第二話 ミスリルの短剣
やっぱりおかしい。モンスターの数は減っている。でも強いし凶悪になっている。これまで絶対にその階層にいるはずのないモンスターがいる。しかも雑魚モンスターじゃあなく、学習能力があるモンスターばかりだ。これじゃあ、初心者、中堅冒険者が死ぬのは当たり前だ。
このダンジョンはアタイが知ってるダンジョンじゃなくなっている。
休みなしで十階層にやって来た。道中数頭のモンスターを屠ったが、ドロップしたのが外れアイテムの埴輪だったので、拾わずに来た。
まあ、埴輪もギルドの買取対象なので、五十ダルにはなる。五十ダルでエールが一杯が飲める。
ジュンとサオリは主に埴輪を集めていたようで、拾いたい雰囲気が出ていたけど、邪魔にしかならないので無視する。
「ジュン、短剣を見せて」
「はい」
「鉄剣だと、ここのモンスターは刺せない。間違いなく折れるので、これを貸す」
「ミスリルの短剣だ!」
「ミスリルの短剣に魔法が付与されているから切れ味は抜群。他の冒険者が、ジュンがこの短剣を持っているのを知ったら、必ずジュンを殺してでも盗む。それだけの価値ある短剣だ」
「とくにここは、盗賊の根城があるので要注意だよ、ジュン」
「うん……」
「この階層のモンスターは人間より利口だ。これまで戦った冒険者の戦い方を知っているからね。そのつもりでね」
「上下左右すべてに気を付ける。モンスターの居場所を先にアタイたちが見つければアタイたちの勝算が上がる。逆だと思い切り下がる。石ころ一つ蹴ったためにモグラに喰われた冒険者は多い。とくにここは地面からの襲撃に注意すること」
「質問は?」
「ありません」
「よろしい。それじゃあ進もうか」
カツン。ジュンが小石を蹴飛ばした。
「ジュン、先に歩け、アタイとサオリはここで待機する。サオリ、あの魔鳥を矢で落とせるか?」
「もう少し、低いところ、そうですね。あの木の高さなら落とせます」
アタイは、魔鳥の上の空気を重くした。サオリは魔鳥に向けて矢を放った。集中力が凄い。でも、矢を放つまでは誰かに守られないと、まったくの無防備だ。
矢は見事に魔鳥に突き刺さり、地面に落ちた。
ジュンはオドオドしながら先を歩いている。ミスリルの短剣がブルブル震えている。足元がお留守だ。
さて、モグラ君は魔鳥に行くか、ジュンを狙うか?
サオリが気付いた。「地面にモンスターが……」
「ジュンは気付いているか? サオリ」
「地面の下には注意がいっていません。周囲しか見ていません」
「ジュンが気付いていないようなら、モグラが地面から頭を出したら矢を放て!」
「はい」
サオリは弓を構えた。ジュンはそれを見て、ハッとして、立っていたところを飛び退いた。モグラが飛び出した。
「矢を放ちますか? ミサさん」
「あれは、ジュンの獲物だ。しばらく様子を見ようか」
「はい」
モグラは初撃さえ外せば、居場所はつかめる。相手が自分より弱いと思っているモグラは逃げない。ジュンはモグラよりも弱い。さて、どうするだろうか? 逃げ回っているだけではいずれやられる。
「ビビるなジュン。モグラが頭を出したら短剣で刺せ!」
「はい」
ジュンの動きが早くなった。モグラが出てくる所がわかったみたいだ。
ジュンがモグラの頭を刺したけれど、モグラの一番硬い部分。モグラは逃げ出した。
「ジュン、これからはモグラに気をつけな。アイツはお前の足音を覚えた。また襲ってくるから」
「ここのモンスターは、逃すと賢くなるので、他の冒険者がやられる。ジュンだけの問題ではないからね」
「すみません」
「そんじゃサオリが射落とした魔鳥を回収しますか? 何がドロップしているかな」
「ミサさん、サファイアです」
「ここまで来ると埴輪はないのか。上々だね」
私は腰の皮袋に小さなサファイアを入れた」
◇
「ヤバいなあ」
かなりのデカブツがこっちに向かって来ている。まさか、十五階層にたまに出てくるアレが、アタイも初めて出会うのだけど、もしかしたら詰んだかもだ。
「ジュン、サオリ、アタイの後ろに、早く!」
二人は慌てて私の後ろにまわった。
身長二メートルの牛型モンスターが鼻息も荒くアタイたちのところに突進してきた。
「ミサさん、ヤバいよ、あれってベテラン冒険者でも見かけたら、隠れると言うモンスターじゃないですか?」
「そうさ。アレは再生能力もあるし、首を落としても死なないの。本当に厄介なモンスターなんだよ」
「でもさ、ツノとか心臓とか肝臓とかさ、めっちゃ高値で売れる、レア中のレアモンスター。ちなみにご褒美のドロップはないらしい」
「ミサさん、アタシたち、逃げた方が良いと思います」
「もうね、逃げるタイミングは失っているし。この魔女さんの戦い方をよく見てお勉強してくださいね」
マントの隠しからミスリルの短剣を二振りを取り出した。自分に加速、超加速、超、超加速の魔法を掛けた。どこまでやれるかだよ。
アタイは真正面からモンスターに突撃、ぶっとい腕が私を襲う。
「とりゃーー」
気合い一声、ぶっとい両手首を切断。もう再生が始まっているよ。
「そりゃあー」
左足を切断、バランスを崩したモンスターの右足も切断。両腕も肩から切断をしてからの掛け声。
「おりゃあーー」
首を切断して、仰向けに倒れたモンスターの上に乗って腹部を開腹して、心臓を取り出す。これで再生は出来なくなった。
取り出した心臓はドライの魔法で干物に。肝臓と腎臓と胃はフリーズの魔法で冷凍保存にした。
ふうう、アタイはよく頑張ったよね。
「ねえ、ジュンとサオリ、これ食べる? たぶん美味しくはないと思うけど筋肉はつくよ」
「いいです。今はお腹いっぱいです」
「ミサさんて魔女ですよね。どうして剣士役が出来るのですか?」
「自分自身に支援魔法を掛ければ、剣士も出来るわけね。で、本当に食べないの? コイツを他のモンスターが食べると厄介なんだよね……」
「そうだ。お腹のこの辺の肉を切り取ってビーフジャーキーにしてっと。もう集まって来たね。早いなあ」
ハゲ鷹が何羽も牛の死骸の上を舞っている。
「ファイアボルト!」
牛型モンスターは綺麗さっぱり灰にしておく。
「ミサさんって支援魔法専門の魔女なんですよね?」
「そうだようーー」
ジュンとサオリがドン引きしているように見えるのはなぜだろう?
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