で六人の冒険者が亡くなった。


 出発した時は五十六名だったのが今は三十名になってしまった。


 山を登るに従って気温が下がって来た。


「寒い。季節はまだ秋だよね」


「ここは冬だが、たぶん反対側は真夏のはず」


「司祭様はこの山のこと、どうしてお詳しいのですか?」


「教会には聖人アクナイ様の言行録が保存されている。そこに黒の森、黒龍山、龍の谷について書かれていた。かなりかなり傷んでいるので一部しか読めないのだけどね」


「そうなんですか。アクナイ様という方は龍の谷に行かれたのですか」


「そう、国王陛下もアクナイ様が行くことが出来たのだから、お前たちも行けるだろうと……、アクナイ様は神の使者、聖人なのに、本当に無茶を仰る……」


 司祭様たちは静かに怒っていた。


 燃える石で、燃えない石を温めて布でくるんでカイロの代わりにして暖を取っている。アタイたちは山頂まで行ったら凍死するかもしれないなあ。何でアタイたちがこんな目に遭わないといけないのさ!


 落石で遅れた後続の冒険者さんを待っている。今日はここで野営だ。こんなことなら冬の装備を持ってくれば良かった。ここではまったく役に立たないドレスとかアクセサリーがアタイの荷物のかなりのスペースを占めている。


「はああ、もう嫌だ」


「ミサさん、龍の谷まで行けたら、帝国領を抜けて帰れるんですよね。頑張りましょう!」


「サオリ、ありがとう」


 サオリに励まされてしまった。アタイはリーダー失格だ。そう、龍の谷の向こう側には帝国の砦がある。人間の領域に戻れる。ちなみに冒険者は流浪の民扱いなので、金目の物を盗られても文句が言えない。その前に命が取られている可能性が高い。



「あのう、司祭様、どうしてこの山はこんなに脆いのでしょうか?」


「ああ、それはこの山が元々は龍のゴミ捨て場でお手洗いだからです。燃える石は龍の糞が石化したものだとアクナイ様の言行録に書いてありました。アクナイ様も黒龍様からその事を聞かされて、信仰していた山がゴミ捨て場でお手洗いだった事にかなりショックを受けておられた様です」


「この山は龍のゴミ捨て場……」


 この黒い石が龍の糞って、なんかヤダなあ。




 先頭を行く私たちには小石が落ちて来るくらいなのだけど、後続の冒険者には拳大こぶしだいの石が頻繁に落ちて来るので、魔術師がシールドを掛けまくって、かなり疲れていた。


 アタイたちは早めに野営をしたいのだけど、頭上に大岩があったりしてなかなか適当な野営地が見つからない。


「このまま、山頂まで強行軍する方が良いと思いますよ」


「司祭様、山頂はここより気温が低いのでは……」


「アクナイ様の言行録によれば、山頂が一番快適だったと記されていましたよ。信じましょう!」


 夕陽が沈んで行く。アタイたちはやっと山頂に着いた


 ヘロヘロ状態の魔術師さんたちも、自分たちのパーティメンバーの手を借りて何とか山頂にたどり着いていた。


「気持ちいい。眺めも良い」


「俺、しばらくここにいたい。空にはワイバーンが飛んでるし、それをドラゴンが食ってるし……」


「この山を降りたら、俺、ワイバーンか青龍の餌になる予感しかしないぜ……」


 この時間はドラゴンたちの夕食の時間のようで見たくもない現実をアタイたちは見せられている。マジで怖い。



「セノン、まさか私たちが黒龍山の山頂にまでたどり着けるとは思わなかったね」


「リベラ司祭様、私たちの龍語は通じるでしょうか?」


「さあね、アクナイ様を信じるしかない。とは言え千年も前の言葉だしね。どうだろうね……」


「セノン、この光景を目に焼き付けておきましょう。素晴らしいじゃないか」


「そうですね。リベラ司祭様」



 地面が温かい、寝転がっていたら眠てしまいそうだ。景色は雄大だし。ここがゴミ捨て場でお手洗いだったとはとても思えない。思いたくない。


「明日は休みにする。明後日あさってからは頑張ってもらいたい」


「司祭様、ありがとうございます」


 空にはこんなにたくさんの星が輝いているのかあ。アタイは地面に寝転がって満天の星空を眺めている。青い月と赤い月がこんなに近く見えるのは、なんか感動する。


 地面が温かいのが良い。これって大富豪のお屋敷にあると言う床暖房じゃないだろうか。皆んな地面に寝転がって空を見ていない。ほぼ全員が寝てる。


 アタイの隣でサオリが感動している。で、その隣でジュンが寝息をたてている。男たちにとって星空って見飽きているのだろうか?


「ミサさん」


「うん、なーーに」


「生きて帰ってマスターにこの星空の事をお話しましょうね」


「ああ、生きて帰ってマスターに話そう。きっと悔しがると思う……」


 マスターは美しいものが大好きだから。


 アタイたちはすでに龍、ドラゴンの生活領域に入っている。生きて帰れる保証はまったくないけれど、生きて帰ってみせる。最悪、ジュンとサオリだけでもだ。


 疲れが溜まっているようで、大半の人たちは昼過ぎに起きてきた。まあ、寝心地が良すぎるのが良くないのだけど。


 その翌日からは寒さで震えた登山から暑さでフラフラになる下山が待っていた。


「暑いよう。サラマンダーが火を噴いている。石が真っ赤に焼けているし、ここは灼熱地獄なのかあ……」

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